素材そのものに価値がある貨幣である。原始貨幣は狭い部族社会の中でし か通用しない貨幣であったが、貝殻や牙から米、牛などの食用品にいたる驚く ほど多数の素材が使われていた。 しかし、いずれも呪術的・儀式的存在としてあまり加工されることなく、自然のま まの素材が使われていた。素材という「物」自体にフェティッシュな価値があった わけである。鋳造貨幣(金属通貨)は政治的権力の刻印が記されているが、だ から価値があるというわけではなく、むしろ貴金属フェティシズムと金銀の希少 性という物自体の価値が支配的である。政治権力は単にそれを利用したにす ぎない。だからこそ、鋳造貨幣では非希少金属の混入比を上げるという、いわ ゆる悪貨鋳造が常に問題視されていたのである。 |
紙幣の時代が始まると、貨幣の本質的性格は「物」から「情報」へとシフトして いく。紙幣は当初、経済活動が活発になり鋳造貨幣だけでは足りなくなってき たため、その補助的存在である手形として生まれた。そして、紙幣は最初から 情報的存在であった。すなわち、人はある物を売り、その代金で別の物を買う。 この決済が銀行で行われると、実際に移動する貨幣は売り買い総額に対して 相殺された差額だけである。こうして、算術、すなわち情報処理が登場する。経 済活動の総量に対して少量の銀行券で済むことは、逆に考えれば流通貨幣 以上に経済活動をふくらますことができることを意味する。 さらに紙幣はもう一つ信用を創造する働きがある。元来紙幣は金属貨幣と兌 換であった。しかし、発行された紙幣が同時に全て金属貨幣と交換されること は事実上あり得ない。したがって、一定額の金準備があれば、その難波いも の貨幣を印刷することができる。中央銀行が信用を創造し、こうした信用創造 の働きで経済活動をさらに何倍にもふくらますことができるのである。これも典 型的な情報的性格である。 |
紙幣が金属通貨と兌換性を保って登場したように、電子マネーも現行通貨 の代替品として、それと共存する形で利用され始めている。地のままの金か ら鋳造された金貨へ、軽くなった金貨から兌換を保証された紙幣へ、兌換保 証を失った紙幣から電子マネーへと変遷していった。 |
日本では、95年秋から富士銀行がICカードを利用して、銀行カードに電子財布の働 |
きを兼ねさせる電子マネーの実験をはじめた。最初は東京・臨海副都心にあるテレ |
コムセンターというハイテクビル内だけだったが、その後、近くのビルにも広がった。 |
ビルの中に設置したICカード用のATMを使って、自分の口座から現金ではなく、電 |
子マネーをを引き出せる。引き出した電子マネーはICカードに入る。ICカードは電子 |
マネーの財布なのだ。電子マネーが少なくなれば、ATMから再び、電子マネーを引 |
き出せばよい。このようにICカードは何度でも使える。この電子マネーを持っていれ |
ば、ビルの中のレストランで食事をしてもコンビニで買い物をしても、レジでICカード |
を出せば、支払いが終わる。ジュースの自動販売機も利用できた。ICカードとデー |
タのやり取りができる「リーダ/ライター」という機器を組み込んだものであれば、レ |
ジでも自販機でも駐車場のような料金所でも、どこでも使える。 |
クレジットカードと違ってサインは不要。待たずに支払ができるの>が便利だ。プリ |
ペイドカードに似ているが、プリペイドカードは電話とか、JRとかに利用が限られ、 |
しかもカードの価値を再び充てんすることはできない。電子マネーの方がずいぶん |
を使い勝手が良いことが分かる。このICカードは銀行のキャッシュカードと大きさや |
厚さが同じ。表に縦横1cmあまりのICが埋め込まれている以外は、デザインも同じだ。 |
クローズド型 ...
利用できる端末はすべてホストコンピュータにつながっいる。電子マネーの真偽を確かめ |
その場で決済が終わり、利用する度に発行した組織にその電子マネーは戻る。 |
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オープン型 ...
カードのお金を他人に譲ることもできるなど現実のお金に近い使い方ができる。一度発行 |
されると、発行した銀行に電子マネーを戻す必要がなく、何度でも利用する事ができる。 |
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現在、利用されているICカード型は、お金の情報がデジタル信号の形でICのなかに入っ |
ているが、利用は現実の社会に限られ、通信ネットワークがつくり出すバーチャルワールド |
(仮想世界)では使えない。 |
インターネットのブームによって、オンラインショッピングで様々なものが買える時代になっ |
た。電話回線でつながっているネットワークの世界で、現実の社会と同じようにお金を使う |
機会は、今後いっそうふえていくだろう。しかし、その支払をどうするかが大きな問題となっ |
ている。インターネットを通じてクレジットカードの番号を送ったりすると、ハッカーなどにそ |
れを盗まれることがある。そうした問題を解決するために登場したのが、このネットワーク |
型の電子マネーだ。このタイプの電子マネーは、ネットワークのなかで通用するデジタル |
データのお金で、ICカードのように目に見える形ではない。ユーザーがオンラインショッピ |
ングをしたとき、このお金を電話で送れるような形になっているのだ。ただし、電子マネー |
もデジタル信号であり、ハッカーに盗まれる可能性は否定できず、安全性を高める暗号の |
開発も進められている。 |
1 | ICカードに入れて持ち運べるなら、現金輸送用のジュラルミンのケースは無くなってしまうかもしれない。 |
2 | 24時間営業のコンビニに代表されるように、防犯を考えると、現金を置か営業できるほうが良い。 |
3 | クレジットカードで、利用者が意外に意識していないのが、店がクレジット会社に払う手数料。販売額の3〜7%程度である。電子マネーと普通のお金の交換時には手数料を取られることになるかもしれないが、それはクレジットカードより格段に安いだろう。 |
4 | 電子マネーなら現金と同じように瞬時に取引が完了するので相手の信用を調べる必要がない。現金やクレジットよりも事務経費が安く、小額の取引にも使えるのが店側の大きなメリットだろう。 |
5 | お金のやりとり以外に、何の商品を買ったかといった情報を調べることもできる。これは、国が使えば犯罪の捜査や税務調査に利用できるだろう。 |
1 | インターネットの浸透で世界中のどことでも取引できるようになった。しかし、売買の契約や送金などに際して、常に「ハッカー」という、どこにいるかもわからない犯罪者に狙われるおそれがある。暗号の開発も進んではいるが、ネットワークの世界でも「絶対に」犯罪が行われるようなことはない、とは言い切れない。 |
2 | インターネット上での取引は、どの時点で成立したかの合意がない。商品やサービスの注文を出し、電子マネーを送って、商品(あるいはサービス)を受け取れば問題はないが、この途中でトラブルが起きた場合、どの時点なら誰が責任を負うべきなのか、わからない。 |
1 | 「いつ、誰が、どこで」利用したかをたどれる方法ほど、偽造に強く、マネーロンダリング(麻薬などの不正な取引で得た資金を金融機関に預金したのち、口座の移動などで、その出所や所有者をわからなくすること)などに用いられる可能性は少なくなる。電子マネーはデジタル情報なので、こうした情報を追加することは難しくないが、誰がその情報を管理するのか、管理者意外に見られたり、犯罪防止以外の目的に用いられないという保証はない。 |
2 | 安全性を高めるために暗号技術に頼れば、送る情報が多くなって通信速度が遅くなり、機器のコストも高くなって、電子マネーのメリットが失われる。 |