これまで財市場と貨幣市場を考察してきましたが,いよいよ両者
を統合して分析します.それがIS-LM分析です.財政金融政策が
現実の経済に与える効果を分析する際にIS-LMモデルを適用する
ことができます.
マクロ経済学入門のとりあえずの”ゴール”地点です.
【2015年6月15日更新】
IS曲線の導出[top]
IS曲線:財市場のモデルから導出されます.
IS曲線とは,財市場を均衡させる所得と利子率の
組み合わせであり,右下がりに描かれます.
なぜ右下がりになるのか,IS曲線が動く(シフト)のは
どのような場合かなどの理解がポイントです.
ポイントは,投資関数に利子率(r)が入っていることです.
利子率の低下は投資を増加させて需要を押し上げます.
財市場のモデル
財市場の均衡式 Y = C + I
+ G (1)
消費関数 C = Co + c Yd (2)
投資関数 I = Io - b r (3)
政府支出 G = Go (4)
税収 T = To + t Y (5)
可処分所得 Yd = Y - T (6)
(2)から(6)を(1)に代入して,Yとrについて整理すると
IS曲線が得られます.
(7)
あるいは
(8)
ここで,Ao=Co+Io+Go-cTo(自立的支出の合計)
(8)からrとYは右下がりの関係.
bはプラス,1-c(1-t)もプラス.
■IS曲線:図による説明
横軸に所得(Y),縦軸に利子率(r)をとります.
財市場の需要と供給を等しく(均衡)させる利子率と
所得の組み合わせを表した右下がりの曲線がIS曲線.
ISのIはInvestment(投資),SはSavings(貯蓄)であり
財市場であることを意味します.
IS曲線の性質
1.IS曲線は右下がり
(理由)利子率が低下 → 投資が増加 → 需要増加
→ 財市場で超過需要 → 意図しない在庫の減少
→ 生産計画を上方修正 → 生産増加(Y増加)
2.I S 曲線上のすべての点では財市場は均衡している.
3.需要の増加は I S 曲線を右方にシフトさせる.
(理由)支出(例えば消費)が増加 → 所得の増加 →
ある利子率の水準では所得は増加している →
新しいIS曲線は元のISの右側に移動している
4.需要の減少は I S 曲線を左方にシフトさせる.
(理由)支出(例えば消費)が減少 → 所得の減少 →
ある利子率の水準では所得は減少している →
新しいIS曲線は元のISの左側に移動している
(その他)
5.限界消費性向が大きいほど,利子率1単位の低下に対応した
所得の増加は大きくなり(45度線図参照)従って乗数が大きく
なるので,I S 曲線の傾きは水平に近くなります.
6.投資の利子率に対する感応度(b)が大きいほど,利子率の
低下に対応した投資の増加が大きくなるので(需要増加も大),
I S 曲線の傾きは水平に近くなります.
7.税率(t)が小さいほど,可処分所得の低下は少なく,乗数は
大きくなるので,I S 曲線の傾きは水平に近くなります.
8.I S 曲線の上側の領域は,財市場は超過供給
均衡点から利子率が上昇すると,投資需要は減少するので,財市場
は超過供給になります.
9.I S 曲線の下側の領域は,財市場は超過需要
均衡点から利子率が低下すると,投資需要は増加するので,
財市場は超過需要になります.
LM曲線の導出[top]
LM曲線:貨幣市場のモデルから導出されます.
LM 曲線とは,貨幣市場を均衡させる所得と利子率の
組み合わせであり,右上がりに描かれます.
なぜ右上がりになるのか,LM曲線が動く(シフト)のは
どのような場合かなどの理解がポイントです.
貨幣需要は,所得が増加すると増加し,
利子率が上昇すると,低下することがポイントです.
貨幣市場のモデル
貨幣市場の均衡式 M/P = L (9)
貨幣需要関数 L = kY - h r (10)
貨幣供給 M = Mo (11)
(10)と(11)を(9)に代入してYとrについて整理すると,
LM曲線が得られます.
(12)
あるいは
(13)
上式から,rとYは右上がりの関係(h,kはプラス).
■LM曲線:図による説明
横軸に所得(Y),縦軸に利子率(r)をとります.
貨幣市場の需要と供給を等しく(均衡)させる利子率と
所得の組み合わせを表した右上がりの曲線がLM曲線.
LはLiquidityで貨幣需要を,MはMoneyで貨幣供給を表し,
貨幣市場を意味します.
LM曲線の性質
1.LM 曲線は右上がり
(理由)利子率が上昇 → 投機的貨幣需要は減少
→貨幣市場で超過供給が発生
→超過供給が解消するためには(貨幣供給は固定だから)
所得が上昇して貨幣需要が増加する必要がある.
2.LM 曲線上ではすべて貨幣市場は均衡している.
3.貨幣供給量の増加はLM 曲線を右方にシフトさせる
(理由)所得は固定して,貨幣供給量を増加させる
→貨幣市場で超過供給→利子率が低下
→新しいLM曲線は元のLMの右下方に移動している
4.貨幣供給量の減少,あるいは貨幣需要の増加は
LM 曲線を左方にシフトさせる
(理由)所得は固定して,貨幣供給量を減少させる
→貨幣市場で超過需要→利子率が上昇
→新しいLM曲線は元のLMの左上方に移動している
(その他)
5.貨幣需要の所得感応度(k)が小さいほど,LM 曲線の
傾きは水平に近くなります.
所得の増加に対応して,貨幣需要の増加が小さいと,
貨幣需要関数のシフトが小さいので(利子率の変化が小さい),
大きな所得の変化と小さな利子率の変化が対応するので,
LM 曲線の傾きは緩やかになります.
6.貨幣需要の利子率感応度(h)が大きいほど,
LM 曲線の傾きは水平に近くなります.
利子率感応度が大きいと,利子率1単位の変化に対応して
貨幣需要の変化が大きいので,貨幣市場が均衡するためには
より一層の所得の変化が必要になります.
従って,LMの傾きは水平に近くなります.
7.LM 曲線の上側領域では,貨幣市場は超過供給
利子率が上昇 → 投機的貨幣需要減少
→ 供給量は固定だから,超過供給
8.LM 曲線の下側領域では,貨幣市場は超過需要
利子率が低下 → 投機的貨幣需要増加
→ 供給量は固定だから,超過需要
(ISとLMのまとめ)---------------------------------
財市場と貨幣市場での出来事とIS,LMを関連づけて
理解しよう.
1.財市場(C,I,G)のことはIS曲線
2.貨幣市場(L,M)のことはLM曲線
3.消費,投資,政府支出の増加はISを右方にシフトさせる.
4.消費,投資,政府支出の減少はISを左方にシフトさせる.
5.貨幣供給量の増加はLMを右方にシフトさせる.
6.貨幣供給量の減少はLMを左方にシフトさせる.
-------------------------------------------------------
財市場と貨幣市場の同時均衡[top]
IS 曲線とLM
曲線の交点で,財市場と貨幣市場を同時に
均衡させる所得と利子率の組み合わせが決まります.
それぞれ,均衡所得と均衡利子率と呼びます.
財市場と貨幣市場の同時均衡
ケータイ問題[top]
【問題1】IS曲線とLM曲線が上図のように示され
るとき,これについての記述として正しいのはどれか.
1 投資意欲が高まるとLM曲線が右にシフトし,
均衡所得は増大する.
2 貯蓄意欲が高まるとIS曲線が右にシフトし,
均衡所得は増大する.
3 流動性選好が高まるとLM曲線は左にシフトし,
均衡所得は減少する.
(ヒント)
IS曲線は財市場,LM曲線は貨幣市場を表す.
IS曲線とLM曲線が動くのはどのような場合かを考えること.
IS-LM図解付録[top]
IS曲線導出の図解
1.45度線図による初期均衡点Eoに対応する点を I S 図にとります
((Yo,ro)の点).【拡大図1】
2.利子率が低下したとします.
45度線図では利子率の低下により,切片の自立的支出が増加するので
総需要線が上方へシフトします.45度線図では新均衡はE1点になります.
【拡大図2】
3.E1に対応する点を下の I S 図に描きます.
E1は低下した利子率r1と増加した所得Y1に対応しています
((Y1,r1)の点).
4.EoとE1点を結ぶと,右下がりのIS 曲線が得られます.【拡大図3】
【アニメーション】
IS曲線の上側と下側の意味
支出増加とIS曲線のシフト
LM曲線導出の図解
1.左が貨幣市場の均衡図です.E1が初期均衡点.このときの
貨幣需要曲線には所得Y1が対応しています.
所得がY1,利子率がr1の均衡点E1に対応する点を右のLM 図に
1点とります.【拡大図1】
2.所得がY2 に増加したとします.
所得の増加により貨幣需要は増加するので,左図の貨幣需要
関数は右上方にシフトします.
均衡点はE2になります.これに対応する点をLM 図上にとります.
LM 図のE2がそれに対応します.【拡大図2】
3.右図でE1とE2を結んでできるのがLM 曲線.【拡大図3】
【アニメーション】
LM曲線の上側と下側の意味
貨幣供給量の増加とLM曲線のシフト