第13講 IS-LM分析

これまで財市場と貨幣市場を考察してきましたが,いよいよ両者
を統合して分析します.それがIS-LM分析です.財政金融政策が
現実の経済に与える効果を分析する際にIS-LMモデルを適用する
ことができます.

マクロ経済学入門のとりあえずの”ゴール”地点です.

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【2015年6月15日更新】


IS曲線の導出[top]

IS曲線:財市場のモデルから導出されます.
IS曲線とは,財市場を均衡させる所得と利子率の
組み合わせであり,
右下がりに描かれます.
なぜ右下がりになるのか,IS曲線が動く(シフト)のは
どのような場合かなどの理解がポイントです.

ポイントは,投資関数に利子率(r)が入っていることです.
利子率の低下は投資を増加させて需要を押し上げます.

財市場のモデル
財市場の均衡式 Y = C + I + G    (1)
消費関数    C = Co + c Yd    (2)
投資関数     I = Io - b r     (3)
政府支出    G = Go       (4)
税収      T = To + t Y    (5)
可処分所得   Yd = Y - T     (6)

(2)から(6)を(1)に代入して,Yとrについて整理すると
IS曲線が得られます.

  (7)

あるいは

        (8)

ここで,Ao=Co+Io+Go-cTo(自立的支出の合計)

(8)からrとYは右下がりの関係.
bはプラス,1-c(1-t)もプラス.

IS曲線:図による説明
横軸に所得(Y),縦軸に利子率(r)をとります.
財市場の需要と供給を等しく(均衡)させる利子率と
所得の組み合わせを表した右下がりの曲線がIS曲線

ISのIはInvestment(投資),SはSavings(貯蓄)であり
財市場であることを意味します.

IS曲線の性質
1.IS曲線は右下がり

(理由)利子率が低下 → 投資が増加 → 需要増加 
 → 財市場で超過需要 → 意図しない在庫の減少 
 → 生産計画を上方修正 → 生産増加(Y増加)
2.I S 曲線上のすべての点では財市場は均衡している.
3.需要の増加は I S 曲線を右方にシフトさせる.
(理由)支出(例えば消費)が増加 → 所得の増加 →
ある利子率の水準では所得は増加している →
新しいIS曲線は元のISの右側に移動している
4.需要の減少は I S 曲線を左方にシフトさせる.
(理由)支出(例えば消費)が減少 → 所得の減少 →
ある利子率の水準では所得は減少している →
新しいIS曲線は元のISの左側に移動している

(その他)
5.限界消費性向が大きいほど,利子率1単位の低下に対応した
  所得の増加は大きくなり(45度線図参照)従って乗数が大きく
  なるので,I S 曲線の傾きは水平に近くなります.
6.投資の利子率に対する感応度()が大きいほど,利子率の
  低下に対応した投資の増加が大きくなるので(需要増加も大),
  I S 曲線の傾きは水平に近くなります.
7.税率()が小さいほど,可処分所得の低下は少なく,乗数は
  大きくなるので,I S 曲線の傾きは水平に近くなります.
8.I S 曲線の上側の領域は,財市場は超過供給
  均衡点から利子率が上昇すると,投資需要は減少するので,財市場
  は超過供給になります.
9.I S 曲線の下側の領域は,財市場は超過需要
  均衡点から利子率が低下すると,投資需要は増加するので,
  財市場は超過需要になります.

  

LM曲線の導出[top]

LM曲線:貨幣市場のモデルから導出されます.
LM 曲線とは,貨幣市場を均衡させる所得と利子率の
組み合わせであり,
右上がりに描かれます.
なぜ右上がりになるのか,LM曲線が動く(シフト)のは
どのような場合かなどの理解がポイントです.

貨幣需要は,所得が増加すると増加し,
利子率が上昇すると,低下することがポイントです.

貨幣市場のモデル
貨幣市場の均衡式 M/P = L    (9)
貨幣需要関数   L = kY - h r  (10)
貨幣供給      M = Mo   (11)

(10)と(11)を(9)に代入してYとrについて整理すると,
LM曲線が得られます.

           (12)

あるいは

     (13)

上式から,rとYは右上がりの関係(h,kはプラス).

LM曲線:図による説明
横軸に所得(Y),縦軸に利子率(r)をとります.
貨幣市場の需要と供給を等しく(均衡)させる利子率と
所得の組み合わせを表した右上がりの曲線がLM曲線.

LはLiquidityで貨幣需要を,MはMoneyで貨幣供給を表し,
貨幣市場を意味します.

LM曲線の性質
1.LM 曲線は右上がり

(理由)利子率が上昇 → 投機的貨幣需要は減少 
→貨幣市場で超過供給が発生 
→超過供給が解消するためには(貨幣供給は固定だから)
 所得が上昇して貨幣需要が増加する必要がある.
2.LM 曲線上ではすべて貨幣市場は均衡している.
3.貨幣供給量の増加はLM 曲線を右方にシフトさせる
(理由)所得は固定して,貨幣供給量を増加させる
→貨幣市場で超過供給→利子率が低下
→新しいLM曲線は元のLMの右下方に移動している
4.貨幣供給量の減少,あるいは貨幣需要の増加は
  LM 曲線を左方にシフトさせる
(理由)所得は固定して,貨幣供給量を減少させる
→貨幣市場で超過需要→利子率が上昇
→新しいLM曲線は元のLMの左上方に移動している

(その他)
5.貨幣需要の所得感応度()が小さいほど,LM 曲線の
  傾きは水平に近くなります.
  所得の増加に対応して,貨幣需要の増加が小さいと,
  貨幣需要関数のシフトが小さいので(利子率の変化が小さい),
  大きな所得の変化と小さな利子率の変化が対応するので,
  LM 曲線の傾きは緩やかになります.
6.貨幣需要の利子率感応度()が大きいほど,
  LM 曲線の傾きは水平に近くなります.
  利子率感応度が大きいと,利子率1単位の変化に対応して
  貨幣需要の変化が大きいので,貨幣市場が均衡するためには
  より一層の所得の変化が必要になります.
  従って,LMの傾きは水平に近くなります.
7.LM 曲線の上側領域では,貨幣市場は超過供給
  利子率が上昇 → 投機的貨幣需要減少 
  → 供給量は固定だから,超過供給
8.LM 曲線の下側領域では,貨幣市場は超過需要
  利子率が低下 → 投機的貨幣需要増加 
  → 供給量は固定だから,超過需要


(ISとLMのまとめ)---------------------------------
財市場と貨幣市場での出来事とIS,LMを関連づけて
理解しよう.
1.財市場(C,I,G)のことはIS曲線
2.貨幣市場(L,M)のことはLM曲線
3.消費,投資,政府支出の増加はISを右方にシフトさせる.
4.消費,投資,政府支出の減少はISを左方にシフトさせる.
5.貨幣供給量の増加はLMを右方にシフトさせる.
6.貨幣供給量の減少はLMを左方にシフトさせる.
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財市場と貨幣市場の同時均衡[top]

IS 曲線とLM 曲線の交点で,財市場と貨幣市場を同時に
均衡させる所得と利子率の組み合わせが決まります.
それぞれ,均衡所得均衡利子率と呼びます.

         財市場と貨幣市場の同時均衡


ケータイ問題[top]

【問題1】IS曲線とLM曲線が上図のように示され
るとき,これについての記述として正しいのはどれか.

1 投資意欲が高まるとLM曲線が右にシフトし,
  均衡所得は増大する.
2 貯蓄意欲が高まるとIS曲線が右にシフトし,
  均衡所得は増大する.
3 流動性選好が高まるとLM曲線は左にシフトし,
  均衡所得は減少する.

(ヒント)
IS曲線は財市場,LM曲線は貨幣市場を表す.
IS曲線とLM曲線が動くのはどのような場合かを考えること.

IS-LM図解付録[top]

IS曲線導出の図解

1.45度線図による初期均衡点Eoに対応する点を I S 図にとります
  ((Yoro)の点).【拡大図1】
2.利子率が低下したとします.
45度線図では利子率の低下により,切片の自立的支出が増加するので
総需要線が上方へシフトします.45度線図では新均衡はE1点になります.
  【拡大図2】
3.E1に対応する点を下の I S 図に描きます.
E1は低下した利子率r1と増加した所得Y1に対応しています
  ((Y1r1)の点).
4.EoとE1点を結ぶと,右下がりのIS 曲線が得られます.【拡大図3】
  【アニメーション】

IS曲線の上側と下側の意味

支出増加とIS曲線のシフト

LM曲線導出の図解

1.左が貨幣市場の均衡図です.E1が初期均衡点.このときの
  貨幣需要曲線には所得Y1が対応しています.
  所得がY1,利子率がr1の均衡点E1に対応する点を右のLM 図に
  1点とります.【拡大図1】
2.所得がY2 に増加したとします.
  所得の増加により貨幣需要は増加するので,左図の貨幣需要
  関数は右上方にシフトします.
  均衡点はE2になります.これに対応する点をLM 図上にとります.
  LM 図のE2がそれに対応します.【拡大図2】
3.右図でE1とE2を結んでできるのがLM 曲線.【拡大図3】
  【アニメーション】

LM曲線の上側と下側の意味

貨幣供給量の増加とLM曲線のシフト

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(c) Shigeru Sasayama, Kumamoto Gakuen University