新潟キャノテック製ドライバとの比較
2002年11月18日、新潟キャノテックから、同社製NetHawkケーブル/サーバ接続用Canon製レーザー・プリンタ・ドライバ、NetHawk Mac OS X Driver Ver.10.1がリリースされた。私の使用しているLBP 850もようやくサポート対象となったので、早速インストールし、その印刷結果をgs経由の場合と簡単に比較してみたので、その概要を報告しておこう。なお、テストしたのはTeXのDVIファイルからdvipdfmで変換して得た縦組PDFファイルのAcrobatReader 5.1(Carbon)からの印刷、および横組RTFのTextEdit(Cocoa)からの印刷、いずれも画像を含まぬテキスト・オンリー、モノクロのファイルである。よって画像を含むファイルやカラー・ファイルの場合には、結果が大きく異なってくる可能性があることを断っておきたい。また、キャノテック製ドライバ・gsともに、600dpi(ファイン・モード)で比較を行った。
PDFの印刷
検証の前提−フォントの相違−
以前述べたように、フォントを埋め込んだPDFをAcrobatReaderで印刷すると、gsのpdfwriteの不具合により、縦組のメトリックが大きく乱れて印刷されてしまう。このため今回の試験は、フォントを埋め込まずに明朝はRyumin-Light・ゴシックは中ゴシック-BBBのPSフォント名のみを指定したファイルで行っている。このような場合AcrobatReader 5.1では、明朝はヒラギノ明朝-W3、ゴシックはヒラギノ角ゴシック-W5に置き換えて表示する。これらは印刷時には、キャノテック製ドライバでは表示フォントのまま印刷されるのに対し、gs経由ではAcrobatReaderがフォント名のみでフォントのグリフは埋め込んでいないPSデータを出力し、これをgsが、自身が使うように設定されているフォント(本パッケージのデフォルトの場合、東風明朝・ゴシックのTTF/CID)に置き換えて印刷する。よって両者では印刷物の字形が異なることになる。
印刷品位
キャノテック製ドライバでは、非イメージモードとイメージモードの、2種の印刷モードが用意されており、私がインストールした限りデフォルトはイメージモードとなっていた。マニュアルによれば、“イメージモードでは罫線等のズレが防げる”ということであるから、おそらくこちらは文字・罫線・画像といったすべてのデータを、ページ単位の一枚の画像データとして扱うものなのであろう。このため、両モードを比較すると、フォントの印刷品位は明らかにイメージモードのほうが劣っている。なお、非イメージモードには“文字印刷をより奇麗にするため”のWingTypeというオプションもあったが、このチェックの有無で目に見えるような印刷品位の改善は感じられなかった。また、gsとの比較であるが、AcrobatReaderからのPDFの印刷に関しては、以前EPSON製ドライバで指摘されていたのと同様に、明らかにgsでの印刷のほうが高品位であると感じられた。その原因については推測になってしまうが、AcrobatReaderが印刷用にPSデータを吐き出すことに関係しているのだと思う。このPSデータはプリンタに渡されるまでの間に何度かPDF/PS間の相互変換を経ることになり、これがフォントを埋め込んだPDFの場合、印刷結果に不具合をもたらすことにもなるのだが、とはいえ、基本的にはCUPS-gsと親和性の高いPS/PDFデータが送り込まれていることは無視できない。一方、キャノテック製ドライバはMacOSX 10.1.x/10.2.xのいずれでも動くように作られているものであり、OSXの両ヴァージョン間でプリント・メカニズムに大きな変更があったことを想起するならば、必ずしも10.2.xのメカニズムに対して最適化されたものにはなっていないのではないか? この点はEPSONのドライバも同様であろう。よってメーカー製ドライバが両ヴァージョンのOSを同一ヴァージョンでサポートしている間は、AcrobatReaderからPDFを(および、同様のPSコードを吐き出すAdobeのアプリケーションで)印刷するのに限っては、gs経由のほうが、より高品位な結果を得られるということになろう。ただしその場合、表示フォントと印刷フォントが一致せず、印刷フォントはgsの設定に依存することになる。
印刷速度とgsのフォント
印刷速度に関しては、gs経由のほうが明らかに速いという結果になった。また、gsでの印刷速度は、gsが使用するフォントにも依存するようである。gs 7.05ではMacOSで伝統的に使われてきたリソースフォーク・フォントを用いることができないため、字形の描画のためにWindows/UNIX用のCID/TrueTypeフォントを入手し設定せねばならない。そこで本パッケージではフリーで配布されている東風明朝・ゴシックのCID/TrueType両版をパッケージングし、用途に応じて設定を切り替えられるようにしてある。そしてpdfwriteデバイスでPSファイルをPDFに変換する場合、東風のTrueType版(および、多くのTrueTypeフォント)では、縦組時に大きくメトリックが乱れるという問題があるため、もともとはTeXでの(E)PS→PDF変換用に作成された本パッケージでは、この問題のないCIDフォントのほうの使用を推奨していた。ただしOSX 10.1.xの頃は、OSのPDF描画のバグのせいで、CIDフォントを埋め込んだPDFをプレビューで表示するとハングアップするという問題があったため、両版を含み切り替えられるようにした、という経緯があった。ところが、lips4デバイスによる印刷(他のデバイスでの印刷結果は未確認)の場合には、TrueTypeでもメトリックの乱れは生じず、むしろこちらのほうが字間等が適切に処理されていることが判明した。そこで今後は、印刷時にはTrueTypeのほうを試してみていただきたい。
そこで試みに、手持ちの幾つかのフォントで検証を行っている最中であるが、LBP 850に付属していたWindows用平成明朝・ゴシックTrueType(.ttcフォント)では、きちんと実測したわけではないが東風よりもやや印刷速度が速いように感じられた。これは、いくら東風がフリーのフォントとしては驚くべき高品位のものであるとはいえ、失礼ながら商用フォントにくらべると内部構造等にいくばくかの無駄があって、それが速度に反映するということなのかもしれない。なお、このフォントの場合、TrueTypeであるにも拘わらず、pdfwriteでもメトリックの乱れが生じなかったことも付記しておこう。この種のフォントは大抵のレーザー・プリンタには付属しているだろうし、Macで使ったからとてライセンス違反になるということもないであろう(一応は、各自使用許諾書を確認していただきたい)から、一度試されてみてもよいだろう。ただし多数のフォントを含む安価なパッケージ商品の場合、仕様上は必要とされている何らかの定義が省かれていることもあるようで、このようなものはgsでは使えずエラーとなるので注意されたい。
TextEditでのRTF
TextEditをはじめとする大抵のアプリケーションでは、AcrobatReaderと異なり、CUPS-gsドライバでもフォントを埋め込んだPS/PDFデータが吐き出され、gsのフォントが使われることはないため、字形に関してはキャノテック製ドライバとの相違はない。ただし印字結果の濃さといった“性質”には、両者では若干の違いがある。その点を度外視した場合、gsとキャノテック・ドライバの非イメージモードの品位は同等、イメージモードではやや劣る、といったところであった。ただし私の環境では、キャノテック非イメージモードでは残念ながら、丸囲み数字の丸部分や、“)”の横方向中央が、やや潰れて印刷されるという結果となった。また、速度に関しても、AcrobatReaderの場合程ではないが、両者で同等か、もしかしたらgsのほうがやや速いか、という結果となっている。
小括
このように、モノクロ・ファイルに限っては、キャノテック製ドライバが品位・速度ともにgsに対してとりたてて優れているわけではなく、むしろ場合によってはgsのほうがよい結果を得られることとなった。ただしCUPS-gs経由では、カラー・ファイルの印刷に膨大な時間がかかってしまうという弱点も報告されているため、当面は両者を適宜使い分けるのが賢明なのかもしれない。また、和文フォントが埋め込まれた、特に縦組PDFについては、現状ではCUPS-gsでは適切な印刷結果が得られないため、キャノテック製ドライバでAcrobatReaderから印刷するか、キャノテック製・gsいずれにせよプレビューから印刷するかになってしまう。ただし私の環境では、OSXを10.2.2にアップデートした後、プレビューの動作が以前にも増して重くなり、キャノテック製ドライバ・gsを問わず、印刷に双方大差のない膨大な時間がかかってしまう。また、gs経由でAcrobatReaderから「画像としてプリント」を選ぶ方法も、データ量が膨大になるため実用には適さない。よってやや品位が劣るものの、キャノテック製ドライバを用いAcrobatReaderで印刷するというのが、当面はこの場合の最良の選択肢になるのではないだろうか。
【2002年12月17日追記】
欧文TeX用の統合環境であり、pTeXでも使用できるように調整されているTeXShopでは、PDFに自動変換したDVIファイルを開くためにプレビュー.appと同じAPIが用いられており、これはTeXとは関係ない通常のPDFも開けるようになっている。そしてプレビュー.appと同じAPIであるにも拘わらず、PDFを開くことに特化しているためか、プレビュー.appとくらべて格段に速い実用的な印刷速度を得ることができる。そこで和文フォントが埋め込まれたPDFを印刷する場合には、TeXShopからgs-CUPS経由で印刷するのが最も高品位かつ実用的であるように思われる。なお、TeXShopは欧文アプリだが、銭谷誠司氏によってメニューが日本語化されたものも配布されている。現在、TeXShopの日本語化に関してはpTeXでの使い勝手の向上も含め、本家へのフィードバックを念頭においた試みが続けられており、これらの成果は将来的には本家に一本化されることが期待されている。
【2002年12月23日追記】
プレビュー.appでの印刷が極端に遅い問題は、MacOS X 10.2.3アップデートによって改善されたようである。