村野 祐太郎
Yutaro MURANO
近年,我が国においてはモータリゼーションの進展により,自動車の保有台数は急激に増加した.これに伴い公共交通機関の分担率は下落する一方であり,この傾向は地方都市圏においてより鮮明である.また,利用者の減少に伴うバス事業者への補助金額の増加は,自治体の財政悪化を招いている.このような状況の中で,公営バス事業の民営化は公共交通機関の存続と補助金額の削減を同時に達成できる有効な手法である.本研究では,熊本県荒尾市における荒尾市営バスの民営化を対象事例とし,公営バス事業の民営化の事後評価を行う.
KeyWords:person trip investigation, private bus company,privatization, public management bus, travel demand modeling
我が国においては,自動車の普及が1960年代初頭から急激に進展した.1960年の国民1000人あたりの自動車数は,14.5台であったが,2005年には,592.4台となっている.このモータリゼーションのために,公共交通機関の利用者は,1960年代後半の年間100億人をピークに2008年には43億人まで減少しており,特に地方都市圏においてはその傾向はより顕著であり,事業者の経営環境は極めて悪く,その存続が危ぶまれている.公共交通機関利用者の減少による収支の悪化は自治体から事業者への補助金額の増加の原因となっており,自治体の財政までも悪化させている.しかし,今後の少子高齢化社会を迎えるにあたり,公共交通機関は高齢者などの交通弱者にとって重要な移動手段であり,公共交通機関を存続させ,利便性の向上を図ることが求められている.公営交通事業者を有する自治体にとって,これらの課題を解決する有効な選択肢の1つとして,公営交通事業者の民営化がある.公営交通事業者の民営化により,自治体から事業者への補助金額を削減すると同時に公共交通機関の存続と効率的な運行を図ることが可能である.
熊本県荒尾市においても,交通事業者への補助金額の増加は財政上の重要な課題となっていた.荒尾市は高齢化率25%以上の超高齢化状態にあり,公共交通機関の果たすべき役割は極めて大きい.荒尾市では,市営バスの運行により増加する一方の補助金額を削減するために,2004年から2年をかけ,2005年4月1日に全路線を九州産交バスへ移譲した.しかし,民営化後の運行路線決定権は九州産交バスにあるため,民営化から3年半後の2008年10月1日に,九州産交バスは荒尾市内で路線再編を実施した.
本研究では,熊本県荒尾市における荒尾市営バスから九州産交バスへの民営化を対象事例とし,バス事業の経営状態の分析,市民の公共交通機関への意識の把握,民営化後の路線再編に伴う交通行動の変化の分析を行い,公営バス事業の民営化の総合的評価を行うことを目標とする.本研究では,民営化直後に実施された2005ミニPT調査(2005年11月16日実施)と比較分析を行うため,路線再編後に独自の2009ミニPT調査(2009年9月9日実施)を実施した.まず,この2つのミニPT調査のデータを用いて,原単位や交通手段毎の利用状況などについて分析する.次に,4段階推計法では,各段階におけるモデルの説明変数の変化などを分析し,交通行動に影響を与える要因を分析する.さらに,2009ミニPT調査と同時に実施した付帯調査を分析することにより,市民の公共交通機関に対する意識を分析する.これらの分析を行うことにより,荒尾市における公営バス事業の民営化の総合的評価を行うものとする.