郊外居住者におけるまちなか居住選好セグメントの分離とその特性分析

Separation and characteristic analysis of segment that prefer living in city center in suburb residents

内添 啓太
Keita UCHIZOE

 近年,地方都市ではモータリゼーションの進行や郊外大型商業施設の出現などを背景に都市の郊外化が生じている.それにより,中心市街地では商業の衰退や定住人口の減少,地域コミュニティの活力低下など,経済的・社会的な課題が生じている.そのような現状に対し,まちなか居住の推進は地域産業の活性化,中心市街地の空洞化の抑制など,今後の人口減少を見据えた持続的なまちづくりへの効果が期待される .本研究では潜在クラスモデルによりまちなか居住を実現する可能性の高いターゲットを抽出し,その特性を分析することにより,効率的なまちなか居住推進の方向性を明らかにすることを目的とする.

KeyWords:covariance structure analysis, EM algorithm, habitant in city center, incorporating latent class, Kumamoto

 

 地方都市において,人口減少やモータリゼーションの進行,郊外大型商業施設の出現に伴って都心部の空洞化,中心市街地の衰退,コミュニティの喪失等が社会問題化している.これらの問題を解決して中心市街地を活性化させる施策の一つとしてまちなか居住の推進を挙げている自治体が多く見られる.熊本市も「地域性を生かした住まいづくり」のための施策の一つとしてまちなか居住を挙げている.
 今後の人口減少が見込まれる中で郊外化による社会基盤整備費の増加は非効率的であり,まちなか居住の推進は地方都市の都市経営や経済を維持するためにも有効な手段であると考えられる.しかし,何よりも重要なのは,多様な住み方の選択肢にまちなか居住が位置づけられることである.かつては,まちなかでの魅力的な住み方があったはずであるが,車社会の浸透や大型ショッピングセンターの出店,安くて広い住宅への要求から郊外化が進行し,まちなかでの生活はそのスタイルが見えなくなっている.そこで重要になってくるのが,多様なライフスタイルがまちなかで実現できるように,居住環境を整えるということである.
 近年のまちなか居住に関する研究には,「地方都市における街なか居住の現状と推進方策に関する研究」として,青森県八戸を事例に地方都市における郊外住宅団地の居住者を対象とした住み替え意向を明らかにするものや,「長野市中心市街地におけるマンション立地に関する研究」としてマンションの土地利用の実態や住み替えと職住近接の関係を明らかにすることで,まちなか居住におけるマンション立地の有用性・あり方を検討するものがある.
 これらのまちなか居住に関する研究は大別して,①その必要性,有効性を検証するもの,②まちなか居住者の属性,居住理由,居住意識,定住意向,居住実態等から,まちなか居住の可能性や環境整備上の計画課題を検討するもの,③まちなか居住の促進を意図した各種制度の効果を検証し,新たな制度提案に結び付けようとするものなどがある.住み替えと職住近接の関係を明らかにするものなどが挙げられる.③ではまちなか居住者の動向や居住意識から中心市街地のマンションによるまちなか居住のニーズを検証するものなどが挙げられる.本研究では②と③について,より発展した分析を行う.
 本論文では,まず熊本市中心市街地と郊外における人口動態を把握するとともに,「まちなか居住環境に関する意識調査」によって得られたデータをよりまちなか居住者・郊外居住者の実態, 両地域居住者のまちなか居住に対する意向を把握する.続いて,潜在クラスモデルによる居住地選択モデルを構築し,まちなか居住者および郊外居住者を「まちなか志向」と「郊外志向」に大別する.さらに,郊外居住の両志向者ごとの居住環境,転居理由,周辺環境に対する満足度評価などの違いや周辺環境整備に対する意識構造を明らかにすることによって,まちなか居住を促進するための居住環境整備のあり方を分析し, まちなか居住推進のための施策を見出すことを目的とする.