銀座通りにおける有料駐輪場整備効果の
マルチエージェントシミュレーション分析

Bicycle Parking Policy Analysis in Ginza Street by using Multi-agent Simulation method

蒲生 涼太
Ryota GAMOU

 近年,放置自転車の増加が景観の悪化や交通の阻害など様々な問題を引き起こしている.このような問題を解決する手段として,有料路上駐輪場の整備がある.本研究では,有料路上駐輪場の整備にどれほどの効果があるのか,Multi Agent Simulationを用いて検証を行った.また,どの場所に有料駐輪場を設置するのが良いのかを検証した.駐輪料金や駐輪場台数,行政との連携などを考慮した上で銀座通りを対象地としてシミュレーションを行った結果について述べる.

KeyWords:Artisoc, illegally parked bicycle, Multi Agent Simulation,, municipal parking, toll parking

 

 近年,放置自転車の増加は通行の妨げや交通事故の誘発などの交通の問題を引き起こすばかりでなく,景観の悪化や,アメニティの低下などのまちの魅力を損なう原因にもなりかねないなど直接的,間接的に様々な問題を引き起こしている.そのため,各地方自治体は撤去作業に膨大な予算を費やすことになるが,その予算にも限界があることや,撤去自転車の保管場所にも制約があることを考えると,撤去作業を毎日すべての場所で行うことはできない.また,このような理由の他に,駐輪場自体が不足していることや公営の屋内駐輪場の多くは駐輪可能時間に制限を設けていることなどをかんがみると,自転車利用者としてみれば,撤去されるリスクを認識しつつも,目的地に近い自転車放置禁止区域に駐輪することも考えてしまう.このように駐輪場利用者や行政の考えが相互作用しながら,駐輪場が利用されている.そのため,最終的に得られた結果から,「なぜこのような結果になったのか」を演繹的に解明することはなかなか困難である.
 このような現象に対して,MASは予め全体像を定めるのではなく,各エージェントの個別の行動から帰納的に社会を分析する方法を提供するものであるため,駐輪場需要予測には最適である.
 本研究の対象地である熊本市の銀座通りでは,1987年に熊本県警が,熊本,八代両市に130台分パーキングメーターを設置したが,近年,民間駐車場の増加などにより利用者が激減した.その後,熊本市の銀座通りでは,跡地を活用した街づくり案が浮上し,熊本市は平成19年に「銀座通り歩行空間整備事業」としてたちあげ,平成21年6月には銀座通りの23基を最後に撤去完了した.その後,平成21年12月には,銀座通り繁栄会は独自で銀座通り整備計画に関する要望書を熊本市に提出した.
 銀座通りの現状としては,歩道上に放置駐輪や看板,花壇やベンチなどのストリートファニチャーが混在している.その中でも駐輪状況は,駐輪施設がないにもかかわらず,多くの放置駐輪が並ぶ状況になっている.このような状況では,熊本市中心街の中でも中心に位置する銀座通りでは,人通りが多いためとても危険である.実際に,2010年9月17日に銀座通り実態調査として,銀座通りの歩行者にアンケートを行ったところ,図1.1からもわかるように,走行自転車や放置自転車によって身の危険を感じた事がある人が多い.また,図1.2を見ると,放置自転車の対策については「放置自転車の禁止区域の設置を望む」割合は,約8割を占めていて,有料駐輪場,無料駐輪場については,意見が分かれる結果となっている.
図1.1,図1.2
 この銀座通りのように,道路空間に高密度な設備が集中しており,利用者のニーズが多様化している区域では,デザイン上の調整力が必要不可欠となってくる.これらの問題を解決するために,銀座通りの実態調査の結果を踏まえた上で,店舗の方々とワークショップを行い,社会実験を通して整備案をまとめ,平成23年4月の施工を目指すこととなった.その際に,実際のデータを元に現在の駐輪状況をシミュレーションで再現し,駐輪予測を行い,最適配置を考慮することが必要となった.
 本研究では,この有料路上駐輪場の整備にはどれほどの効果があるのか,熊本市銀座通りを分析対象区域としてMAS(Multi Agent Simulation)を用いてその検証を行うことを目的とする.まず,熊本市における放置自転車の現状について触れる.次に銀座通りでの放置自転車の現状をMAS上でモデル化する.このとき自転車利用者は毎時間,駐輪場の料金,撤去された場合の返却料金,目的地までの距離,駐輪場の運営時間などを考え,自転車を有料の路上駐輪場に駐輪するか,放置禁止区域に駐輪するか,または,遠い場所に位置する無料駐輪場を選択している.また,対象地域での現況の到着台数,駐輪時間,目的地までの距離という地域特性を考慮したモデルの構築をし,そのモデルを利用した整備後の駐輪予測を行うことで,銀座通りにおける最適な駐輪配置,また駐輪条件を提案することを目的とする.