社会的相互作用を考慮したバストリガー方式に対する交通行動モデル

A study on travel behavioral model with social interaction effects for the introduction of Bus-trigger system

梶原 康至
Yasunori KAJIWARA

 これまでの行動モデルでは個人の意思決定には周囲の及ぼす影響は明示的に考慮されていない.しかし,個人の享受する効用は,自分の帰属する準拠集団内の他者の選択結果に依存して決定されると考えられる.特にバストリガー制では,利用者側が利用頻度を増やすような呼びかけに対応した行動なしには,事業者にトリガー契約を破棄される.本研究では熊本県立大学,熊本学園大学,熊本大学における通学時の交通手段選択に関する調査データを用いて社会的相互作用を考慮した通学時の手段選択モデルを推定し,集団行動均衡解を求めた.さらに,バス料金を値引きするというバストリガー政策導入後の,バス利用需要予測を行い,収支の面から各大学へのバストリガー制度の条件を検討した.

KeyWords:bus trigger system, social interaction, discrete choice model, personal utility, equilibrium equations

  金沢市にキャンパスがある金沢大学は,市中心部から離れた山奥にあるために,自動車による通学をする学生の数が増加していた.そのため,学生が絡んだ交通事故の発生や限られた敷地内での駐車場の確保が困難になるなどの問題が発生し,大学側としても解決策を模索していた.当初,市中心部から大学まではバス路線が敷かれていたが,最終便が早い,休日の便数が少ないなどの理由から,利用者数は少なかった.そこで,平成18年度,金沢大とバスを運行していた北陸鉄道との間で契約を締結し,バストリガー制度を導入することとなった.その契約内容は,図1に示す路線を対象に「旭町(金沢市中心部)~金沢大学キャンパス間で乗車し,かつ降車する場合は現行のバス運賃を100円とするが,基準年度(平成17年度)に対象路線から得られた収入を実施年度に対象路線から得られた収入が超えなければ,以前の運賃に戻すことを条件とする」というものである.
 この契約により,バス事業者である北陸鉄道は対象路線の便数を増加するなどサービスの向上に努め,利用者である大学側も利用頻度を増やすような呼びかけを行うなど,契約維持のために両者が努力している点が特徴である.また契約を維持することが両者にとってプラスであることも重要である.
 これを受けて本研究では,熊本学園大学,熊本大学,熊本県立大学の三つの大学において,バストリガーを導入した際の各大学の交通重要予測を行った.また,バス会社と利用者双方の努力が必要である特殊なバスサービスであるバストリガーを考える上で,個人が所属する集団の行動結果に影響を受ける社会的相互作用を考慮する必要があると考えられ,それを考慮した需要予測を行いバストリガーの導入可能性を明らかにすることを目的とする.以下に研究構成を示す.
 3章では,効用関数を特定化し推定・予測に使用するモデルを示す.
 4章では,熊本県立大学・熊本大学・熊本学園大学のアンケートデータを混合した3大学混合データを使用して手段選択モデルの推定を行い,社会的相互作用を考慮した場合の手段選択モデルを示す.
 5章では,推定されたモデルにバストリガー(サービスレベルの変化)を導入した際,社会的相互作用によって個人の手段選択の期待値はどのように変化するのかを予測し,結果の考察を行う.また,収支計算を行各大学でBTの導入可能性を考える.