消費エネルギー削減の視点から見た熊本都市圏のコンパクト化の効果

An Analysis of Effects of Compact Ctiy Policy based on Energy Comsamption Behavior

相川 航平
Kohei AIKAWA

 近年,日本では自動車中心社会の進展によるエネルギー消費量の増加が問題となっている.この問題を解決する手段として,一人当たりのエネルギー消費量が少ない都市形態であるコンパクトシティの導入が提案されている.本研究では,コンパクトシティを熊本県に適用した場合を考え,将来どのような都市形態及び交通サービスにすることで都市全体のエネルギー消費量を削減することが可能か分析を行うことを目的とする. 今回は,熊本都市圏における将来の生活圏をベースに,人口集積のタイプの異なる3つの都市圏構造シナリオを想定し,比較を行うことで,分析を行った.

KeyWords: compact city, energy consumption, future prediction ,level of utility,scenario analysis

 現在の日本では,自動車中心社会が進展したことにより,都市郊外部のスプロール化や,公共交通の衰退による交通弱者の移動可能性の低下,中心市街地の空洞化などの問題がみられるようになり,それに伴うエネルギー消費量の増加をどのように押さえるかが課題となっている.また,世界的にも,化石燃料の枯渇や地球温暖化などの問題を受け,エネルギー消費量の削減の必要性が迫られている.近年では,このような問題を解決する手段のひとつとして,一人当たりのエネルギー消費量が小さく持続可能な都市形態であるコンパクトシティが注目されており,多くの研究がなされている.例えば谷口1)は 都市の構造的なコンパクト化政策だけでなく、居住者の行動特性を考慮したモビリティ・マネジメント方策を組み合わせて実施することの意義を検討している.また,水本2)らは効果的な環境負荷低減に繋がる人口の集約方法をCO2排出量の視点から考案している.しかし,都市のコンパクトシティ化を検討する上で,これらの研究のようにコンパクトシティ化への過程を研究することも重要であるものの,それと平行してコンパクトシティとはどのような都市形態や交通サービスを持つものかについての検討も行うことが必要不可欠ある.魚路3)など,この検討を行っている既存研究もあるものの,まだまだ多くの検討の余地が残っている.このような中,土井4)らは現在のモビリティ水準を維持しながらエネルギーを最小化する都市構造や交通政策を検討しており,非常に興味深い.
 しかし,都市の諸活動は交通サービスだけでなく,その他の財の消費によって支えられている.そのため,交通サービスに加えて,一般財から得られる効用も維持するという条件の下でエネルギーを最小化する都市構造や交通サービスを考える必要がある.この概念に沿ったコンパクト性の評価モデルについては,すでに溝上ら5)の研究によって提案がされており,熊本都市圏を対象とした2時点間比較や,熊本都市圏と長崎都市圏の地域間比較などが行われている.その中で,時間点や地域点でコンパクト性の程度が異なることに加えて,エネルギー削減の施策によって都心周辺部及び幹線道路沿線部の単位エネルギー消費量あたりの効用水準が向上することを明らかにしており,その周辺に生活圏を集めるようなコンパクト化施策を行うことがより効率の良い都市の消費エネルギー量削減に繋がる可能性が示唆されている.
 そこで本研究では,その可能性を踏まえつつ,熊本都市圏における将来の生活圏をベースに,人口集積のタイプの異なる3つの都市圏構造シナリオを想定し,前述したコンパクト性評価モデルを使用してシナリオ分析をすることにより,将来どのような都市形態及び交通サービスすることで都市全体のエネルギー消費量を削減することが可能か分析を行う. 本論文は6章から構成されている.まず,第2章で設定した都市圏構造シナリオについて述べ,第3章では,コンパクト性を評価する方法を説明する.第4章では,第3章で説明した方法を用いて実証分析を行い,最後に第6章で本研究の結論と問題点について述べる.本論文は,すでに文献5)で発表されている理論と実証研究が基礎となっているが,1)熊本県における将来の都市圏構造シナリオを想定しての将来予測とその比較,2)シナリオごとの最小都市エネルギー消費量の算出及びコンパクト性の評価を行っている点が新しい.