緒方 一真
Kazuma OGATA
高齢化や障がいによって歩行に対して不安を感じるようになった場合,活動する範囲や頻度などを控えるようになってしまう人が多く存在する. このような人にとっては,中心市街地の歩行者専用のエリアであっても,買い物や飲食,交友などの活動や参加を行うことは困難であると考えられる. 近年,このような人々の移動を補助するツールとしてパーソナルモビリティが注目されている.本研究では, 熊本市の中心市街地においてショップモビリティとしての電動カートの利用可能性について,①電動カート利用者と②一般の歩行者に対してアンケート調査を行った. この調査では,電動カートに対する評価,ショップモビリティに対する評価などを質問しており,これらの結果を用いて,熊本市の中心市街地におけるショップモビリティの可能性について分析した.
KeyWords:covariance structure analysis, personal mobility, EV senior car, International Classification of functioning
高齢化や障がいに伴って歩行が困難になると,活動の頻度が減少し,活動範囲が縮小するなど,人の生活の質(QoL)の低下を招くことになる. 高齢化が急速に進行している現代において,QoLの低下は今後ますます進むと考えられる.QoLは本来,医学的な研究として利用されていたが, 今日,土木においても活用されている場面が多く見られる.例えば土井ら1)は,多様な利害グループの共同利益の同時性という視点から都市のインフラ整備を評価するために, QoL概念に基づいた評価手法を提案している.また近年,歩行困難者の移動を補うツールとしてクリーンエネルギー(電気)を活用した電動カート等のパーソナルモビリティ (以後,PM)が市販されている.このPMを用いて,低下した移動能力を補助することが出来れば,QoLの向上が期待できるが,必ずしも多くの人に普及しているとは言い難い. PMの機能や能力の発揮場所としては居住エリアとまちなかが考えられる.居住エリアでは武蔵ヶ丘団地のようなOld-New townでの高齢者のモビリティ確保のための共同利用が試行されている. まちなか,特に商店街やアーケードのような歩行者専用の場所での利用が考えられるが,その導入可能性や有効性の検討は行われていない. 溝上ら2)は,まちなかにある高齢者集合住宅を含む3箇所を対象地として,電動カートを用いた実験を行い,被験者のQoLが電動カートを利用することでどのように変化したかについて述べているが, この実験は介護やリハビリといった医学的な色が濃く,目的や目的地などが付加した移動については言及されていない. 熊本市の中心市街地において, PMの新たな活用法として考えられる「まちなかでのショップモビリティ」の可能性を推定するために,本研究では①PMの利用者, ②アーケード内の歩行者,③商店街が図1.1のように互いに影響し合ってショップモビリティが成り立つと考え,この3者に対してアンケート調査を行った. そこでは,電動カートの利用者はその電動カートに対してどのような評価を行うか,また一般の歩行者や商店はショップモビリティに対してどのように受容するかについての意識と評価について質問している. これらのデータを用いて熊本市中心市街地におけるショップモビリティの導入可能性を検討することを本研究の目的とする.