宮﨑 一貴
Kazuki MIYAZAKI
The number of public transportation users have been decreasing in Kumamoto city recently . The smart cards have been introduced to public transportation in Kumamoto City. In the smart usage history data includes many kinds of information such as the getting-on date and time and the name of stops. By using these data, many analyses have been done, however, no studies have analyzed individual long-term preference changes. In this study, we analyze the time-varying characteristics of users' preference for city trams by using a state-space model. As a result, it is founded that all users are divided into several groups by the state estimates. Finally, we examine ways to increase the number of rides for each group.
KeyWords: smart card data, Kumamoto city tram, general state space model, particle filter,cluster analysis
(1) 公共交通機関の現状とスマートカード
全国的に自動車の分担率が上昇し,公共交通利用者数は減少傾向にある.熊本市内においても同様に,公共交通の利用者は減少傾向にありその中でもバスの利用者の減少は著しい1) .しかし,熊本市中心部を走る路面電車(以下,熊本市電)は傾向が異なっており,直近10年間は微増傾向にある2).考えられる要因として,いち早くロケーションシステムを導入し運行状況を可視化していることなどが挙げられる.しかし,具体的な根拠となる要因については分からないのが現状である.利用者数を維持,増加させるためには利用者にとって便利で信頼性の高いサービスを提供する必要がある.そのため,顕在化した利用者の特性を把握し,潜在的な利用者に適切な公共交通サービスを行うことが重要である.
近年,公共交通を利用する際の乗車券や決済手段としてスマートカードの導入が全国的に進められている.スマートカードの代表的なものとして東日本旅客鉄道株式会社が発行しているSuicaがあり,その発行枚数は7,587万枚にのぼり,年々増加している3) .熊本市内の公共交通においても,Suicaやnimocaなどの全国共通に利用可能なICカードが10種類(以下,全国相互利用交通系ICカード),「くまもんのIC CARD」と親しまれている熊本地域振興カードが利用可能となっている4) .
国内外問わず,この利用履歴データを用いた研究が行われている.嶋本らは,国内外で行われたスマートカード関連の論文のレビューを行い,スマートカードを用いた分析の位置付けについて考察されており,パネル調査の代わりまでとはいかないものの,データを持つ特性を理解し,適切なデータを抽出すれば,行動の詳細について分析が可能であるであると示されている5).嶋本はロンドンで利用されているOyster Cardの利用履歴データを用いて,学生が秋休みになる期間を含めた4週間28日のバスと地下鉄の利用者を対象に分析を行い,支払い形態で利用実態が変わることや,個人ごとの利用回数について,マルチレベルモデルを用いて利用者間や支払い形態間で違いがあることを示した.利用回数の変動について支払い形態により4割が説明できることや秋休みに関連する属性以外にも利用状況が減少することが示されている6).西内らは,土佐電氣鐵道を対象にスマートカードですかの利用履歴データ4ヶ月分を用いて,減便によるサービスの悪化が利用者に及ぼす影響について状態空間モデルや生存時間モデルを用いて分析を行った.減便については影響力が小さいこと,電停OD間の立地条件が影響していることを示した7).西内らは,公共交通マーケティング手法を検討するために,スマートカードですかの利用履歴データ1ヶ月分を用いて,カードの種類や定期の有無などが,時間的トリップ依存度や空間的トリップ依存度に影響があるか調べた.低頻度でトリップパターンを持たない利用者が多くを占めていることが示された.また,非定期利用者に対する利用促進政策の重要性について示した8) .
熊本市電においての既往研究として,森田らは全国相互利用交通系ICカードの利用履歴データ1年分を用いて利用回数の分析や,nimocaやSuicaなどのカードの販売場所に違いがあるか調べた.利用回数に大まかな違いがあるものの,カードごとに分けるのは難しい.また,利用実態についてクラスター分析を用いて,クラスターごとに異なることを示している.定期券購入者の利用回数は増加していること,PT調査に比べICカードの信頼性についても示されている9) .吉塚は,熊本市電の2014年度から2017年度の4年分の利用履歴データより,利用者数を観測モデルとした集計型の線形ガウス型状態空間モデルを構築し,トレンドやサービスについての影響人数についてカルマンフィルターを用いて,状態推定並びにパラメータ推定を行っている.また,1年間の利用日数が100日を超える高頻度利用者3人を対象にして,非線形ガウス型状態空間モデルを構築し,粒子フィルターを用いて,状態推定を行い.各項目間で異なる状態変数の値を示していることや,利用者の異質性について示した10) .
(2) 研究目的と論文の構成
これらの研究はいずれも需要者のような集計値を利用することや,たとえ個人を対象にしたとしても任意の短期間の分析を行っているだけで,1年以上を超える長期的な分析は行われていない.また,CRMやOne to Oneマーケディングと呼ばれる一人一人や小規模なグループを対象とし,それぞれの行動や嗜好などの情報から最適なアプローチを行うということが注目されている11) .そこで,本研究においても個人を対象とする分析を行うこととする.
これらを踏まえ,本研究では公共交通機関全体の利用促進を目的と掲げ,熊本市電利用者を対象に個人レベルの非集計的かつ長期的な分析を行う.分析の結果から利用者ごとの特性や時間的変化について明らかにし,これから行われる交通政策や交通マーケティングに繋げるために必要となる影響を探っていく.
本論文は6章から構成されている. 2章で分析に用いたデータの概要について説明をする.3章では,分析に用いるモデルの検討や実際に導入したモデルの概要について説明する.4章にて,状態空間モデルの推定結果についてまとめる.5章では,熊本市電利用のためのマイクロマーケティング分析として,状態空間モデルで求まった状態変数を用いてクラスタリングする.最後に6章にて本論の結論と今後取り組むべき課題について述べる.
参考文献
1) 熊本市ホームページ バス網再編: http://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=2432&sub_id=23&flid=178767,2020.02.09最終閲覧
2) 熊本市交通局 平成30年度事業決済について:http://www.kotsu-kumamo-to.jp/kihon/pub/detail.aspx?c_id=56&id=1042&pg=1,2020.02.09最終閲覧
3) 東日本旅客鉄道株式会社 IT・Suica事業:https://www.jreast.co.jp/youran/pdf/2019-2020/jre_youran_group_p69-74.pdf,2020.02.09最終閲覧
4) 熊本市交通局 営業・乗車案内:http://www.kotsu-kumamoto.jp/one_html3/pub/default.aspx?c_id=7,2020.02.09最終閲覧
5) 嶋本寛,倉内文孝,Schmöcker,Jan-Dirk,羅罕勛,Hassan,Seham:スマートカードデータを用いた公共交通利用者の行動特性分析の可能性 土木計画学研究・講演集,Vol.45,CD-ROM,2012.
6) 嶋本寛,北脇徹,宇野伸宏,中村俊之:ICカード利用履歴データを用いた公共交通需要変動分析 土木学会論文集D3,Vol.70,No.5,pp.I_605-I_610,2014.
7) 西内 裕晶, 轟 朝幸, 川崎 智也:生存時間分析を用いた路面電車の利用者数の変化に関する研究−土佐電氣鐵道を対象として−,交通学研究, 2015, 58 巻, pp. 113-120
8) 西内 裕晶, 轟 朝幸:交通マーケティング手法検討のためのICカードデータを活用した利用者行動特性の把握,土木学会論文集F3,Vol.68,No.2,pp.II_8-II_17,2012.
9) 森田琢雅 溝上章志 中村 嘉明:ICカードデータによる熊本市電利用者の行動特性分析とダイヤ編成への活用,土木学会論文集D3,Vol.73,No.5,pp.I_993-I_1001,2017.
10) 吉塚卓史:スマートカードから得られる交通系ビッグデータを用いた熊本市電利用需要の特性分析,熊本大学大学院自然科学研究科社会環境工学専攻,平成30年度修士論文,2019.
11) 佐藤忠彦,樋口知之:ビックデータ時代のマーケティング ベイジアンモデリングの活用,講談社,pp.1-131,pp.147-186,2013.