前田 莉花
Rika MAEDA
n this study, we conducted mobility management (MM) for three years for active seniors in Arao City, Kumamoto Prefecture. We focused on the attrition bias caused by sample dropped out from the Travel Feedback Program (TFP) , which is a typical method of MM, and constructed disaggregate conversion model considering it. As a result, we confirmed that there is a bias that makes it easier for people who continue the suvey to change to public transportation, and it became clear that what factors and actions influence the convertion behavior at each step of TFP.
KeyWords: mobility management, travel feedback program (TFP),sample attrition bias,public transportation use promotion, senior citizens
近年,地方部では自動車の利用が進み,それに起因した渋滞や環境問題など様々な社会問題が生じている.こうした問題と同時に,公共交通では,利用者の減少による既存路線の廃止や運行頻度の削減など,公共交通サービスの低下が起こっている.その結果,公共交通が存在しない空白地域や不便地域における高齢者や障がい者の移動手段の確保や高齢ドライバーによる交通事故などの問題が生じている.
これらの問題を解決するために,自動車主体の交通から公共交通への転換を促す施策としてロードプライシングやパーク・アンド・ライド(以下,P&R)といった交通システムやその運用改善を行う「交通需要マネジメント」(以下,TDM)が導入されてきた.TDM施策は,公共交通に転換しやすいような交通環境を整える施策であり,それを使うかどうかは自動車利用者の判断に委ねられているため,公共交通機関を利用した経験が少ない人などには,自動車よりも公共交通を利用した方が便利と思ってもらえるようなきっかけを与えることが必要である.そこで,各個人の環境にあった情報提供やコミュニケーションを通じて,過度な自動車利用から公共交通や自転車などを適切に利用する方向へ自発的に変化することを促す交通政策であるモビリティ・マネジメント(以下,MM)が導入されてきた.
MMの代表的な実施方法にトラベル・フィードバック・プログラム(以下,TFP)がある.TFPは大規模かつ個別的なコミュニケーション施策の一つであり,複数回の個別的なやりとりを通じて,対象者の行動の自発的な変容を促す施策である.しかし,この施策の有効性などをTFPから被験者が離脱することにより生じる消耗バイアスを修正した転換モデルにより評価した研究はない.
本研究では,熊本県荒尾市で実施された高齢者を対象としたMMにおいて用いられたTFPの有効性と効果を評価することが目的である.その際,従来の研究では主に定性的で,かつ集計的に行われてきたTFPの評価を,定量的かつ非集計的に行う.さらにTFPのステップが進むにつれて離脱者が発生してしまい,その後の選択に対してサンプルの属性や行動結果に偏り,つまり消耗バイアスが生じてしまうことが課題として挙げられている.TFPは同じ対象者に対して継続的に調査を行っていくため一種のパネル調査といえることから,パネル調査の消耗バイアス修正法をTFPへの継続と離脱の選択モデルに適用した上で,さらに消耗バイアス修正を行った転換モデルにより,TFPに有効な変数や提供情報を明らかにする.
本研究は全5章で構成されている.2章では従来から行われてきたMMの内容とそこでの効果の評価方法について研究論文やポスター発表をレビューしている.3章では本研究の分析対象である荒尾市MMの概要と通常行われている方法でTFPの効果について分析する.4章では継続モデルを利用して消耗バイアスを修正した転換モデルを推定し,荒尾市MMにおけるフルセットTFPの有効性についての分析を行う.最後に,5章で本研究の成果をまとめる.