需要変動を内生化した地域公共交通に対するインセンティブ補助の理論とその適用

A study on incentive subsidy scheme considering elastic demand for local public transportation

村野 祐太郎
Yutaro MURANO

Recently, the number of passenger of public bus transport in Japan tends to decrease due to the motorization. This condition leads to a severe management situation, including in Arao City. The deficit of bus companies operation in provision of bus services in Arao City has been covered by Arao City Government on the basis of lines subsidy, and the city allocated a number of subsidy of about 53 million yen in 2011.To solve this problem, we pay attention to incentive scheme. This study aims to construct the mathematical model of the incentive subsidy schme considering elastic demand and this paper includes application to bus network in Arao City to analyze the utility level of incentive subsidy model.

KeyWords: contract theory, incentive, level of service, stackelberg game, social welfare function

 乗合バス事業は、地域の日常生活を支える交通サービスである.しかし,近年のモータリゼーションの進展,地方部における人口減少, 少子高齢化の影響などにより利用者が減少し,その採算性が急激に悪化している.事業者の採算性悪化に伴い, サービス水準の低下や路線撤退に伴う公共交通機関の空白地帯の拡大などが危惧される.このような状況に対処するため,自治体は, 公共交通事業者に対して運行補助金を与え援助している.しかし,年々増加する運行補助の総額が行政の財政状況を悪化させる一因となっており, 自治体の公共交通サービス提供への関与の在り方も問われている.図-1.1に示すように熊本県荒尾市の路線バスの利用者数も平成15年から21年の6年の間に約40%も減少し, 約34万人となっている.運行補助額については,平成16~17年にかけて実施された荒尾市営バスの九州産交バス(株)への全路線の民間移譲により, 一端は1億5,400万円から3,200万円へ約80%も圧縮されたものの,利用者の減少に歯止めが掛ったわけではないために運行補助金は再び増加に転じ, 平成22年度には5,600万円まで再び増加した.
 一方で,国土交通省において個人の移動権を保障する交通基本法の制定が検討されているように,少子高齢化の進展に伴い, 若年者や高齢者などのモビリティ水準の低い人々がさらに増加することが見込まれており,路線バスをはじめとする公共交通機関によるモビリティの確保が望まれている.
 地域公共交通機関への自治体の関与の在り方として,交通機関の導入など,民間の事業者が運行しないエリアを行政が主導してコミュニティバスやデマンド型の交通機関によりサービスする試みなどが全国各地で試みられているが, 既存の路線バスを対象として路線網の再編や事業者への補助制度の改変などの取り組みを行っている事例は少ない.  本研究では,提供されるサービスの水準に依存して変動する需要を内生化したインセンティブ補助モデルの開発を行い,それを荒尾市の公共交通ネットワークに適用することによって, インセンティブ補助制度導入の効果を検証することを目的とする.我が国では,一般的に補助金交付方法は赤字路線の赤字額を全額補填する欠損補助の形を取っている. この交付方法では,バス事業者が赤字削減をするという経営努力を怠っても補助金で経営が成り立つことになり,赤字額を減らそうというインセンティブが働きにくい. 自治体はバス事業者に赤字を削減させる何らかのインセンティブを与えて赤字補填額を減らしたいと考えている.このインセンティブをうまく与えることで, 企業努力を促し,補助金額を削減するという社会的に望ましい状況を作り出すことができる.
 本研究では,1)需要変動を内生化したインセンティブ補助モデルを定式化し,2)各変数の決定権利の配分が異なる5つのシナリオにおける一般解を示す. そのうえで3)このインセンティブ補助モデルを荒尾市の公共交通ネットワークに適用し,各シナリオ毎に社会厚生を最大化するサービス水準と赤字削減額を求める. 最後に,4)今後の公共交通の活性化・再生に資するインセンティブ補助の導入可能性を検討する.