ロケーションデータとスマートカードデータの融合によるバス運行サービスの分析手法

ANALYSIS OF IMPROVEMENT METHOD OF BUS SERVICE BY LOCATION DATA AND SMART CARD DATA

森田 琢雅
Takumasa MORITA

 In recent years, the bus location system and the smart card system are rapidly spreading on fixed route bus. These systems produce traffic big data that enables analysis of traffic conditions. In this research, first, we will clarify the traffic state and the actual state of use of the target route using the data of the bus location system and the fare settlement data of the smart card system. Second, calculate the trajectory of each bus from the fare settlement data, and examine how much difference will occur in the operation trail reproduced from both systems. Finally, we examine factors affecting the required time for each stop section. As a result, it was revealed that, 1) the divergence from the true operation trace difference becomes large as the ratio of the estimated passing time of the stop where the smart card data can’t be obtained increases, 2) the factor affecting the required time is not same by each stop section.

KeyWords : location data, smart card data, travel time reliability

 

(1) バスロケーションシステムとスマートカード
 1970年代をピークに全国の公共交通の利用者数は減少を続けており,その傾向は地方都市の路線バス事業で特に顕著である.バス事業者は利用者数の減少による運賃収入の減少のために不採算路線の減便や廃線をせざるを得ず,それがバスの利便性を低下させ更なる利用減少をまねく悪循環が起こっている.この悪循環を無くすためには,適切で利便性の高い公共交通ネットワークを形成すると同時に,ソフトの面から定時性・信頼性の高いサービスを提供しバス利用を促進することが重要である.これらを背景に,1980年頃からバスロケーションシステム,2000年頃からはスマートカード(Suicaやnimoca等の交通系ICカード)システムが全国の路線バスに導入され,路線バスの利便性を一定水準向上させてきた.近年ではそれらのシステムによって蓄積された膨大な運行ログデータや決済データ,いわゆる交通ビッグデータを運行の改善や新規利用者の獲得に活用する手法や研究への注目が高まっている.

(2) 既存研究
 バスロケーションシステムから得られる運行ログデータを用いた研究として,折部ら1)は路線バスの位置ログデータをもとにバス停ごとに遅延時間を集計し,回帰モデルと分位回帰モデルによる要因分析を行って,曜日や月,時間帯や累積信号数が遅れ時間の平均や最大値に与える影響について分析している.荻原ら2)は空港リムジンバスを対象に路線別・便別の所要時間変動に着目して旅行時間信頼性指標を分析し,標準偏差で旅行時間信頼性を評価することが利用者の顕示選好と整合することを確認している.また,バスロケーションシステムの在り方を検討する研究として,粟津ら3)は蓄積されたロケーションデータとバス利用者のアクセス履歴の活用の面で,システム運用者の支援を行える機能を提案している.中村ら4)は,全国のバス事業者へのアンケート調査からバスロケーションシステムの現状の把握とバス事業者の抱える課題,およびその解決法を探っている.
一方,スマートカードデータを用いた研究として,松本ら5)は,バス利用者増加方策を見据え,バス利用者の基礎特性の把握,及び潜在的利用者の抽出手法を検討し,低頻度利用者への利用促進アプローチに繋がる基礎的な特性を示している.西内ら6)はスマートデータから算出した利用者毎の時間的・空間的なトリップ依存度を用いてクラスター分析を行い,定期利用者と非定期利用者のトリップ特性の違いを示している.また嶋本ら7)は,英国・ロンドンのスマートカードデータを用いて,料金支払い形態ごとの利用回数の変動を分析し,個人の利用回数の変動の4割以上を支払い形態の分類で説明できることを示している.
 このように,ロケーションデータを使った分析では遅延要因や旅行時間信頼性の分析,またシステムそのものの在り方のような運行管理に主眼をおいた研究が多い一方,スマートカードデータを使った分析では,利用者ごとのトリップ特性を抽出するような需要構造の分析を行っている研究が多い.しかし,スマートカードの決済データを運行便ごとに集計することで運行実態の分析も可能であると考えられる.森田ら8)は,熊本市電を対象にスマートカードデータを用いた利用実態の分析及び利用者の特性分析を行い,さらに運行便毎にデータを集計することで実績ダイヤの可視化を行っている.折部ら9)は,バスロケーションデータとスマートカードデータの特性を考慮した上で,データの偏りから発生するバイアスを簡便に補正し旅行時間信頼性を推計する方法を提案している.また,これらの知見を用いて田中ら10)は,現地調査と時間帯別自動車類交通量データから停留所間のODと渋滞遅延を推定することで複数の遅延シナリオを仮定し,最適化手法を用いて乗換行動を加味した最適な路線バスの時刻表を作成する方法を提案している.

3) 本研究の目的
 本研究の目的は以下である.1)バスロケーションシステムの車両位置データとスマートカードシステムの運賃決済データを用いて対象路線の運行実態と利用実態を明らかにする.2)運賃決済データからも運行各便の車両軌跡を算出し,両システムから再現される運行軌跡にどの程度の差が出るかを検討する.3)各停留所の通過時刻から区間遅延時間を算出し,区間ごとにその要因を考察する.具体的には,まず対象路線バスにおける乗客数や遅延時間の推移を可視化し,旅行時間信頼性指標を算出する.次に,運賃決算データから得られる停留所通過時刻と車両位置データから得られる通過時刻との乖離について,その原因と特徴を考察する.最後に区間所要時間に影響を与える要因として,累積乗降客数,運行時の天候,運行時間帯を考慮し分散分析を行う.
 本研究は7章から構成されている.まず2章で対象地である熊本第一環状線と2種類のデータについて説明する.次に3章でそれぞれのデータの標準化手法について述べ,4章で運行実態と利用実態についてまとめる.5章で運行軌跡の乖離について考察した後,6章で分散分析を行い各区間の遅延要因の特徴を明らかにする.最後に7章を本論文のまとめとする.