姜信子さんからのお手紙
学生たちからもらった感想にも質問や問合せがありました。 それにもきちんと答えたいと思いますので、だいぶ長くなりますが、学生たちにお伝 えいただけますか。 まずは、皆さんが渡してくれた言葉の一つ一つが、語り手に対する励ましになるのだということを言い添えて、“わたしの話にさまざまなコメントや感想を寄せてくれて、ありがとう”と、学生たちにお伝えください。 それでは、いくつかの質問や印象的だった感想に対する私のコメントを記してみます。 @ 韓国文化情報・ソフトの入手方法
1.「『音楽は国境を越えると思います。リーチェも「売れる」ことを前提にしたから 英語で歌うことになったんだと思います。韓国じゃないけど、私は広東語で歌ってい る歌も結構きいているからです」
広東語の歌が今、なぜ、日本に入ってきているのか。それを考える上で重要なのは、アジアという大きな塊があるわけではなく、アジアにもさまざまな地域や文化があり、それに対して日本人が持つイメージや距離感も、それぞれに違うということです。広東語の歌が日本である程度のファンを持ちはじめたのは、1990年代に入ってからのことです。それは香港ノワールという映画のジャンル(いわゆる暗黒街モノ)が 日本で一定のファンを獲得したのと同時に起こった現象です。 また、1997年問題をきっかけとした日本での数多くの香港報道が、香港をより身近 なものとしました。 さらにファンの数を増やしたのが、ウォン・カーワイ監督の「恋する惑星」の日本での大ヒットです。香港映画のトップスターたちは、ほとんどが人気歌手です。彼らの出演する映画は、彼らの歌のミュージックビデオの役割も果たし、私たちは広東語 の響きを耳にした時に、都会的で洗練された、アジアでありつつ欧米的な香港のイ メージを思い浮かべることができる。それが現在の日本人にとっての、香港と韓国の大きな違いです。 2.「韓国の生活で得たものは何ですか?」
3.「在日韓国人として日本に住んでいて、今、幸せですか?」
日本に暮らすひとりひとりの幸せな生活の追求が、逆に日本という国のあり方を決めるという発想を私たちは持つこともできます。国によって割り当てられ、保証される幸せではなく、自分たちの手で国の考え方とは違う幸せを創ってゆく、それがさまざまな人々が暮らす日本という国をより良いものに変えていく力になるのだという発想 もありうるわけです。日本も韓国もその点では同じなのですが、まず国家ありきで、 それから国民の役割が決められていくという近代化のプロセスをたどりました。何が 幸せなのかということも、国が国民に教えてきました。でも、そろそろ、何が幸せなのかという基準を私たちが自分自身の中にきちんともって、それを国に教えていくという逆の流れを作っていく必要があるのかもしれません。 日本人として日本に住んでいて、今、あなたは幸せですか?
以上. |