第9講 消費関数

[講義ノートに戻る]  [Home]


2015年4月6日更新

秋学期最初の講義(2013年)

2013年の夏は2度目の東京オリンピック開催(2020年)
決定というニュースがありましたが(9月7日(土)日本は8日),
経済関係の出来事としては,春から引き続き「アベノミクス」
が話題の中心でした.

3本の矢である,1大胆な金融緩和,2機動的な財政政策
3民間投資を喚起する成長戦略,に加えて,オリンピック
が第4の矢に加えられるようにもなってきました.

日銀による異次元の金融緩和により,期待インフレ率の上昇
による次のような効果をねらっています.

期待インフレの上昇
  → 円安・ドル高 → 輸出増大、設備投資増大 (1)
  → 日経平均株価の上昇 → 設備投資の増大  (2)
  → 予想実質金利の低下 → 設備投資の増加  (3)
  → (1)(2)(3)から GDP増大、雇用増大

  → 賃金の上昇       (4)
  → 2%のインフレ率の達成 (5)

最終的に(4),(5)までたどりつかないと,アベノミクス
は成功とはならないのです.

秋時点では,上に加えて,2014年4月の消費税増税問題への
対処が重要課題になっています.これは日本の財政再建問題に
からみ国際公約となっているので,安易にひっこめるわけには
いきません.安易に撤回すると日本国債への信用失墜と長期
金利の上昇が懸念されます.

一方,消費税増税は,家計の所得の減少をもたらすので,景気
にはマイナス要因です.消費税を1%引き上げると,2兆7000億円
の税収増になります.3%引き上げると,国民負担は約8兆円
になります.

そこで,政府は

・消費税を予定通り3%引き上げる
・国民負担軽減策
・法人税の実効税率38.01%(現在国税分26.08%,地方税分11.93%)の
引き下げ.

 東日本大震災の復興特別法人税を除いた場合の法人実効税率は
35.64%になります.
まずは,復興特別法人税を1年前倒しして,実効税率を引き下げる
ことを検討しているようです(9月20日現在).
なお,法人税を1%引き下げると4000億円の税収減になります.

上げたり,下げたり,パズルを解くような政策の組み合わせです.

政策目標は何か,そのための政策手段をどう割り当てるか,という
原則に立ち返ることが重要になります.

10月初めには結論がでる予定です.

■7月半ばから9月半ばまでの出来事:
2013.07.20(土) ★G20財務相・中央銀行総裁会議(モスクワ)、共同声明を採択して閉幕。米金融緩和の縮小に伴う金融市場の混乱回避に向け、「金融緩和から生じる副作用に留意する」と4月の声明につづき再び明記。新興国は13年2月と4月のG20会議では先進国の緩和が新興国への過度の資金流入を招いていると批判。5月以降は一転、資金流出に伴う通貨安や、インフレ圧力の高まりに不満を表明
2013.07.23(火) ★政府、2013年度の年次経済財政報告(経済財政白書)発表。副題は「経済の好循環の確立に向けて」。日本経済は個人消費がけん引役となって持ち直していると指摘。個人消費の増加が生産の増加につながり「所得の増加をもたらすという経済の好循環の芽が出ている」。輸出主導型の回復が多かった過去とは「メカニズムが大きく異なる」と分析
2013.07.31(水) ★厚生労働省、6月の毎月勤労統計調査、基本給やボーナスなど給料の合計を示す現金給与総額は前年同月比0.1%増の43万3568円、5カ月ぶりに増加。ボーナスなど一時金の増加が主因。基本給に相当する「所定内給与」は0.2%減の24万3262円で13カ月連続の減少。残業代を示す「所定外給与」は横ばいの1万8514円。ボーナスなど「特別に支払われた給与」は0.4%増の17万1792円
2013.08.09(金) ★財務省、6月末時点の「国の借金」は過去最大の1008兆6281億円と、初めて1000兆円台の大台。7月1日時点の総務省の人口推計(1億2735万人)をもとに単純計算すると、国民1人あたり約792万円の借金を抱えている勘定。2012年度名目GDPの2.1倍にまで増大。今回の発表は国の分だけ。残高の内訳は、国債が830兆4527億円、借入金が54兆8071億円、一時的な資金不足を補うための政府短期証券が123兆3683億円
2013.08.12(月) ★内閣府、2013年4〜6月期の実質GDP前期比0.6%増、年率換算2.6%成長。プラスは3四半期連続。設備投資はマイナス。QUICKの民間予測の中央値、前期比0.9%増、年率3.6%増は下回る。名目GDP前期比0.7%増、年率では2.9%増、名目でも3四半期連続のプラス。名目成長率が実質を下回る「名実逆転」が解消。逆転解消は2012年7〜9月期以来3四半期ぶり。
2013.08.13(火) ★総務省、4〜6月期の労働力調査、非正規雇用で働く人は1881万人となり、四半期ベースで2002年の集計開始以来最多。役員を除いた雇用者数は5198万人。このうち非正規が1881万人で、36.2%。総務省「景気対策の効果などで雇用は生まれたが、非正規に流れているのが現状」と分析
2013.08.30(金) ★総務省、7月の消費者物価指数(CPI、2010年=100)、生鮮食品を除く総合が100.1、前年同月比0.7%上昇。上昇は2カ月連続
2013.08.30(金) ★総務省、7月の完全失業率は3.8%、前月比0.1ポイント低下。改善は2カ月連続。完全失業者数は251万人で、3万人減。「非自発的な離職」は9万人減、「自発的な離職」は2万人増
2013.08.30(金) 厚生労働省、7月の有効求人倍率、前月比0.02ポイント上昇の0.94倍、5カ月連続で改善
2013.08.30(金) 熊本県、7月の有効求人倍率、前月比0.06ポイント上回る0.91倍、8カ月連続で改善。全国順位は2つ上がり23位。九州では4カ月連続で1位
2013.08.31(土) 消費増税の影響を検証する政府の集中点検会合が終了。有識者60人のうち、7割超の44人が予定通り消費税率を2014年4月に8%に引き上げることに賛成。
上げ幅変更などを求めたのは8人、増税の中止や延期が6人
2013.09.06(金) ★G20首脳会議、首脳宣言を採択して閉幕。世界経済は「なお下振れリスクがある」としたうえで、米量的金融緩和の縮小が新興国の経済に与える影響を監視することで合意。シリアへの武力行使を巡って主要国の賛否が割れ、首脳宣言では言及せず
2013.09.09(月) 内閣府、8月の景気ウオッチャー調査(街角景気)、現状判断指数は前月比1.1ポイント低下の51.2で5カ月連続の悪化
2013.09.09(月) ★内閣府、4〜6月期の実質GDP改定値、前期比0.9%増、年率換算3.8%増。8月12日公表の速報値(前期比0.6%増、年率2.6%増)から上方修正

秋学期最初の講義(2012年)

今回のテーマは,9月に入って,欧州,米国,日本の
中央銀行がそろって実施した追加の金融緩和措置,
「量的緩和」政策です.

欧州中央銀行(ECB)

2012.09.06(木) ★欧州中央銀行(ECB)理事会、南欧国債
の買い入れで大筋合意。償還期間が1〜3年の国債を無制限
で購入。ドイツ連銀は反対
○欧州中銀 決定のポイント
・償還までの期間が1〜3年の国債を集中購入
・購入額に上限は設けず、流通市場から無制限で買い取る
・資金繰り難に陥った国がESMに支援を要請することが条件
・財政再建を怠れば購入停止
・政策金利は年0.75%で据え置き

米国の連邦準備理事会(FRB)

2012.09.13(木) ★米FRBのFOMC、住宅ローン担保証券
(MBS, mortgage-backed securities )の買い入れによる
量的緩和第3弾(QE3)実施を発表。 2010年秋からの
量的緩和第2弾(QE2)に続く大規模な金融緩和措置。
・MBSの購入は14日から開始、月額400億ドル
(約3兆1000億円)のペースで続ける
・低調な米雇用を刺激するのが狙い。
・事実上のゼロ金利政策は、現行の「少なくとも14年終盤まで」
から継続期間を「少なくとも15年半ば」まで延長
・2012年6月に半年延長することを決めた、保有国債の
期限を長期化し金利を抑えるツイスト・オペも並行して実施
(参考)-------------------
・QE1:2008.12.16(火) 米FRB,史上初の事実上「ゼロ金利政策」.
公開市場委員会(FOMC),政策金利フェデラル・ファンド(FF)
レートの誘導目標を現行の年率1.00%から0.00-0.25%に引き下げ.
93年2月以来となる日米の政策金利逆転.長期国債の買い
入れ検討なども表明.市場への資金供給量の拡大を金融政策
の柱とする「量的緩和(quantitative easing)」を事実上導入
・QE2:2010.11.03(水) 米FRB、FOMCで2011年6月末まで
に6000億ドル(約48兆円)の長期国債購入に踏み切ると発表。
2010.11.12(金) 米FRB、連邦公開市場委員会(FOMC)に
よる3日の追加量的緩和決定に従い、第1回の長期国債買い
取りオペ72億2900万ドル(約6000億円)を実施。
2011年6月末までに追加的に6000億ドルの長期国債を買い入れる予定

日本銀行(BOJ)

2012.09.19(水) ★日銀、金融政策決定会合で追加の金融緩和。
資産買い入れ基金の総額を10兆円増やし80兆円。買い入れ
の終了時期は2013年6月から同年12月末に延長。長期国債
と社債を買い入れる際の0.1%の下限金利を撤廃
○日銀の決定内容のポイント
・資産買い入れ基金を10兆円増額して80兆円
・長期国債の買い入れを5兆円増額し期限を2013年12月末
 に延長。短期国債の買い入れは5兆円増額し期限は13年
 6月末に据え置き
・長期国債と社債の買い入れ入札の下限金利(年0.1%)を撤廃
・政策金利を0〜0.1%とする事実上のゼロ金利政策は維持
・海外経済の減速した状態がやや強まっていることで、
 景気の持ち直しの動きが一服
・景気は当面横ばい圏内。消費者物価上昇率はおおむね
 前年比0%だが、原油価格の下落が下押し要因

「ゼロ金利政策」と「量的緩和政策」は,日本銀行が最初に
採用した金融緩和政策の手段.その後,欧州,米国の
中央銀行が追随して取り入れました.

(参考:最近の日本銀行の金融政策)---------------
・ゼロ金利政策 1999年2月12日ー2000年8月11日
・量的緩和政策 2001年3月19日ー2006年3月9日
・ゼロ金利政策解除 2006年7月14日
・広い意味での量的金融緩和政策 2009年12月1日
・ゼロ金利政策復活(包括緩和) 2010年10月5日
--------------------------------------------------------

詳細はこの講義ノートの第14講を参照してください.

秋学期最初の講義(2011年)

夏休みの間にこんなことがありました.

ポイントは
●日,米,欧の3極の財政危機が,世界経済を不安定に
陥れている.(ソブリン・リスク
1)EUでは,ギリシャの財政赤字危機が収まらず,ギリシャ
の国債を大量に保有しているフランスの銀行などに危機が
波及するおそれがでている.

2)アメリカは,リーマンショック(2008年9月)時
大規模な財政支出を拡大したが,3年経過した現在でも
経済状況は改善せず.特に雇用悪化に歯止めかからず.

3)日本は1ドル=75円台(NYで75円95銭)を記録した
超円高を迎えて,輸出に依存している多くの製造業は,
海外へ生産拠点を移す動きが急増.(日本経済の空洞化

07.22(金) 内閣府、2011年度の年次経済財政報告
経済財政白書)公表。副題は「日本経済の本質的な力を高める」

07.28(木) Big Mac index(英のThe Economist)、
7月25日時点の調査。
ビッグマックで測った円のPPP(購買力平価)は78.70円
実際のレートは78.40円

08.04(木) 政府・日銀、大幅な円高の是正に向けて外為市場で
円売りドル買い介入
、介入額は過去最大の4兆円規模

08.05(金) 米S&P、米国債を最上位からAA+(ダブルAプラス)
に1段階格下げ。S&Pは1941年に米国債を「AAA」に格付けし、
70年間維持してきた

08.08(月) 東京穀物商品取引所と関西商品取引所、
コメ先物取引を開始。コメ先物の復活は72年ぶり。
大阪では北陸産コシヒカリで初値1万9210円(12年1月物)
東京は買い注文が大量で値付かず

08.10(水) 国債や借入金などを合わせた6月末の「国の借金
の残高が943兆8096億円。3月末に比べて19兆4500億円増え、
過去最悪を更新。国債が9兆3753億円増の767兆9443億円、
国民1人あたりの借金は738万円。数年以内に家計資産を上回る可能性

08.12(金) CPIを2010年基準に改定。11年6月までの新指数を公表。
新基準では軒並みマイナスに転落。
6月は旧基準のプラス0.4%からマイナス0.2%に。
値下がりが目立つ情報家電の割合が高まった影響
    <2010年基準> <2005年基準>
10年1月 _1.3    _1.3
  2月 _1.2    _1.2
  3月 _1.2    _1.2
  4月 _1.5    _1.5
  5月 _1.2    _1.2
  6月 _1.0    _1.0
  7月 _1.1    _1.1
  8月 _1.0    _1.0
  9月 _1.1    _1.1
  10月 _0.6    _0.6
  11月 _0.5    _0.5
  12月 _0.4    _0.4
11年1月 _0.8    _0.2
  2月 _0.8    _0.3
  3月 _0.7    _0.1
  4月 _0.2     0.6
  5月 _0.1     0.6
  6月 _0.2     0.4
(単位は%、_は下落)

08.15(月) 内閣府、2011年4〜6月期の実質GDP前期比0.3%減、
年率換算1.3%減。東日本大震災の影響で輸出(前期比4.9%減)
が落ち込んだ。3四半期連続のマイナス成長。
名目GDPは前期比1.4%減、年率は5.7%減。
GDPデフレーターは前年同期比でマイナス2.2%で7四半期連続のマイナス

08.19(金) NY外為市場、一時1ドル=75円95銭の最高値
東日本大震災後の3月17日に付けた過去最高値(76円25銭)を更新
主な企業の今期の想定ドルレートと為替感応度(1円円高の営業利益へのマイナス)
        想定ドル  為替感応度(億円)
トヨタ      80    340
日産       80    200
ホンダ      80    150
スズキ      80     10
ソニー      80     ゼロ
パナソニック   83     38
TDK       80     20
キャノン     80     48
リコー      80     13
コマツ      82     45
日立建機     80     17
川崎重工     83     26
(日経新聞 8月21日朝刊)

08.24(水) 米ムーディーズ日本国債の格付けをダブルAに
相当する「Aa2」(21段階のうち上から3番目)から
ダブルAマイナスに相当する「Aa3」(4番目)へ1段階引き下げ。
同社による日本国債の格下げは約9年3カ月ぶり

08.26(金) 7月の消費者物価指数(2010年=100)
生鮮食品を除いた総合指数は99.8、前年同月比0.1%上昇。
2年7カ月ぶりのプラス。資源高が生活必需品の価格を
押し上げたのが主因。ガソリン価格が10%、
電気料金が3%上昇。小麦の国際価格の上昇を受け、
食パンの価格が2%上昇。 新基準。

09.02(金) 野田佳彦連立内閣(国民新党と)発足

09.06(火) スイス国立銀行、対ユーロでスイスフランの
上限を1ユーロ=1.20スイスフランに設定すると発表。
この上限を超える場合「外貨を無制限に購入する準備がある」。
ペッグ制に近い

09.08(木) なでしこジャパン、3大会連続4度目のロンドン五輪出場を決定

09.08(木) オバマ米大統領、総額約4500億ドル(約35兆円)
景気・雇用対策を発表。社会保障税の減税延長や
インフラ整備などの公共事業の積み増しが柱

09.14(水) 米ムーディーズ、仏大手銀行のソシエテ・ジェネラル
とクレディ・アグリコルの長期債務格付けを1段階引き下げ。
格下げ後の格付けはそれぞれ「Aa3(ダブルAマイナスに相当)」、
「Aa2(ダブルAに相当)」。ギリシャ向け債権に損失が発生
する懸念が強いこと、資金調達環境の悪化が理由

■秋学期最初の講義(2010年)

テーマ:政府は6年半ぶりに外為市場に市場介入

2010年9月15日に,政府は,2004年3月16日(このときは1ドル
109円台で介入)以来6年半ぶりの円売り・ドル買い介入実施.
今回の介入水準は1ドル=83円,介入規模は約2兆円,1日の円売り
介入額としては過去最大.

ポイント
・介入の決定権は財務省(財務大臣)にある
・財務省の指示に基づいて,日本銀行が外国為替市場での円売り・
ドル買いの実務を担当する.銀行や外為ブローカーを通して,
円売り・ドル買いの注文をだします.
・円高阻止をねらう

資金調達方法
・円売り・ドル買いの場合:
政府は,民間の銀行あるいは日本銀行に外為証券(外国為替資金証券)
を発行して介入のための円資金を調達(2000年以前はもっぱら日銀が
引き受けていた).この円資金を外為市場で売って,代わりに米ドル
を購入.入手したドルは大半は米国債の購入にあてられる.

ただし,外為証券の発行には限度枠が決められている.2010年度の
場合は145兆円.このうち実際に使えるのは35兆円程度.

不胎化(sterilization)と非不胎化
介入で供給した円資金を,日本銀行が回収することを不胎化.
そのまま放置しておくことを非不胎化という.非不胎化の場合は,
事実上の金融緩和措置を行うことになる.今回は,日本の景気が
よくないことを考慮して日本銀行は非不胎化を選択.

介入で供給した円資金を回収(不胎化)するとき,日本銀行は
売りオペの公開市場操作を行います.民間(主に銀行)に対して
国債を売却し,代わりに円資金を吸い上げます.

■過去の介入実績
・財務省は,1991年5月13日の介入分から外国為替市場での介入額を公表.
・2001年7月13日に,上記の過去の分を初めて公開.
・2004年3月16日までの14年間に行った市場介入の総額は368日,
金額で総計69兆4443億円
・そのうち円買い介入は32日のみで,その他93%は円売り介入.
金額では,円買い介入は4兆8000億円余り,その他はすべて円売り介入.
対象通貨はほとんどが米ドル
・円売り介入で最も大規模だったのが2003年1月から2004年3月までの
1年3カ月間,継続的に実施した円売りドル買い介入総額は35兆円
・上のような巨額の円売りドル買いを実施したが,2004年1月には
逆に105円台まで徐々に円高が進んでしまった.

過去の介入からの教訓
・日本だけの単独介入では効果はほとんどない.一時的.
・米国やその他の国との協調介入の場合には効果がある.
・協調介入の代表例は1985年9月22日のプラザ合意時

過去の日本の介入については以下を参照してください.

笹山茂(2006)「米国の『双子の赤字』問題と日本への影響」
青木・馬田編著『日米経済関係論』勁草書房 の第3節

関連出来事

2010.09.14(火) 東京外為、円相場は一時、1ドル=83円09銭まで上昇。
約15年3か月ぶりの円高水準。その後、ロンドン市場で83円07銭まで上昇。
菅首相が再選されると、「小沢氏は(円売り・ドル買いの)市場介入に積極
的だが、菅首相は慎重」から円高進む
2010.09.14(火) NY外為、円相場一時1ドル=82円97銭まで上昇、1995年
5月下旬以来、約15年3カ月ぶりの円高水準
2010.09.15(水) 東京外為、一時、1ドル=82円87銭。東京市場で1ドル=
82円台をつけるのは、1995年5月以来、約15年4カ月ぶり
2010.09.15(水) ★政府・日銀、午前10時35分すぎ、2004年3月以来6年半
ぶりとなる円売り・ドル買い介入実施。介入水準は1ドル83円。ロンドン、NY
でも介入を継続。15日の介入規模は1.8兆円、1日の円売り介入額としては過去最大
2010.09.15(水) 日銀、為替介入で金融市場に放出した円資金をあえて吸収
しない「非不胎化」を行うことを決定
2010.09.15(水) 日経平均終値、217円25銭(2.34%)高の9516円56銭
2010.09.15(水) 米下院歳入委員会のレビン委員長,日本の円売り介入に
ついて「非常に困惑している」
2010.09.16(木) ユーロ圏財務相会合議長を務めるユンケル・ルクセンブルク首相、
日本の円売り・ドル買い介入について「単独介入は好ましくない」と批判

■秋学期最初の講義(2009年)

2009年の秋学期もスタートは「世界金融危機」がテーマです.ただし,今回は「リーマンショックから1年」です.2008年9月15日,リーマン・ブラザーズが大方の予想に反して米政府の救済を受けられず破綻したことが,今日まで続いている世界金融危機の象徴となったといっていいでしょう.サブプライムローン問題から発した「世界金融危機」のこれまでを簡潔に整理しておきましょう.

1)サブプライムローン問題が世界に広がるきっかけとなったのは、2007年8月、フランスの銀行BNPパリバによる傘下のファンドの凍結発表からである(パリバショック)。
2)サブプライムローンが密かに組み込まれた様々な証券化商品を通して、米国のサブプライム問題がヨーロッパ、日本、中進国、世界に波及した。
3)サブプライム問題の背景には米国住宅市場のバブル経済とその崩壊があることが重要。
4)2008年に入ると、米国ではサブプライムローン問題をきっかけに多くの金融機関の破綻が相次いだ。3月にはベアー・スターンズ証券、9月には住宅金融公社のファニーメイとフレディマック。15日には証券4位のリーマン・ブラザーズが破綻(リーマン・ショック)。他の金融機関は政府による救済や他企業による救済買収が行われたが、リーマンだけは政府からの救済の手は差し伸べられなかった。リーマン・ショックが米国の金融不安とその後の米経済の景気後退のシンボル的な出来事となった。米3位のメリルリンチ証券はバンク・オブ・アメリカに救済合併され、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを含めた米国の投資銀行は銀行持ち株会社に業態を変えることになった。
5)ブッシュ政権は金融安定化法案により、金融機関への公的資金の注入を実施。
6)日米欧の中央銀行は、08年末から09年にかけて政策金利を一斉に引き下げる協調利下げを実施。米のFRBは12月に事実上ゼロ金利政策を実施するに至った。日銀も無担保コール翌日物金利を0.1%に引き下げた。
7)米国の金融システムの崩壊とそれに続く株式市場の暴落と低迷で企業、家計は支出を大幅に削減。その影響が端的に現れたのが自動車産業である。米国での新車販売台数は30%近く減少。米国では消費市場が大幅に冷え込む。
8)日本の金融機関もサブプライム問題から影響を受けたが、米国ほどではなかった。日本が最も大きな影響を受けたのは、一連の金融不安から経済不況へ突入したアメリカ経済へ多く依存していた産業、具体的には自動車、エレクトロニクスなどである。日本から米国への輸出は大幅に減少、同時に米国経済の低迷から円相場は円高ドル安方向(1ドル90円台)にシフトし、それがさらにこれらの産業の収益を圧迫。トヨタ、日産、ソニー、日立等、米国依存が高い日本の主な企業は軒並み最終赤字を記録する見通しとなった。
9)2009年に入り、米国をはじめ日本でも各企業が業績悪化により雇用の削減に拍車をかけ、米国・日本等では失業率の上昇あるいは有効求人倍率の低下となってあらわれ、雇用環境が急速に悪化している。まさに恐慌の様相を呈している。
10)2009年発足した米のオバマ政権は、7870億ドルにのぼる景気刺激策を含む法案を成立させた。米国では「ケインズ経済学の復活」あるいは第二のニューディール政策とも言われている。
11)日,米,欧経済は2009年夏以降,GDPの低下に歯止めがかかり,「底を打った」との見方が政策当局者から発せられているが,これらの国では雇用環境は依然悪化をたどっており,いまだ世界恐慌を脱したといえる状況にはない.

●関連年表(2009年1月〜9月)----------------------------

2009.01.08(木) ★日銀,社債やCPなどを担保に金融機関に政策金利の0.1%で担保の範囲内で無制限に資金を貸し出す新型の公開市場操作を実施(「企業金融支援特別オペレーション」).第1回目は1兆2248億円を14日から4月3日まで供給

2009.01.08(木) ★英イングランド銀行,政策金利を0.5%引き下げ年1.5%に決定.利下げは4カ月連続,英中銀の1694年の創設以来初めて1%台に低下

2009.01.16(金) ★米シティグループ,事業を2つに分割すると発表.銀行,投資銀行,カード業務は中核事業の「シティコープ」.証券仲介事業,消費者金融業は非中核部門の「シティ・ホールディングス」.非中核事業はリストラ・売却へ

2009.01.20(火) ★オバマ米大統領就任式(第44代)

2009.01.22(木) ★ソニー,2009年3月期の連結営業損益は2600億円の赤字の見通しを発表.14年ぶりの営業赤字

2009.01.23(金) ★英政府,08年10ー12月期実質GDP,前期比1.5%減,7−9月期(0.6%減)に続く2期連続のマイナス.90年後半以来約18年ぶりに景気後退

2009.01.30(金) ★トヨタ自動車,2009年3月期の連結業績,営業損益は4000億円前後の赤字に下方修正の見通し.従来予想は1500億円の赤字.わずか1カ月で赤字幅が2000億円程度拡大.最終損益も初の赤字に転落する見込み.最終赤字に転落するのは最終損益の公表を始めた1963年11月期以来初

2009.01.30(金) ★米商務省,08年10ー12月期の実質GDP年率換算で前期比マイナス3.8%.

2009.02.13(金) ★ユーロ圏(15カ国)の08年10−12月期域内実質GDP前期比1.5%減,過去最大の減.ドイツの成長率はマイナス2.1%

2009.02.16(月) ★★内閣府,08年10ー12月期の実質GDP,前期比3.3%減,年率換算12.7%減.輸出が過去最大の落ち込み.前期比成長率の寄与度では外需が3.0ポイントのマイナス.年率換算で2ケタ台のマイナスは第1次石油危機の影響を受けた74年1ー3月期(13.1%減)以来35年ぶり,戦後2度目.マイナス成長は3四半期連続.名目GDPは前期比1.7%減,年率6.6%減.GDPデフレーターは前年同期比0.9%のプラス,1998年1−3月期以来約10年ぶりのプラス
         第一次石油危機時との比較
         74年1−3月期   08年10ー12月期
実質成長率     ▲3.4%      ▲3.3%
(年率)     (▲13.1%)   (▲12.7%)
外需寄与度     0.4ポイント    ▲3.0ポイント
鉱工業生産下落率  ▲0.2%      ▲12.0%
完全失業率     1.3%       4.0%
円相場       290.80円    96.10円
CPI上昇率    22.0%      1.0%

2009.02.17(火) ★オバマ米大統領,コロラド州デンバーで約7800億ドル(約72兆円)の景気対策法案に署名,同法成立

2009.03.02(月) ★米財務省と米FRB,米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)へ300億ドル(2兆9000億円)の追加増資を発表.
2009.03.02(月) AIG,08年10ー12月期決算,最終損益が616億6000万ドル(約6兆円)の赤字.08年通期では992億8900万ドル(約9兆6000億円)の純損失.米国の企業史上過去最大の赤字

2009.03.14(土) ★G20財務相・中央銀行総裁会議(ホーシャム,英国南部)共同声明,「経済成長を回復するため,あらゆる手段を取る」.FRBのバーナンキ議長,日銀の白川総裁は欠席
・IMFの資金基盤の増強と融資枠拡大が必要
・アジア開発銀行の増資が必要
・保護主義と戦い,自由貿易と投資を維持する
・ヘッジファンドなどを金融監督・規制の対象に
・格付け会社やヘッジファンドに登録制を導入
・金融機関に好況時の自己資本積み増しを要請
(参考)G20主要国の政策金利(%)
日本    0.1
米国    0ー0.25
英国    0.5
ユーロ圏  1.5
インド   5
中国    5.31
ブラジル 11.25
ロシア  13

2009.03.18(水) ★★米FRB,FOMCで長期国債を向こう半年で最大3000億ドル(29兆円)購入することを全会一致で決定.大規模な長期国債購入は約半世紀ぶり.FF金利の誘導目標は現行の0-0.25%に据え置き.住宅ローン担保証券購入は2.5倍の1兆2500億ドルに増額.政府機関債購入は2000億ドルに倍増.日米英が「量的緩和」で協調
  日米英の金融政策
     政策金利    長期金利  国債発行残高(GDP比)   長期国債購入
日銀  0.1      1.25  686兆円(1.38倍)  月1兆8000億円
FRB 0.0ー0.25 2.53  561兆円(41.64%) 半年で29兆円
BOE 0.5      3.11  71兆円(35.98%)  3カ月で10兆円

2009.03.23(月) ★ガイトナー米財務長官,政府と民間投資家が共同で金融機関の不良資産を買い取る枠組みを発表.政府は最大1000億ドル(9兆7000億円)の公的資金を拠出.保証や低利融資を組み合わせ5000億ー1兆ドルの不良資産を金融システムから分離する.ローン債権は買い取り価格を投資家の入札で決める

2009.04.02(木) ★★G20首脳会議(金融サミット,ロンドン),首脳宣言を採択.
・景気対策の総額が10年末までに5兆ドル(500兆円)
・各国の追加経済対策で世界の成長率を4%押し上げ
・2010年末までに世界全体で2%を超す経済成長率を実現する
・G20合計で09年中に1900万人の雇用を作り出す
・金融安定化フォーラムを強化しIMFとの連携を拡大
・ヘッジファンドも規制・監督の対象にする
・タックスヘイブン地域の特定
・格付け機関への登録制導入
・IMFの資金基盤拡充
・SDRの新規配分による新興・途上国への資金支援
・IMFでの新興国の発言権拡大
・09年秋まで新たな貿易障壁を設けないとの誓約の期間を延長
・貿易金融への支援拡大での協調

2009.04.10(金) ★政府・与党,追加経済対策「経済危機対策」を決定.GDP成長率2ポイント引き上げと40-50万人の雇用創出を見込む.新たに国債発行10兆円
・財政支出15兆4000億円,事業規模は56兆8000億円で過去最大
・雇用調整助成金の拡充
・職業訓練中の生活費支援
・失業者への住宅手当
・省エネ家電の購入補助
・低燃費車の買い替え補助,最大25万円補助
・太陽光発電の普及促進
・子育て応援特別手当,3−5歳の子ども1人あたり36000円を支給
・子宮頸ガン,乳がんの検診料支援
・介護職員の待遇改善
・中小向け保証枠拡大,緊急保証枠を30兆円に拡大
・政府機関による株式買い取り準備
・頭金なしで住宅ローン「フラット35」利用可能に
・地方向け臨時交付金
・羽田空港の滑走路延伸
・3大都市圏環状道路の緊急整備
・農地の大規模集約化に協力した農家に助成
・贈与税減税,無税枠を500万円拡大
・企業の研究開発減税の拡充
・中小企業の交際費の損金算入拡大

2009.04.16(木) ★中国国家統計局,1-3月期実質GDP前年同期比6.1%成長,92年以降で最低水準

2009.04.21(火) ★IMF,世界金融安定性報告(GFSR)で推計公表,米国,欧州,日本の3市場での融資や証券化商品に関する金融機関の損失が2007年から10年までの累計で4兆540億ドル(約397兆円).金融システムの安定には,米欧の銀行はさらに合計で8750億ドル(85兆円)ー1兆7000億ドル(166兆円)の資本増強が必要

2009.04.27(月) ★政府,09年度の実質GDP成長率マイナス3.3%に下方修正.名目はマイナス3.0%

2009.04.29(水) ★米商務省,09年1-3月期の実質GDP前期比年率換算6.1%減,3四半期連続のマイナス成長は第一次石油危機後の1974年第3四半期-75年第1四半期以来34年ぶり.減少幅は前期(6.3%)より縮小

2009.04.30(木) ★米クライスラー(1925年操業),ニューヨーク州の破産裁判所に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)に基づく会社更生手続きの適用を申請し経営破綻.米国とカナダ政府は同社に計100億ドル(1兆円)の支援を表明.イタリアのフィアットとの資本提携で再建を図る

2009.05.07(木) ★欧州中央銀行(ECB),政策金利を0.25%下げ年1.0%.公開市場操作を通じた金融機関への資金供給期間を現行の6カ月から1年に延長.「量的緩和」に踏み込む
     日米欧の金融政策
     政策金利     通貨供給拡大策
日銀   0.10%  長期国債,社債の購入
FRB  0ー0.25 長期国債,住宅ローン担保証券の購入
BOE  0.50   長期国債,社債の購入
ECB  1.0    金融機関へ長めの資金供給,金融機関発行の債券を一部を購入

2009.05.07(木) ★米FRB,米主要金融機関19社に対して実施した資産検査(ストレステスト)の結果を発表.10社に合計746億ドル(7.4兆円)の資本増強を求める
(注)ストレステスト:今後2年間に経済が悪化するという想定で金融機関の自己資本が損失を補うのに十分かどうかを算出する
  金融機関別の資本不足額(ストレステストの結果)単位億ドル
              資本増強の必要額   リスク資産の残高
バンク・オブ・アメリカ   339(3.3兆円) 16,338
ウェルズ・ファーゴ     137        10,823
GMAC(自動車金融)   115         1,727
シティグループ        55         9.962
リージョンズ(地銀)     25         1,163
サントラスト(地銀)     22         1,620
モルガン・スタンレー     18         3,106
キーコープ(地銀)      18         1,067
フィフス・サード(地銀)   11         1,126
PNCファイナンシャル(地銀) 6         2,509
 合計           746億ドル
資本増強必要なし
JPモルガン・チェース              13,375
ゴールドマン・サックス               4,448
メットライフ(保険)                3,264
USバンコープ(地銀)               2,306
キャピタル・ワン・ファイナンシャル(地銀)     1,318
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(信託銀)    1,158
BB&T(地銀)                  1,098
アメリカン・エキスプレス              1,044
ステート・ストリート(信託銀)             696

2009.05.08(金) ★トヨタ自動車,2009年3月期の連結決算,最終損益が4369億円の赤字と発表.08年3月期の1兆7178億円の最終黒字から一転赤字.10年3月期も5500億円の最終赤字の予想

2009.05.11(月) ★米政府,2009会計年度(08年10月ー09年9月)の財政赤字,1兆8410億ドル(約180兆円)と予測.GDP比で戦後最悪の12.9%まで悪化.2010会計年度の財政赤字は1兆2580億ドルと予測,GDP比では8.5%.09年暦年の実質GDP成長率はマイナス1.2%,10年はプラス3.2%,11年は同4.0%と予想

2009.05.20(水) ★★内閣府,09年1-3月期実質GDP前期比4.0%減,年率換算15.2%のマイナス,戦後最悪の落ち込み.08年度の実質GDPは前年度比3.5%減,01年度以来7年ぶりのマイナス成長で戦後最大の減少幅を記録
   戦後成長率ワースト5(四半期)
1 2009年1ー3月    15.2%
2 2008年10ー12月  14.4
3 1974年1ー3月    13.1
4 1998年1ー3月     7.7
5 1989年4ー6月     5.6

2009.06.01(月) ★★米GM,連邦破産法11条の適用をNYの連邦破産裁判所に申請し破綻.米製造業史上最大の経営破綻,負債総額1728億ドル(約16兆4000億円).米政府は301億ドル(2兆9000億円)を追加融資,GMの株式の6割を所有し,事実上国有化.カナダも95億ドル追加融資.8月末を目標に新会社への資産譲渡など破産法手続き完了をめざす.

2009.06.17(水) ★米政府,金融危機再発防止に向けた金融規制改革案.FRBが証券・保険含めた大手金融機関を監督.1930年代以来80年ぶりの抜本改革
・大手金融機関はFRBが一元的に監督
・OTS(貯蓄金融機関監督局)を廃止しOCC(通貨監督庁)に統合
・金融消費者保護庁の創設
・金融監督協議会の創設

2009.07.01(水) ★日銀,6月の日銀短観,業況判断指数大企業製造業マイナス48,前回(3月)調査比10ポイント改善,改善は06年12月以来2年半ぶり.輸出などの持ち直し.09年度の設備投資計画は前年度比24.3%減に下方修正

2009.07.16(木) ★中国国家統計局,4-6月期GDP,前年同期比7.9%成長.4兆元(55兆円)の景気対策の効果

2009.07.28(火) ★S&P,5月の「S&Pケース・シラー住宅価格指数」,主要10都市平均で前年同月比16.8%下落.下落率は1月(19.4%減)以降4カ月連続で縮小.前月比では約3年ぶりに上昇

2009.08.06(木) ★イングランド銀行,金融政策委員会で量的金融緩和策拡大を決定.英国債などの1250億ポンド(約20兆円)の買い取り計画を7月末に達成したが,融資の伸び悩み解消のため,買い取り目標を500億ポンド(約8兆円)増加

2009.08.12(水) ★日銀,7月の企業物価指数前年同月比8.5%下落,1960年の統計開始以来最大の下落率を更新

2009.08.13(木) ★IMF,約2845億ドル(約27兆1000億円)相当のSDRを加盟186カ国に新たに配分することを正式発表.7月に理事会で決定した約2500億ドル相当の「一般配分」に加え,1997年に承認した「特別配分」が米国などの同意で発効.SDRの割り当ては総額で約3160億ドル相当で現在の約10倍

2009.08.13(木) ★EU統計局,ユーロ圏16カ国の4-6月期実質GDP,前期比0.1%減に改善.1-3月期は年率換算でマイナス10%弱.ドイツ(0.3%)とフランス(0.3%)はプラス成長に転じる

2009.08.25(火) ★オバマ米大統領,バーナンキFRB議長の再任(2010年1月末から4年間.1期は2006年2月から)を発表.「1930年代の大不況への深い造詣を生かし,崩壊の縁にあった金融システムと底割れしかかった経済を救った功労者だ」

2009.08.28(金) ★総務省,7月の完全失業率5.7%,前月比0.3ポイント悪化し,過去最悪を更新
2009.08.28(金) ★厚生労働省,7月の有効求人倍率0.42倍,前月比0.01ポイント低下し,3カ月連続で過去最低を更新.熊本県の有効求人倍率は0.35倍,前月比0.01ポイント低下,全国順位は35位
2009.08.28(金) ★総務省,7月の消費者物価指数,生鮮食品を除く総合100.1,前年同月比2.2%下落.下落は5カ月連続.下落率は前月の1.7%を上回り比較可能な1971年以降で最大

2009.08.30(日) ★衆議院選挙,民主党歴史的大勝,政権交代.野党第1党が選挙で過半数をとり政権を奪取するのは戦後初.投票率は69.28%で過去最高,7201万人が投票

2009.09.01(火) ★8月の国内新車販売(軽自動車を除く),前年同月比2.3%増の19万8265台,08年7月以来1年1カ月ぶりの増.8月の軽自動車新車販売,同5.1%減の11万287台,10カ月連続の減

2009.09.04(金) ★米労働省,8月の失業率は9.7%,前月比0.3ポイント悪化.1983年6月以来最悪の水準.非農業部門の雇用者数は前月比21万6000人減

2009.09.10(木) ★日銀,8月の企業物価指数前年同月比8.5%低下,7月と並び1960年の統計開始以来最大の下落率

2009.09.15(火) ★リーマンショックから1年.NYダウ9683.61ドル.リーマン破綻直前の08年9月12日比では15.2%安
2009.09.15(火) 米FRBバーナンキ議長,07年12月に始まった戦後最長の米国の景気後退は「現時点で終わっている可能性が非常に高い(very likely over)」

2009.09.16(水) ★鳩山連立内閣発足

秋学期最初の講義(2008年)

2007年に引き続いて,2008年は「サブプライム問題」に端を発した「米国の金融危機」が最も大きな話題です.
2008年の米国で起きている金融危機の経過は次のように整理することができます.2007年はサブプライム問題が世界中に拡散したことが大きな問題となりましたが,2008年はサブプライム問題の震源地である米国の金融システムが大激震に見舞われました.1929年の「大恐慌」(The Great Depression)以来の大混乱とか「100年に1度の出来事」とか表現されています.

根っこは「サブプライム問題」
(1)3月 証券5位ベアー・スターンズの破綻
   FRBが救済.緊急融資
   JPモルガン・チェース(銀行)がベアー・スターンズを救済買収(3月16日(日))

8月9日 「パリバ・ショック」から1年(サブプライム問題が表面化)

(2)9月7日(日) 財務省,連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)を救済.公的資金総枠2000億ドル(21兆6000億円)投入

(3)9月15(月) 米リーマン・ブラザーズ(米4位の証券会社)破綻,負債総額は6130億ドル(約64兆3600億円)で米史上最大.米政府は救済せず

(4)9月15(月) 米メリル・リンチ証券(米証券3位),500億ドル(5兆3000億円)でバンク・オブ・アメリカ(米銀行2位)に買収される(救済買収)

(5)9月16日(火) 米政府,経営難の米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を救済.米政府がAIGの79.9%の株式を取得

9月18日(木) 日米の主要6中央銀行(FRB,日銀,欧州中央銀行,英イングランド銀行,カナダ銀行,スイス国立銀行),協調して自国の短期金融市場に総額1800億ドル(約18兆7200億円)の米ドルを供給する緊急対策を発表

(6)9月20日(土)  米政府の総合的な金融安定化対策.最大7000億ドル(約75兆円)の公的資金投入.米議会で審議中(26日現在)

この中で,リーマン・ブラザーズの破綻は今回の米金融危機の最も印象に残る出来事だったのではないでしょうか.リーマンの破綻前までは,米政府は大きな金融機関を救済してきたからです.リーマンは破綻させ,AIGは救済するというその線引きについて米国政府による明確な説明はありませんが,破綻させた場合の経済に与える影響の大きさで判断したのではないかと思われます.

米リーマンの破綻により,その日本法人リーマン・ブラザーズ証券も事実上倒産しました.リーマン・ブラザーズ証券といえば当時のライブドア(堀江貴文)が2005年2月ニッポン放送とフジテレビを買収しようとしたとき,その資金を提供した金融機関として有名になりました.

10年前,日本でも同じような出来事が起きました.既視感(デジャブ).
1997年11月,当時の3大証券の一角,「山一証券」が破綻,消滅しました.山一を引き継いだのが米のメリルリンチ証券だったわけですが,奇しくも今回の米金融危機でそのメリルリンチ証券は,米第2位の銀行「バンク・オブ・アメリカ」に救済合併されることになりました.「歴史は繰り返す」とはよく言ったものです.米国の5大証券のうち,今現在残っているのは1位のゴールドマン・サックス,2位のモルガン・スタンレーだけです.この2社も米政府の意向により投資銀行(証券会社)から「銀行」へ業態を変えられ,今後は財務省・連邦準備理事会の厳しい監視下に置かれることとなりました.

(参考)
AIGグループの日本事業の概要(億円,2007年度)
生保          保険料収入
 アリコジャパン    14,657
 AIGエジソン     4,073
 AIGスター      2,663
損保
 AIU         2,660
 アメリカンホーム      826
 ジェイアイ傷害火災     137

昨年まで連日派手なTVコマーシャルを流していたAIGグループの「アリコジャパン」.当時,どれだけの人が2008年9月の姿を想像できたでしょうか.
(注意)アフラックはAIGとは関係のない別会社です.

■2008年の米金融危機関連の出来事

2008.02.11(月) 米証券大手ベアー・スターンズのアナリスト,サブプライムローンに絡む米主要金融機関の評価損,最大で1750億ドル(18兆7000億円)に達するとの見通しを発表

2008.03.14(金) ★NY連銀,JPモルガン・チェースを通じて米証券大手ベアー・スターンズに緊急融資枠を設定.ベアー社,サブプライムで損失,資金繰り危機

2008.03.16(日) 米FRB緊急理事会,資金繰り難に直面した金融機関に貸し出す際の公定歩合を0.25%幅引き下げ年3.25%.銀行に限ってきた公定歩合での融資対象を証券会社に広げる新制度(プライマリーディーラー向け貸し出し)も導入.米証券大手ベアー・スターンズ救済策

?2008.03.16(日) ★JPモルガン,ベアー・スターンズ社の買収を発表.買収は株式交換方式で買収額はベアー社の株式1株当たり約2ドル総額で2億ドル強.FRBは最大300億ドルの特別融資を実施することで合意

2008.03.24(月) NY連銀,ベアー・スターンズ支援策詳細を発表.JPモルガン・チェースは10億ドル出資し,ベアーが抱える300億ドル(3兆円)の不良資産を分離する受け皿会社を設立.NY連銀が買い取り資金を(290億ドルを公定歩合2.5%で)貸し出す,10年で処理する

2008.08.09(土) サブプライムローン問題,「パリバ・ショック」から1年?米欧主要金融機関10社の時価総額の合計は07年7月末から08年7月までで4300億ドル(46兆円)目減り?07年7月末から08年7月末までの投信545本のうち85%の基準価格が下落,下落率は最大で5割超.国内大手銀行6グループのサブプライム関連損失は6月末までで1兆375億円.地銀・証券・保険などを加えると3月末で1兆9000億円.野村のモノライン関連損失630億円を加えると,国内勢の累計損失は2兆200億円

2008.09.07(日) ★ポールソン米財務長官,経営難に陥っている連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)を政府の管理下に置くと発表.公的資金総枠2000億ドル(21兆6000億円)投入?(1)両社を政府の管理下に置くとともに,両社の経営トップを退陣させる?(2)両社の優先株を政府が購入する計画に合意し必要に応じて資本を注入する?(3)財務省が両社の資金繰りを確保するため融資を実施する?(4)両社の資金調達を助けるため,両社が発行している債券を一時的に購入して流動性を支援する

2008.09.14(日) 米FRB,FRBによる資金供給時に金融機関から受け取る担保拡大など市場への流動性供給制度を拡充すると発表.証券会社向けの資金供給制度(プライマリー・ディーラー・クレジット・ファシリティ=PDCF)と国債供給制度(ターム・セキュリティ・レンディング・ファシリティ=TSLF)が対象

2008.09.15(月) ★★米リーマン・ブラザーズ(米4位の証券会社)破綻,連邦破産法11条の適用を申請したと発表.精算の手続きへ.負債総額は6130億ドル(約64兆3600億円)で米史上最大.買い手交渉不調(バンク・オブ・アメリカとバークレイズ).リーマンは1850年創業.?リーマンの最大社債保有社は,米資産運用会社大手PIMCOで金額は約22億ドル

?2008.09.15(月) ★米メリル・リンチ証券,500億ドル(5兆3000億円)でバンク・オブ・アメリカへ売却.バンク・オブ・アメリカ,米大手証券メリルリンチの買収で合意したと発表

2008.09.16(火) ★米FRB,経営難の米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対しニューヨーク連邦準備銀行が850億ドル(約9兆円)を上限に融資することを承認したと発表.融資枠の設定は2年間,AIGの全資産を担保に融資.米政府がAIGの79.9%の株式を取得.普通株と優先株の配当の支払いを拒否する権利を持つ

2008.09.17(水) 米SEC(証券取引委員会),「空売り」(short selling)規制をすべての上場銘柄に導入すると発表

2008.09.17(水) 英金融大手バークレイズ,経営破綻した米証券大手リーマン・ブラザーズの米国の主要事業を17億5000万ドル(約1900億円)で買収合意を発表

2008.09.18(木) 日米の主要6中央銀行(FRB,日銀,欧州中央銀行,英イングランド銀行,カナダ銀行,スイス国立銀行),協調して自国の短期金融市場に総額1800億ドル(約18兆7200億円)の米ドルを供給する緊急対策を発表.NY連邦準備銀行と自国通貨とドルとを売買する「スワップ協定」を締結し,入手したドルをドルが必要な民間金融機関に貸し出す.日銀は600億ドル(約6兆2400億円)を分担

2008.09.18(木) 現金に準じる安全な金融商品とされる米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)で「元本割れ」発生.元本割れしたのは米資産運用会社リザーブ・マネジメントが運用するMMF

2008.09.20(土) ★米政府の総合的な金融安定化対策の原案明らかになる.公的資金による不良資産の買い取りは最大7000億ドル(約75兆円).2年間の時限措置,不良資産買い取りの対象金融機関は「米国でかなりの事業を展開しているケース」,米国の金融機関に限定していた当初案を修正

2008.09.21(日) 米FRB,米証券1位ゴールドマン・サックスと同2位モルガン・スタンレーの銀行持ち株会社化を承認したと発表

2008.09.22(月) 三菱UFJフィナンシャル・グループ,米証券大手モルガン・スタンレーに出資し普通株式のうち20%を取得すると発表.最大出資額は9000億円程度
2008.09.22(月) 野村ホールディングス,経営破綻した米証券大手リーマン・ブラザーズとの間で日本を含むリーマンのアジア太平洋部門の買収で基本合意
2008.09.23(火) ★野村ホールディングス,破綻したリーマン・ブラザーズの欧州と中東地域の株式,投資銀行事業を買収することでリーマンと基本合意に達したと発表
2008.09.23(火) 米証券1位ゴールドマン・サックス,総額75億ドル(7900億円)の増資実施を発表.米投資家ウォーレン・バフェット氏の投資会社バークシャー・ハザウェイが優先株50億ドル分を引き受け,残りの25億ドルは公募増資で普通株を発行
2008.09.24(水) ★日銀,初のドル資金供給オペの入札を実施,金額は300億ドル.実際の応札は296億2200万ドルの「札割れ」
2008.09.24(水) 日銀,短期金融市場に1兆5000億円の資金を供給(買いオペ)実施.リーマン破綻後6営業日連続で総額は14兆円
2008.09.24(水) ゴールドマン・サックス,公募増資による普通株発行を23日公表の2倍の50億ドルへ引き上げを発表.増資総額は100億ドル
2008.09.25(木) ★米貯蓄金融機関(S&L)最大手のワシントン・ミューチュアル(ワシントン州)経営破綻.預金を持つ米金融機関の破綻では過去最大.米大手銀JPモルガン・チェースが19億ドル(約2000億円)で救済買収.ワシントン・ミューチュアルの総資産は3070億ドル(32兆5000億円),預金量は1880億ドルで全米第6位
2008.09.26(金) 野村ホールディングス,リーマン・ブラザーズの欧州・中東部門の買収額はわずか2ドル(210円)
2008.09.27(土) 米AIG,日本のAIGエジソン生命とAIGスター生命の2子会社売却を検討
2008.09.28(日) ★★米ブッシュ政権,金融安定化法案について米議会と大筋で合意
・政府が金融機関から最大7000億ドル(約75兆円)の不良資産を買い取る
・まず2500億ドルを投入
・その後大統領の判断で追加の1000億ドルを投入
・2年以内に残りの3500億ドルを議会の了承を得て実施
・金融機関の株式引受権を政府が取得
・支援対象となる金融機関の役員報酬を制限
・公的資金の支出を監視する組織を設置
・投資家のリスク軽減のための保険制度を新設
2008.09.29(月) 日経平均終値,前週末比149円55銭(1.26%)安の1万1743円61銭
2008.09.28(日) ★ベルギー,オランダ,ルクセンブルクの3カ国政府,経営危機に陥った金融大手フォルティス(ベルギー最大手の金融機関)に3カ国が総額112億ユーロ(約1兆7300億円)の資本を注入し部分国有化すると発表.各国がフォルティスの各国現法の株式49%をそれぞれ買い取る.公的資金投入額はベルギーが47億ユーロ,オランダが40億ユーロ,ルクセンブルクが25億ユーロ
2008.09.29(月) ★米連邦預金保険公社(FDIC),米銀行2位のシティグループが同6位のワコビア(Wachovia)の銀行業務を買収すると発表.買収額21億ドル
 (参考)米銀行の預金量ランキング
1 バンク・オブ・アメリカ   8065億ドル
2 JPモルガン・チェース   7976億ドル 
3 シティバンク        7729億ドル    
4 ワコビア          4509億ドル   
5 ウエルズ・ファーゴ     3432億ドル   
6 ワシントン・ミューチュアル 1882億ドル
7 USバンク         1432億ドル
8 サントラスト        1208億ドル
9 HSBCバンクUSA    1194億ドル
10ナショナル・シティ     1045億ドル
2008.09.29(月) ★英政府,住宅金融大手ブラッドフォード・アンド・ビングレー(B&B)の一部国有化を発表.210億ポンドの預金と約200の支店網をスペイン最大手銀サンタンデールに売却.リスクの高い住宅ローン420億ポンドなど残りの資産を英政府管理下に置く
2008.09.29(月) アイスランド政府,銀行グリトニルの国有化発表
2008.09.29(月) 独政府,不動産金融ヒポ・レアルエステートの緊急支援策をまとめる
2008.09.29(月) 日銀,短期金融市場に1兆5000億円資金供給,リーマン破綻から9営業日連続の供給
2008.09.29(月) 三菱UFJFG,米モルガン・スタンレーに21%出資することで正式合意したと発表.出資額は90億ドル(約9500億円).三菱UFJは筆頭株主
2008.09.29(月) 米連邦準備理事会(FRB),市場へのドル資金供給を拡大するため日欧などの中央銀行との通貨スワップ協定によるドル資金の融通額を現行の総額2900億ドルから6200億ドルに増やすと発表
2008.09.29(月) ★★米下院,最大75兆円の公的資金を投入する金融安定化法案を否決.反対228対,賛成205.共和党議員の2/3が反対
2008.09.29(月) ★NYダウ,史上最大の下げ幅,777.68ドル急落,終値10365.45ドル
2008.09.30(火) ★日経平均終値,前日比483円75銭(4.12%)安の1万1259円86銭.2005年6月9日以来約3年4カ月ぶりの安値.下げ幅は一時582円
2008.09.30(火) 日銀,午前と午後短期金融市場に計3兆円を即日供給する公開市場操作を実施.即日の資金供給は10営業日連続.外国銀行の無担保コール翌日物取引金利が日銀の政策目標(0.5%)を上回り0.7-0.8%台に高止まり
2008.09.30(火) フランス,ベルギー,ルクセンブルクの3カ国,仏ベルギー系の大手銀行デクシア(Dexia)に対し総額64億ユーロ(約9800億円)の公的資金を投入すると発表.デクシアは自治体向け融資の世界最大手
2008.09.30(火) ロンドン銀行間取引金利(LIBOR),翌日物金利前日比4.31%上昇の6.88%に上昇,過去最高を更新.1週間以上のドル資金の取引はほとんど成立しない状況
2008.09.30(火) ブラウン英首相,政府が保護する預金上限額を現行の3万5000ポンドの1.4倍の5万ポンド(950万)に引き上げる意向を表明
2008.09.30(火) ブッシュ米大統領演説,下院が否決した金融安定化法案の早期可決を強く促す
2008.09.30(火) 国際取引所連盟集計,世界の株式時価総額,8月末で49兆628億ドル(5100兆円),07年10月末比14兆ドル減少.9月末では42兆ドルで21兆ドル(2100兆円)目減り.21兆ドルは世界のGDP48兆ドル(06年)の4割強
 2007年10月末からの世界主要市場株価下落率
中国(上海)   61.5%
ロシア      46.3
香港       42.5
台湾       41.1
シンガポール   37.3
イタリア     36.3
インド      35.2
アルゼンチン   34.3
日本       32.7
フランス     32.4
豪州       31.7
スペイン     31.1
韓国       29.9
ブラジル     29.5
英国       28.3
スイス      27.9
ドイツ      27.6
南アフリカ    26.2
米国       25.6
カナダ      22.8
2008.09.30(火) NYダウ,485.21ドル高の1万850ドル66セント,過去3番目の上昇幅.金融安定化法案修正可決の期待から
2008.10.01(水) ★米上院,預金者保護の拡大などを盛り込んだ金融安定化法案の修正案を可決

秋学期最初の講義(2007年)

最近の話題から「サブプライム問題」(信用力の低い個人向け住宅融資)

サブプライムローン(subprime)とは,低所得者など信用力の低い米国の個人向けの住宅ローンのことです.最初の数年は低金利が適用されますがその後は大幅に金利が上がる仕組みです.このような住宅ローンが成立するのは,米国の住宅価格が年々上昇し続けるという前提があってのことです.住宅価格が上昇すればそれを担保に優良なローンに借り換えることができるのです.住宅価格バブルが崩壊すると,たちまちローンを返済できない個人が増え,住宅ローン会社は不良債権を抱え込むことになります.

米国の住宅ローンを借りる個人とローン会社だけの問題なら,サブプライム問題は米国内だけの問題として処理されるのですが,サブプライム問題は米国だけでなくヨーロッパは日本にまで波及しています.それはなぜでしょう.その答えは「証券化」です.米国の住宅ローン会社は,その債権を「住宅ローン担保証券」(RMBS: Residential Mortgage Backed Securities)として世界の金融機関に転売しました(例えるならば,トランプのババ抜きのババ).金融機関はRMBSを元に,その他の優良な債権などとミックスさせた「債務担保証券」(CDO: Collateralized Debt Obligations)を作り,世界中の投資家やヘッジファンドなどに販売しました(投資信託などとして).CDOの段階になるとサブプライムは表面からは完全にわからなくなってしまいます.どれがトランプのババのカードか見分けがつかなくなったのです.

本来なら,格付け機関(ムーディーズとかスタンダードアンドプアーズなど)が上のような債券をしっかり評価すべきなのですが,これらの格付け会社もサブプライム関連の債券に最上級の評価(トリプルA:AAA)を与えていました.

何段階にも証券化されたサブプライムローンですが,元手は住宅ローンです.これが破綻すれば,住宅ローンを担保とした債券の価格は大幅に下落し,これらを保有していた銀行や投資家は大損を被ります.この被害が世界中に広がっているのです.サブプライム問題が不気味なのは,「ババ」がどこに隠れているかよくわからないことで,世界中の関係者が疑心暗鬼になっていることです.

サブプライム関連の出来事

2007年になってからのサブプライム問題関連の出来事をまとめました.太字の出来事は特に重要です.

2007.03.13(火) NY証券取引所,経営破綻可能性からローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャルの上場廃止を発表.
(3月20日までに連邦倒産法第11章に基づく資産保全を申請した会社は4社、業務停止は20社以上となった)

2007.03.14(水) 米上院ドッド銀行住宅都市委員長,「サブプライムローン」(信用力の低い人を対象とした高金利型住宅ローン)の延滞増に懸念表明

2007.03.27(火) 米連邦預金保険公社(FDIC)のベア総裁,サブプライム住宅ローンで新たな規制が必要

2007.04.02(月) ニューセンチュリー・ファイナンシャル,米連邦破産法の適用を申請(サブプライム問題)

2007.06.22(金) 米証券大手ベアー・スターンズ傘下のヘッジファンド(ハイ・グレード・ストラクチャード・クレジット・ファンドなど2社),サブプライムに絡む運用に失敗,ベアー社32億ドルの資金支援

2007.07.10(火) 米格付け大手(ムーディーズ,S&P),サブプライム(信用力が低い個人)向け高金利型住宅ローンを担保にした証券の大量格下げに動く.ヘッジファンドの潜在的損失額最大で520億ドル(6兆3000億円)の可能性

2007.07.17(火) 米大手証券ベアー・スターンズ傘下のヘッジファンド2社,サブプライムで多額損失.エンハンスト・レバレッジは損失が出資金(6億4000万ドル)を全額食いつぶす.ハイ・グレードの損失率は9割超(出資金は9億3000万ドル)

2007.07.19(木) 米FRBバーナンキ議長,上院銀行住宅都市委員会証言,サブプライムローンの焦げつき最大で1000億ドル(12兆2000億円)の損失

2007.07.25(水) 野村ホールディングス,米国での住宅ローン債権「サブプライムローン」で1月から6月までの半年間に726億円の損失を出したと発表

2007.07.26(木) ★NYダウ,前日比311.50ドル安の1万3473.57ドルまで急落.一時450ドル超す下げ.世界同時株安の今年2月27日の急落(416.02ドル安)に次ぐ今年2番目の下げ幅.サブプライム不安が原因

2007.08.02(木) ★ドイツ中堅のIKB産業銀行,サブプライムローン投資に失敗.政府系金融機関が80億ユーロ(1兆3000億円)規模の資金支援に乗り出す

2007.08.03(金) 米REIT大手アメリカン・ホーム・モーゲージ・インベストメント,破産法の適用を申請.サブプライムローンの焦げ付き

2007.08.09(木) ★NYダウ,前日比387ドル18セント安の1万3270ドル68セント.下げ幅は上海株急落からの世界連鎖株安が起きた2月27日(416.02ドル安)以来今年2番目の大きさ.米国のサブプライム問題が欧州金融機関の経営にも飛び火したことを嫌気

2007.08.09(木) ★仏銀大手BNPパリバ,サブプライムローン焦げ付きを理由に傘下の3つのファンドを凍結.資産総額20億ユーロ(3200億円)→ サブプライム問題が世界中に広まったきっかけをつくった

2007.08.09(木) ★欧州中央銀行(ECB),米のサブプライム問題で信用不安を防ぐため欧州金融市場に948億ユーロ(15兆4000億円)を緊急供給

2007.08.14(火) サブプライム関連評価損.三菱UFJは7月末時点で約50億円,サブプライム関連の金融商品への投資は約2800億円.三井トラストの評価損は36億円.住友信託は2億円

2007.08.16(木) 米FRB,ニューヨーク連銀を通じ,米短期金融市場に50億ドル(約5700億円)の資金を供給.2日連続の資金供給.サブプライムローン問題を発端とする金融不安が広がった9日以降の資金供給は合計760億ドル(約8 兆6800億円)

2007.08.17(金) ★日経平均終値,前日比874円81銭(5.42%)安の1万5273円68銭.3日連続で年初来安値を更新し,2000年4月17日以来7年4カ月ぶりの下げ幅

2007.08.17(金) ★東京外為円相場,一時前日終値より4円45銭円高・ドル安の1ドル=111円60銭.1年2カ月ぶりの円高・ドル安水準

2007.08.17(金) ★米FRB,緊急で公定歩合を0.5%引き下げ年5.75%.期間は定めずFRBが市場の流動性が改善したと判断するまでの措置.公定歩合融資期間(discount window)を最大30日に延期.FF金利は据え置き

2007.08.19(日) サブプライム問題で,REIT運用の国内投資信託基準価格急落.国際投信投資顧問のワールド・リート・オープンは下落率15.8%で最大

2007.08.31(金) ★米FRBバーナンキ議長,サブプライムローン問題で金融不安の沈静化に全力をあげる意向を表明(ワイオミング,ジャクソンホール,Jackson Hole, Wyoming)

2007.08.31(金) ★ブッシュ米大統領,サブプライムローン問題で支援策を表明.国による信用保証の拡大,優遇税制の検討

2007.09.04(火) 日経新聞調査,全国の地方銀行109のうち23行がサブプライムローンに投融資.残高合計は520億円,損失は54億円ほど

2007.09.05(水) 米FRB,8月27日までの期間の地区連銀景況報告(ベージュブック),全般に「米経済の成長は継続している」ものの低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローンの焦げ付き急増を受けた信用収縮で「住宅市場の落ち込みが一段と悪化している」

2007.09.06(木) 欧州中央銀行(ECB),利上げ見送る.ユーロ圏13カ国に適用する政策金利は年4%で据え置き

2007.09.06(木) グリーンスパン前FRB議長講演,「サブプライム金融不安は株価が暴落した87年のブラックマンデーなどと市場心理が多くの点で一致している」

2007.09.07(金) ★米労働省,8月の非農業部門の雇用者数前月比4000人減(市場予想は11万人増),減少は2003年8月以来4年ぶり.サブプライム問題が雇用に影響.失業率は4.6%で前月と同じ

2007.09.14(金) 英政府とイングランド銀行,中堅銀行のノーザン・ロックを救済する緊急融資を実施すると発表.サブプライムローンの影響

2007.09.15(土) 英中堅銀行ノーザン・ロック(Northern Rock)に取り付け騒ぎ(bank run).サブプライム問題

2007.09.17(月) 英政府,住宅金融のノーザン・ロック(Northern Rock)の取り付け騒ぎで全預金保護を表明.サブプライム関連

2007.09.18(火) ★米FRB,政策金利FF金利の誘導目標を0.5%引き下げ,年4.75%とすることを全会一致で決定.利下げは2003年6月以来4年3カ月ぶり.サブプライム問題への対応

2007.09.19(水) ★日銀金融政策決定会合,前月に続いて利上げを見送り.無担保コール翌日物金利の誘導水準を0.5%前後に据え置く.8回連続で現状維持.賛成8反対1の多数決

2007.09.19(水) ★日経平均終値,前日比579円74銭高の1万6381円54銭.2002年3月4日(638円)以来5年半ぶりの大幅上げ

2007.09.20(木) 米FRBのバーナンキ議長,下院金融サービス委員会証言,「物価の安定と持続的な経済成長を維持するために,必要に応じて行動する」.サブプライム問題で必要なら追加利下げを示唆

2007.09.21(金) 英銀行最大手のHSBC,サブプライムローンを扱う米子会社「ディシジョン・ワン・モーゲージ」を閉鎖すると発表.サブプライムから撤退

2007.09.22(土) 英フィナンシャル・タイムズ報道,英中堅銀ノーザン・ロック(Northern Rock)は緊急融資を要請したイングランド銀行から合計約30億ポンド(約7000億円)を借り入れ.同行の預金の10%に相当.サブプライム関連

2007.09.24(月) ★国際通貨基金(IMF),国際金融の安定性に関する報告書(Global Financial Stability Report (GFSR)),米国のサブプライムローン問題で,金融機関などに最大2000億ドル(約23兆円)の損失の可能性との試算

2007.09.27(木) ★米FRB,ニューヨーク連銀を通じ4回に分けて合計380億ドル(約4兆4000億円)の資金を短期金融市場に供給.サブプライム問題で金融不安が広がった8月10日の規模と同等,同時テロ発生直後の2001年9月19日の503億5000万ドル以来の大量供給

2007.09.27(木) 米FRB,公定歩合融資残高26日時点でゼロ

2007.09.27(木) 米FRB,企業のCP発行残高26日までの1週間で0.7%減の1兆8554億ドル,7週連続の減.サブプライム問題の影響で住宅ローン債権を担保とする資産担保CP(ABCP)は7週間で22.9%減

消費関数とは[top]

国民所得の決定の議論で消費関数(consumption function)
が登場しましたが,消費関数にはそれ以外にもいくつかの
代表的な理論があります.それらをまとめておきましょう.
テキスト第6章参照.

消費関数の理論はクズネッツ(S. Kuznets)の事実観察を
整合的に説明する過程で発展してきました.

クズネッツの観察
1)長期の平均消費性向は一定(約0.9)
2)短期では,所得の増加につれ平均消費性向は低下する.

代表的な消費関数の理論
1.絶対所得仮説(absolute income hypothesis):
      ケインズ(J.M. Keynes)
2.相対所得仮説(relative income hypothesis):
       デューゼンベリー(J. S. Duesenberry)
3.恒常所得仮説(permanent income hypothesis):
      フリードマン(Milton Friedman)
4.ライフサイクル仮説(life cycle hypothesis):
  モジリアーニとアンドウ(Franco Modigliani and Albert Ando)

様々な消費関数の理論は,所得をどのような概念で
とらえるかという点で異なっています.

絶対所得仮説[top]

今期の消費は今期の(絶対的な)所得水準に依存する
という見方です.
消費水準が所得水準に比例するタイプです.

●APC(平均消費性向)  >  MPC(限界消費性向)
●APC は所得の増加につれ低下
●(欠点)長期APCの一定性を説明できない.
ケインズ型消費関数(これまで用いたのはこのタイプ)
は短期型の消費関数として位置づけられます.
短期分析用としては有効.
しかし,消費関数理論それ自体としてとらえた場合,
クズネッツの事実観察を説明できないという点で不完全です.

相対所得仮説[top]

今期の所得は今期の所得だけに依存するだけでなく過去
の所得,特に過去の最高所得(peak income)にも依存
することに注目します.
これを歯止め効果(ラチェット効果,ratchet effect)
といいます.
他方,個人の消費活動は空間的な相対所得,すなわち
他人の消費行動にも影響を受けます.
これをデモンストレーション効果(demonstration effect)
といいます.

   歯止め効果と消費関数

歯止め効果の消費関数
   
   Yo:過去最高所得

●Y1(好景気で今期の所得上昇)>Yo(過去最高所得A点) → 
短期APC =長期のAPC(長期線にそって上昇:原点からの直線)
消費点は長期線(傾きαーβ)に沿ってAからBに上昇
●Y2(不景気で今期の所得低下)<Y1(過去最高所得) → 
短期APCは急激に低下せずに短期線にそって緩やかに低下
(ラチェット効果) <長期のAPC(原点からの直線)
消費点はCに下がる

恒常所得仮説[top]

消費は今期の所得ではなく,恒常所得に基づいて行なわ
れるという理論.
恒常所得とは,長期にわたって得られることが予想される
平均的な所得のことです.

例えば,自動車や住宅を購入するときを考えてみて
ください.今期の所得だけでそれらの財の購入を決定
しているのではないはずです.
これまでの所得の推移を見て,今後も所得が増えていく
だろうという期待のもとで,現在の消費を決定している
のです.

(ポイント)
1.今期の所得は恒常所得(permanent income)と
変動所得(transitory income)からなる.
2.今期の消費(current consumption)は恒常所得に
比例する.
変動所得は消費活動に何ら影響を与えない.

所得は恒常と変動からなる     (1)
消費は恒常所得に依存        (2)
恒常所得の定義        (3)
短期の消費関数は,(3)を(2)に代入すると,
       
短期の限界消費性向は,c1β
平均消費性向は次の式
       

長期均衡(定常均衡)では,所得は一定値をとるとみなせます.
右辺でY = Y' とすれば,長期の平均消費性向=c1(一定値)
また,長期限界消費性向は次のようになります.
  長期限界消費性向 > 短期限界消費性向

      恒常所得仮説の図解

●初期均衡点をEとします.

●所得が増加したとする → 切片が上昇することにより,
短期消費関数は上方にシフト.この所得の増加はただちに
恒常所得の増加とは認識されないので,しばらくは,
元の消費関数上を移動する.
図ではEからAへの移動 → 所得の増加が恒常所得の増加
と認識されてから初めて,上方にシフトした短期消費関数
上に消費点は移動する.AからE' への移動.
●上の図で,E からA へ移る短期においては,所得の増加
につれて平均消費性向は低下することが見て取れる.
AからE' へ移る過程で平均消費性向は上昇する.
●長期均衡は,原点からE,E' を結んでできる半直線上にある.
長期平均消費性向は一定になる.

(注)所得が低下する局面では,上とは逆にしばらくは
上方の短期消費関数を左下方へ移動し,恒常所得の低下
が明らかになってから,下にシフトした短期の消費関数
に移動する.この過程で,平均消費性向は前半では上昇
し,その後低下する.

ライフサイクル仮説[top]

生涯(lifetimes)にわたる予想所得と資産の制約の下
で効用を最大化するような消費と貯蓄の組み合わせを
選択するというのがライフサイクル仮説です.消費の
ベースとなるのは,従って生涯所得となります.
次のような仮定の下で議論します.
1.個人は生涯にわたって一定の消費水準を維持でき
  るように生涯にわたった消費の配分を行なう.
2.実質資産は一定とする.
3.利子収入は無視する.
4.遺産は残さない.労働期間中に蓄えた貯蓄は引退
  期間中にすべて使い尽くす.

     ライフサイクル仮説の概念

今からn年生きる(L-T)
今からm年働く(N-T)
W:初期保有の実質資産(変化しないと仮定)
Y :労働所得

生涯所得の制約条件 
上式から
    

労働所得Yは可処分所得に比例するとみなしてよかろう.
上式は個人についてのものですが,これを集計すると
マクロの消費関数が得られます.

マクロのライフサイクル消費関数
    C = c Yd + a W

限界消費性向 MPC = c, a は資産の限界消費性向
平均消費性向 APC = c + a W/Yd

●実質資産がプラスであるかぎりAPCはMPCより大きい.
●APCは所得が増加するにつれ低下することがわかる.
●長期ではYd,W/Pが一定の定常値をとるので長期
 APCは一定値.

関連新聞記事と関連サイト[top]

・所得税減税論議との関連で,恒常所得仮説が新聞に登場すること
がよくあります.以下のコラムはその1例です.

日経新聞1998年5月16日朝刊,「大機小機」
「恒久減税は恒常所得か」

●チャールズ・Y.ホリオカ「貯蓄率と高齢化(1)〜(8)」
『日本経済新聞』やさしい経済学,2004年9月9日〜9月21日
日本の場合ライフサイクル仮説が妥当し,高齢化に伴い貯蓄率が
低下していることを指摘しています.

(注意)過去の日経新聞の記事は,熊本学園大学図書館あるいは
eキャンパスセンターから「日経テレコン21」にアクセスして
検索することができます.

●金融広報中央委員会調査
金融広報中央委員会,家計の金融資産に関する世論調査(平成16(2004)年以降)
http://www.saveinfo.or.jp/finance/chosa/yoron/index.html

平成18年(2006年)調査:
2006.10.10(火) 金融広報中央委員会,「家計の金融資産に関する世論調査」,
「預貯金なし」世帯22.2%,前年比0.6ポイント減.1世帯当たりの
平均貯蓄残高は1073万円,前年比12万円減,中央値は420万円
前年比20万円増.金融資産に占める株式と投資信託の比率は13.8%,
前年比3.4ポイント上昇
http://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/yoron/index.html#18

平成17年(2005年)調査:
http://www.saveinfo.or.jp/finance/chosa/yoron2005/index.html

2004.09.17(金) 金融広報中央委員会,2004年「家計の金融資産に
関する世論調査」平均1022万円,中央値430万円
http://www.saveinfo.or.jp/finance/chosa/yoron2004/index.html

http://www.saveinfo.or.jp/finance/chosa/yoron2004/pdf/yoron04.pdf


●総務省調査
2003.05.09(金) 総務省の「家計調査」によると,02年1世帯平均
貯蓄額1688万円(中位数1022万円),サラリーマン世帯は1280万円
(中位数817万円)

このような調査では「平均値」にだまされないように注意しましょう.
統計学でいうところの「中位数(あるいは中央値)(median )」や
「最頻値(mode)」が重要です.
2004年では平均貯蓄額1692万円,中位数1024万円
http://www.stat.go.jp/data/kakei/family/4-5.htm#1 (家計調査,
家計簿からみたファミリーライフ,5章貯蓄の世帯分布,平成16年(2004年))
http://www.stat.go.jp/data/kakei/family/index.htm
(家計調査,家計簿からみたファミリーライフ)

●旧郵政省調査
2003.03.11(火) 総務省郵政研究所,第8回「家計の金融資産選択等に
関する調査」平均貯蓄額1311万円,前年度比123万円減.中央値は690万円(注)
1988年に調査を開始して以来,初めて貯蓄額が前年度に比べて減少しました.
http://www.japanpost.jp/pri/reserch/survey/finance/2003/03202-all.pdf (単身世帯)
http://www.japanpost.jp/pri/reserch/survey/finance/2003/03201-all.pdf (2人以上世帯)
(注意!)上の2つのファイルは巨大(500ページ以上)ですので,開く際には注意してください(時間がかかります).

・総務省の郵政研究所(注)による「家計における金融資産選択に関する調査」
第7回(平成13年1月実施)(2001年6月11日公表)
貯蓄保有世帯の平均貯蓄総額は1385万円,中央値は800万円
(注)現在は,日本郵政公社の「調査研究報告書<金融・経済>」の中に収められています.
http://www.japanpost.jp/pri/reserch/survey/finance/index.html

●国税庁「民間給与実態統計調査」
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei.htm(統計コーナー)
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2006/minkan.htm(2006年調査)
2007.09.27(木) 国税庁「民間給与実態統計調査」,2006年の民間企業平均給与は434万9000円,前年比1万9000円(0.4%)減,9年連続の減.給与所得200万円以下は全体の22.8%の1022万8000人,4年前より169万8000人増.1000万円超は4年前比7万2000人増の224万2000人

・2006.09.28(木) 国税庁,2005年1人当たり平均給与は436万8000円,前年より2万円(0.5%)減,1998年以来8年連続の減
男性は538万4000円(前年比2万5000円減),女性は272万8000円(同8000円減)
国税庁,平成17年度民間給与実態調査結果

・2005.09.28(水) 国税庁,2004年1人当たり平均給与は439万円,前年比51000円減,7年連続の減

笹山ゼミ,経済データグラフ,貯蓄高世帯分布(勤労者世帯)
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/images/savingbunpu.gif
このグラフは2002年1-3月期のデータに基づいています.
笹山ゼミ,経済データグラフ,年齢階級別貯蓄
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/images/savingrank.gif

平均値・中央値・最頻値[top]

平均値は全てのデータを合計してデータの数で割った
値ですが,貯蓄高のデータのように個人によってかな
り差があるデータの場合,平均値は大きめにでる傾向
があります.それは少数の人がかなり大きな貯蓄額を
保有しているからです.
中央値(あるいは中位数,メディアン,median)とは
一般にデータを小さい値から大きい値の順に並べて,
ちょうど真ん中にくる値のことです.
下のグラフ(度数分布表,ヒストグラム,histogramと
いいます)をみれば,平均値が1,313万円で,
中央値(中位数)が853万円であることがわかります.
貯蓄額の分布は統計学でよくでてくる標準的な左右対称
の釣り鐘型(正規分布といいます)ではなく,低位部分
に山のある分布になります.山の部分に相当するのが
最頻値(モード,mode)です.
正規分布では平均値=中央値=最頻値となっています.

経済のデータ,例えば貯蓄額,所得などは,統計学が
標準で用いる正規分布とだいぶ違った分布構造を示し
ています(以下の貯蓄高分布はその代表例です).この
ような場合は平均値で見ると,実態よりも高い値を
示しがちです.貯蓄額の高い一部の高所得者が平均値を
高めてしまうからです.
経済統計では,平均値だけでなく,ちょうど分布の
真ん中を示す中央値を見る習慣をつけましょう

          貯蓄高世帯分布

メールマガジン[top]

最近の日本の平均貯蓄額と平均給与については,私の
メールマガジンを参照してください.併せて,平均の
意味や中央値,最頻値を正しく理解してください.

第18回 平均貯蓄額

第21回 平均給与

付録:エクセルで簡単回帰分析[top]

シンプルな絶対所得仮説に基づく消費関数をエクセルの
回帰分析ツールで推定することができます.
以下のファイルはそのサンプルです.クリックすれば
ダウンロードできます.
consumption.xls

[top] [講義ノートに戻る]  [Home]


(c) Shigeru Sasayama, Kumamoto Gakuen University