第10講 投資関数

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2009年10月22日更新

割引現在価値の考え方[top]

==== 問題 ===================

小遣いを今年3万円,来年4万円もらう場合と,
今年4万円,来年3万円もらう場合の選択肢があった場合,
あなたならどっちを選びますか.それともどちらでも同じですか?

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選択肢(ケータイマクロ問題)

(1)今年3万,来年4万

(2)今年4万,来年3万

(3)どちらでも同じ,差はない

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

(解説)

ここでのお話のポイントは利子率(金利)が関わってくることです.言い換えれば,現在の1万円と1年後の1万円は同じ価値ではないということです.年の金利を10%(計算を簡単にするための数値です)として考えましょう.

現在1万円をもっています.金利が10%(複利)とすると,1年後,2年後,・・,n年後の元利合計は次のようになります.

1年後=1×(1+0.1)
2年後={1×(1+0.1)}×(1+0.1)=1×(1+0.1)^2
3年後=1×(1+0.1)^3
n年後=1×(1+0.1)^n

上の関係を逆に見ると,1年後の1.1万円は今年の1万円と同等であり,2年後の1.21万円は今年の1万円と同等の価値があるということになります.
これらから,将来上がる収益を現在時点ではいくらになるかを計算するには,将来の各時点での収益を,1年後なら(1+金利),2年後なら(1+金利)^2,n年後なら(1+金利)^nで割ってやればよいということになります.

   

これが将来の予想収益を現在時点の価値に評価する「現在価値法」の基本的な考え方です.

例えば,3年後までの予想収益の流れの現在価値の合計は次のようになります.

予想収益の総額=1年後の収益/(1+金利)+2年後の収益/(1+金利)^2 +3年後の収益/(1+金利)^3


【問題の解答】
先ほどの小遣いの例に戻って,現在価値法の考え方を適用すると,次のようになります.

小遣いを今年3万円,来年4万円の場合の現在価値:
        4
  3 + ------------ = 3 + 3.6 =6.6万円
       1+0.1

小遣いを今年4万円,来年3万円の場合の現在価値:
        3
  4 + ------------ = 4 + 2.7 =6.7万円
       1+0.1

結局,今年4万円,来年3万円もらった方が,現在価値は高いということになります.

この現在価値法の計算は,「収益還元法」とも呼ばれ将来資産の価値を測る場合に様々な分野で利用されています.例えば,土地の評価,貸しビルの評価,ローンの計算,裁判の賠償額の計算などに使われています.経済学の教科書では,投資を評価するときの「投資の限界効率」や債券の市場価格を計算する場合などに登場します.

★補足情報
上で使用した「小遣いの例」は,中国の有名な故事成語,「朝三暮四(ちょうさんぼし)」をヒントに作成しました.「朝三暮四」を知らない方は,以下の私のメールマガジンを参照してください.割引現在価値法と等比数列の基本的な考え方について学ぶことができます.

第45回 朝三暮四(割引現在価値法)

第62回 経済数学の基礎(マクロ経済学編)等比数列

投資の限界効率

ここで学ぶ投資(investment)は,消費者によるいわゆる「株式投資」ではなく,企業による投資活動,設備投資が主な対象です.
GDPの約15%を占めるのがこの投資です.設備投資とは,具体的には工場を建設したり,機械などの設備を購入あるいは更新したりする投資のことです.

投資は利子率の減少関数になる,すなわち,利子率が下がれば投資は増加する.利子率が上がれば投資は低下する」という投資の限界効率の考え方を学びます.

企業は投資を決定するとき,どのような要因を考慮するでしょうか.将来の景気の見通し(予想)が重要な要因になることはいうまでもありません.将来の予想を所与とした場合,次の2点がポイントとなります.

1.投資から得られることが予想される将来の収益の現在価値
2.投資のコスト

投資からの収益の方がそのコストより大きいと判断されれば,その投資は実行することが決定されます.
逆であれば,その投資は見送られます.この点を正確に定式化してみよう.

[記号説明]
C:機械(投資)の費用
n:機械の経済的耐用年数
Rt :t期の投資の予想収益
r :利子率
ρ:投資の限界効率(marginal efficiency of the investment)

将来発生する収益を現在時点で評価する考え方を「割引現在価値法」(Present Discounted Value Method)と呼んでいます.

投資を実行した場合,収益はその後何年かにわたって発生することが予想されます.
その予想収益を現在時点で評価して,収益がコストを上回れば投資を実行する価値があることになります.
予想収益の流列は次のようになります.

     R1,R2,R3,・・・・・,Rn

予想収益は将来時点の値であり,現在の投資コストと比較するためには,将来発生するであろう収益を現在時点の値に評価する必要があります.

まず次のような簡単な例を使って説明しておきましょう.
1万円を年10%の複利で銀行に預金する場合を考えてみましょう.2年後までを計算すると次のようになります.

10,000 円  → 11,000 円 → 12,100 円
(現在)    (1年後)   (2年後)
      1×(1+0.1)=1.1   {1×(1+0.1)}(1+0.1)=1×(1+0.1)^2

現在の1万円は1年後には11000円になるので,現在の1万円は1年後の11000円と同等の価値があるとみなすことができます.これを逆に考えれば,1年後の11000円は現在の1万円と同等であるといえます.
1年後の11000円から1万円を計算するには,(1 + 利子率)で1年後の収益を割ります.
2年後の収益の現在価値は予想収益を(1+割引率)^2で割ればよいことになります.従って一般に,

    (1)

n年後までの投資から得られる将来の予想収益全体の現在価値Vは次のようにかくことができます.

     (2)

上の式で毎期の予想収益が一定(R)でしかもそれが無限に続くと仮定すると,初項がR/(1+r),公比が1/(1+r)の無限等比級数となり,現在価値の合計は次のようになります.ここで,無限等比数列の和の公式を使っています.

 

上の式にあてはめて計算すると,

                       (3)

一方,投資の費用Cと等しくさせる将来の予想収益の現在価値の割引率(予想収益率)ρ(ロー)
のことを
「投資の限界効率」(marginal efficiency of the investment)と定義します.

    (4)

投資収益と投資費用の比較によりその投資が採用されるか否かが決定されます.
V >C ならば (あるいはρ> r)その投資計画は採用され,逆ならば採用されません.

投資収益と投資費用の比較によりその投資が採用されるか否かが決定されます.

 V > C    →  ρ> r    →  投資採用
 V = C    →  ρ= r    →  少なくとも損失なし
 V < C    →  ρ< r    →  投資不採用

その投資が採用されるかどうかは,市場利子率と投資の限界効率の大小関係に依存することがわかります.
投資の限界効率の高い投資プロジェクトから順に採用されていき,限界効率の悪いもの程採用の序列は低くなります.
市場利子率と等しい限界効率の投資が採用の臨界点です.これより小さい限界効率の投資は採用されません.
この関係を図に描いたのが投資の限界効率表です.

          投資の限界効率表
  

市場利子率が10%ならば,ρoの限界効率の投資は採用されませんが,利子率が5%ならば,この投資プロジェクトは採用されます.従って,利子率が低下するほど投資は増大することがわかります.利子率が上昇すれば,より高い限界効率の投資しか実行されません.逆に,利子率が低下すれば低い限界効率の投資でも実行することができます.すなわち,「投資は利子率の減少関数である」ということが明らかになりました.これがケインズによる投資の限界効率の考え方です.

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■投資の限界効率を求める例題
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「笑天商店」はプロ野球球団に50億円投資するプロジェクトを計画中である.
このプロジェクトからは毎年4億円の収益が10年間にわたって得られると
想定されています.

1.投資の限界効率をρとして,投資の限界効率の定義を表す式をたてなさい.
2.期間を無限とみなした上で,無限等比数列の和の公式を使って,
  投資の限界効率ρを求めなさい.
3.投資資金を借りるときの金利が5%であったとき,この投資プロジェクトは
  採用すべきかどうかを判断しなさい.
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(解説)
投資の限界効率の定義(上の(4)式)から,例題は次のように整理することができます.

  (5)

上式を満たすρが投資の限界効率
表計算ソフト(エクセル)などを使うと,上の式に基づいてρを簡単に計算することができます.
期間を無限にすると,無限等比数列の和の公式が使えます.

(5)式の右辺にこの公式を適用すると,(5)式は次のようになります.

 

 これより,ρ=0.08 すなわち,投資の限界効率は8%.

 投資資金を5%の金利で借りても,投資の限界効率は8%なので利益がでることが予想されるので,この投資プロジェクトは採用されます.


ケータイマクロ問題[top]

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■さらに,練習問題
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(設問1)ある投資プロジェクトの費用は10億円で、このプロジェクトからは、
毎年1億円の収益が10年間にわたってあがる。期間を無限とした場合、
投資の限界効率はいくらになるか。

三者択一問題
(1) 0.1
(2) 0.2
(3) 0.3

(設問2)上の投資プロジェクトが採用されるためには,費用を借りるときの
金利水準は次のどの場合か.

三者択一問題
(1) 12%
(2) 11%
(3) 9%

その他の投資理論[top]

1.加速度原理
2.資本ストック調整原理
3.利潤原理
4.新古典派投資理論
5.トービンのq理論(James Tobinの写真写真2

■加速度原理
望ましい資本ストックと実際の資本ストックとの差を1期で埋めるように今期の投資を行うと想定するのが加速度原理です.

1.資本ストックKと産出高Yの間には資本係数vを媒介として一定の関係があります.資本係数とは,産出量1単位を得るのに必要な資本ストックの量のことです.
2.今期の投資を It,今期の資本ストックをKt,1期前の期末の実際の資本ストックを Kt-1 とかくと,今期の投資は今期の資本ストックを達成するために行うものですから,次のようにかけます.

  

結局,投資は所得の増加分に比例するという関係が得られます.これが加速度原理です.

■資本ストック調整原理
望ましい資本ストック(K*)と現実の資本ストックとの乖離をある一定割合だけ毎期毎期埋めていくように投資を実行し,数期間をかけて望ましい資本ストックに到達しようとするのが,資本ストック調整原理です.加速度原理では差を一気に埋めてしまいます.

  

政府の経済(経済財政)白書などではこのタイプの投資関数の推定がよく行われています.なお,加速度原理と共に資本ストック調整原理では,資本係数は固定されています.

■利潤原理
投資は所得水準に依存するというのが利潤原理の投資関数です.投資が行なわれるには企業側に利潤が発生していなければなりません.その利潤は,企業の生産高すなわち所得水準によって決まると考えます.

■新古典派投資理論
加速度原理や資本ストック調整原理では,資本係数は固定されていました.これに対して,新古典派投資理論は生産要素間の代替を認めます.ジョーゲンソン(1965)は,資本ストックと労働の間で代替の可能性を許す生産関数を前提として,最適な資本ストックの水準を企業の利潤極大化行動から求めました.企業の最適化行動から望ましい資本ストックを求め,次に望ましい資本ストックと現実の資本ストックとの乖離は分布ラグに基づいて埋められていくと想定して,投資関数を導出します.ジョーゲンソンの投資関数は,資本ストック調整原理を一般化,理論的に精緻化し,実証分析にも耐えられるものとして評価されています.

■トービンのq理論
トービンのqは次のように定義されます.

  

企業の市場価値は株式市場で決まる株価に反映されるとみなします.また,株価は企業の将来にわたる収益力を反映したものであると考えます.qが1以上の場合は,企業が投資を1単位追加的に行うとき,それに要する費用(買い換え費用)よりもそこから得られる予想利益(株式市場での株価に表れると考える)の方が大きいので,この投資を行うことになります.qが1以下の場合は,市場が評価する企業の価値は現存する資本ストックの価値より小さいので,現存の資本ストックは過大であることになり,投資は控えます.投資はqの増加関数になるというのが結論.

メールマガジン[top]

等比数列と現在価値法の基本的な考え方については,以下の私のメールマガジンを参照してください.

第62回 経済数学の基礎(マクロ経済学編)等比数列

第45回 朝三暮四(割引現在価値法)

株式市場については次のメールマガジンを参照してください.

第3回 日経平均株価

第4回 ダウ工業株30種平均

第30回 ナスダック

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(c) Shigeru Sasayama, Kumamoto Gakuen University