バスロケと乗り込み調査データを活用したコミュニティバスの路線網と時刻表の最適設計

AN OPTIMAL DESIGN METHOD OF COMMUNITY BUS ROURES AND TIMETABLE USING BOTH BUS LOCATION AND BOARDING SURVEY DATA

天藤 奈菜
Nana AMAFUJI

 The first purpose of this research is to grasp the actual situation of the operation and use of the Koshi Letter-Bus from the so-called big data obtained from the bus location system and the boarding survey. As a result, various data such as the operation time between bus stops, the delay at each bus stop, and the demand between bus stops were obtained. The second purpose is to develop a method to revise the current timetable and optimize the route network based on this information. Finally, these methods is applied to the reorganization of a new bus network and the revision of the current timetable for Koshi Letter-Bus.

KeyWords: location data, the ride survey data, optimization, timetables, bus routes

 

 (1) 研究背景と目的
 近年,高齢化や人口減少地域でのモビリティの確保を背景に,公共交通の重要性が高まりつつある.しかし,全国的にみると自動車依存度は高く,バス利用者は減少傾向が続いている.地方都市ではそれによってバス路線の統廃合が進められている.一方で,交通渋滞などの道路交通事情などにより,バスの定時性が確保できないという問題もある.バス運行の信頼性の低下も,利用者のバス離れの一因として考えられる.利用者の減少はバス路線の運行継続には深刻な問題で,利用者に便利で信頼性の高い公共交通サービスを継続的に提供することは事業者だけでなく,行政にとっても必要である.
 利用者の信頼性向上のためにバスロケーションシステム(以下,バスロケと記す)が導入されている.バスロケでは,利用者にバスの接近や現在の位置,到着予測時刻,遅延時間,運行状況などの様々な情報をインターネットやスマートフォン,バス停留所で配信することから,利用者にとっては待ち時間に対する不安の解消,待ち時間の有効活用などに役立っている.また,事業者は,バスの運行情報をリアルタイムで把握できるため,利用者からの問い合わせに対する対応が行える上,過去の運行履歴データはバス路線の継続的な運行計画の立案や業務改善のための基礎データともなる.
 本研究では,まず,1)図-1に示す合志市のコミュニティバスである「レターバス」1)に導入されているバスロケーションシステム「いまココ」の位置情報データからバス停間所要時間や時刻表からの遅れ時間などを算出し,運行実態の分析を行う.次に,2)位置データの取得時期と同じ時期に実施した乗り込み調査から得られる利用者属性や利用実態,利用意識に関するデータと1)の結果を統合することによって,現行運行ダイヤの課題や改善のための方策に関する情報を得る.最後に,3)これらの結果を活用して現行の時刻表とバス路線から最適化手法を使って改訂することを目的とする.
 本研究は6章から構成されている.本章では既往研究のレビューと本研究の位置づけについて説明を行う.次に2章で合志市レターバスの概要と,分析に利用可能なデータの概要について,3章で運行実態と利用実態についてまとめる. 4章で時刻表適正化モデルの説明と結果について,5章で最適路線網設定モデルの説明と結果についての考察を行う.最後に6章を本論文のまとめを行う.

(2) 既往研究と本研究の位置づけ
 バスロケデータを運行の改善や新規利用者の獲得に活用する手法の開発への注目が高まっている.バスロケデータから得られる位置情報を用いた研究には運行実態の分析や遅延の要因分析などに関する研究が多い.たとえば,折部ら2)は,路線バスの位置情報からバス停ごとの遅延時間を集計し,回帰モデルと分位回帰モデルによる要因分析を行い,曜日や月,時間帯や累積信号数が遅れ時間の平均や最大値に与える影響について分析している.小山ら3)は,バスロケデータから遅延時間の分布形が多様であることを示し,選好意識データからSPモデル,利用者行動データからRPモデルを構築し,遅延時間分布の形状の時間信頼性評価への影響を明らかにした.荻原ら4)は,空港リムジンバスを対象に路線別・便別の所要時間変動に着目した旅行時間信頼性指標を提案し,標準偏差で旅行時間信頼性を評価することが利用者の顕示選好と整合すると結論づけている.しかし,これらの成果を時刻表やバス路線の作成に反映させたような研究は見当たらない.
 一方,適切な時刻表作成に関しては,近年,欧州を中心に,鉄道分野において最適化手法を用いた時刻表作成手法の開発に関する研究が行われている.イタリアでは遅延に頑健な鉄道時刻表を設計するためにSlim Stochastic Model(以後SSMと記す)5)が提案されている.田中ら6)は,このSSMを日本の路線バスの時刻表の改訂に適用できるように改良した.そこでは,道路交通センサスから得られる混雑率から推定した停留所間遅延時間を確率変数としてSSMに与えることによって,最適な時刻表を作成する方法を提案している.しかし,バスロケデータから得られる現実の運行実態データを活用して時刻表を改訂するような研究は行われていない.
 また,バス路線に関しては,路線の評価と再編につて研究が行われている.評価に関する研究では,東本ら7)は事業者からの経営効率と利用者からのサービス効率の視点から各バス路線が持つ特色を活かした総合的な効率性の評価を行い,実現可能な改善案を示した.再編については,丹羽ら8)は重回帰分析を行い,バス利用者の数に影響を与える要因を把握し,その要因を基に運行コストを最小化するバス路線の最適化モデルが提案されている.しかし,バス路線の最適化に関する研究は少なく,バスロケデータから得られる運行実態と調査から得られる利用実態の両方を活用した路線の最適化する研究は行われていない.