高齢者を対象としたMMにおけるTFPからの退出と行動変容効果に関する調査分析

ANALYSIS OF FACTORS AFFECTING WITHDRAWAL FROM TFP AND CHANGE OF CHOICE BEHAVIOR IN MM FOR ELDERLY PEOPLE

兒玉 悠利
Yuto KODAMA

 In this study, we conducted mobility management (MM) for two years for elderly people participating in gymnastics classes in Arao City, Kumamoto Prefecture. He did not cooperate with the survey during the MM or did not switch to the proposed public transport according to the individual. In this study, we analyzed the factors of panel wear and the factors that change to public transportation, and examined the efficient implementation method of MM. As a result, it became clear that even the elderly who live in the same city and participate in the gymnastics classroom have different factors of panel wear and conversion factors of public transportation.

KeyWords: mobility management, travel feedback program (TFP), public transportation use promotion, activity level, senior citizens

 

 現在,地方部では,道路環境の整備により,自動車免許を保有する市民はほぼ1人に1台自動車がある環境となった.それによって,渋滞や環境問題をはじめ様々な社会問題が生じている.一方,高校生と多くの高齢者は自動車を運転できず移動するためには公共交通を利用するしかない.少子高齢化や人口減少の進行により,本研究で対象としている熊本県荒尾市ではバス利用者は2006年に年間38.8万人あったが,2017年には年間23.0万人と,13年間で15.8万人も減少した1).地域の移動の足を確保するために地方自治体が負担するバス会社への補助金は増加の一途をたどっており,自治体の財政を圧迫している.近年,後期高齢者の免許保有率が高まり,認知機能の低下が原因による事故が全国的に相次いでいる.そこで,高齢者に免許証の自主返納を促進しているが,その代わりに,彼らは,免許証返納後に移動のための足を確保しておく必要がある.しかし,利用需要が少なかったり,バスの運転手不足のために路線の廃止や減便も相次いでいるのが現状である.
 このような交通の問題を解決するために,交通需要マネジメント(以下,TDM)をはじめとして,様々な試みがなされてきたが,諸問題を快方に導く処方箋はなかなか見出されていない.TDMは,自動車利用を控えるための環境を提供するための環境を提供するものであり,使うかどうかは自動車を運転する人の判断に委ねられていたため,運転者の合意なしには具体的な成果を得ることが難しいことが課題とされてきた.そこで,ひとり一人の交通手段選択における行動変容を促すモビリティ・マネジメント(以下,MM)が各地で実施されている.これらの詳細な説明は文献2),3),4)に譲る.
 既往の研究として,MMに参加する参加者の公共交通の転換を考慮したモデルは,熊本県合志市を中心とした熊本電鉄の沿線で5),高齢者を対象としたMMは,北海道釧路市6)や山梨県北杜市7)で行われてきている.また,MMの継続やMMの効率性を目指して行われた研究では,自治体がMMを複数年実施・継続する要因をインタビュー調査で探ること8)やバスの利用頻度の経年変化9)について注目した内容であった.
 熊本県北部の荒尾市でも2018年と2019年に高齢者の活動量増加を目的としたMMが実施された.しかしながら,日常の行動についてアンケートを行い,参加者個人に応じて公共交通の行動プランを作成・提案して,目標転換率を記入していても,実際には公共交通に転換しない参加者や,調査の途中に離脱する参加者が数多く存在した.このようなMMプロセスからのサンプル離脱や最終的な最終的にMMで提示した公共交通手段へ手段を転換したかについての研究は思いの他少ないのが実情である.
 本研究の特徴は,高齢者を対象とした2ヶ年にわたるMMの実施による継続的な調査であり,その中でもTFPの途中のステージでのサンプルからの離脱,提案した公共交通手段利用方法の転換モデルの推定を目的に行ったものである.
 本研究は5章で構成されている.まず,2章では荒尾市で実施した2018年と2019年のモビリティ・マネジメントの概要について述べる.3章では,両MMの成果,効果の比較を行った結果について述べる.4章では,Waveごとのサンプルの脱落とMMによる転換,実際の比較とその原因を分析した後,MM を効率的に実施する方法について提案する.最後に5章で本研究の成果と課題をまとめる.