4 日本企業のビジネスモデル特許の取り組み

 当初アメリカの動きに遅れをとっていたが、1999年にアメリカで特許紛争が本格化したことで、日 本でも2でも述べた住友銀行の入金照合サービスや凸版印刷の地図情報システムだけでなく、他にも たくさんのビジネスモデル特許がいろんな分野から出願されるようになった。


(1) 現在、日本企業が取り組んでいるビジネスモデル特許

 SONYでは、1999年7月に各社内分社知的財産部門を新設し、ビジネスモデル特許の専門家を育成して いる。また同時期に全社員がビジネスモデル特許の事例をみることができるシステムを導入した。大 日本印刷でも運営している仮想商店街「ネットギャラクシー」への出店企業へ提案してきたECの仕組 みをビジネスモデル特許として申請していくことにより、ライセンス収入の獲得を狙っている。また、 ある金融会社では、幹部社員になんでもいいからビジネスモデル特許を一人一つ考えなさいという課 題が与えられたという話を聞いたことがある。出願する、しないにせよ、ビジネスモデル特許は各企 業にとって気になる存在ではあるようだ。
 しかし、積極的にビジネスモデル特許をめぐって動いているのはやはり一部の企業だけであり、大 企業も含めて多くの企業はこのビジネスモデル特許の難しさなどに判断をしかねていたり、そもそも この問題を知らないというのが現状ではないかと思われる。ビジネスモデル特許とはあまり技術とい うものと関係がなく、特許というものについての専門知識をもっていなかったサービス産業まで巻き 込む問題である。しかし、これらの産業ではやはり理解が難しいのは当然かもしれない。また、各国 の特許庁の判断基準や裁判所の判断がはっきり見えない状況の中では、動きようにも動けないところ もある。しかし、そういう状況だからこそ、各産業の各企業がアンテナを高くして、体制を整えてお かなければならない。


(2) ビジネスモデル特許の戦略的対応

 ビジネスモデル特許に関する企業の戦略的な対応としては二種類ある。

@自社のビジネスに関係するビジネスモデルについての特許に関する情報を調査・収集する
A自らビジネスモデル特許を積極的に出願し、獲得していく



 @とAを進めている企業は最もビジネスモデル特許を戦略的にとらえている企業といえると思われ る。ビジネスモデル特許の使い方次第では、その特許を武器にしてベンチャー企業でも投資を回収で きることが可能である。


(3) これからの日本企業におけるビジネスモデル特許の対応

 従来は主にメーカーのための制度であった特許制度が、金融や、広告業界にも広がっている今、あ らゆる企業が特許制度の当事者となっている。日本でもビジネスモデル特許を商売道具として使おう とする企業も現れ始め、横並びとしてきた金融業界でも住友銀行の入金照合サービスのように、サー ビスの差別化による競争の優位性を、特許政略によって実現しようとしている。ビジネスモデル特許 の有無の事前調査やクロスライセンスなどにほとんど関係のなかった企業も今後は対応が必要となっ てくる。また、従来の特許管理は同業他社の特許出願を調べておけば、十分であると思われていたが、 ビジネスモデル特許ではまったく異なる業界の企業から特許侵害の通告を受ける可能性もあるので、 その点における対応も考えておかなければならない。


まとめ

 今まで特許とはメーカーのものだと思われている部分が大きかった。ビジネスモデル特許が話題と なっている今、どの業界にも特許を持つことが可能であることが明確となり、これから多種多様な特 許が生まれると思われる。その反面特許権侵害等の問題も増えることであろう。どの企業も特許を出 願する、しないに関わらず、このビジネスモデル特許について事前調査や情報を知っておく必要があ る。
 また、特許は国内のみという狭い範囲ではなく、インターネットの世界と同じで国際的に広く特許 を考えていかなければならない。特に日本はITにおいてはまだまだ発展可能な分野である。国際的に 斬新なビジネスモデルを発明し、IT産業をより発展させていくことが必要と思われる。




<参考文献>

(1)三好内外国特許事務所「図解 実践!ビジネスモデル特許」PHP研究所、2000年、37頁
(2)住友銀行ホームページ(http://www.sumitomobank.co.jp)内の“法人のお客様へ 入金照合サー ビス「パーフェクト」サービスの導入効果”
(3)弁理士 古谷栄男「ビジネスモデル特許の事例 N地図上の広告方法の特許(マピオン特許)」 (http://www.furutani.co.jp/office/ronbun/BS/BS15.html)、1999年
(4)同上、「ビジネスモデル特許の事例 L逆オークションの仲介システムに関する特許(プライス ライン特許)」(http://www.furutani.co.jp/office/ronbun/BS/BS13.html)、1999年

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