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第57回 企業物価指数[top]

                         2003年4月22日更新
                         2003年4月18日発行
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国経館 経済学 メールマガジン      金曜版       No.97
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みなさん,こんにちは.笹山です.
このメールマガジンは国際経済学科のメールマガジン「国経館」の1つとして,
国際経済学科のすべての学生に配信されています.

今回は,企業物価指数の話題です.今回はちょっと数値の計算がでてきますの
でしっかり読んでください.計算は加減乗除の基礎的なものだけですので安心
してください.

マクロ経済学のメールマガジンとしてはNo.57です.
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【第97号】 企業物価指数

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「卸売物価指数」と「消費者物価指数」は日本の代表的な物価指数ですが,そ
のうちの1つ「卸売物価指数(WPI)」の名称が消え,代わりに「企業物価
指数(CGPI)」が登場しました.卸売物価指数という名称には長年慣れ親
しんできただけに寂しい気持ちがします.

2003年1月18日の日本経済新聞は,卸売物価指数が企業物価指数に変更
になったことを伝えています.

「日銀は17日,これまでの国内卸売物価指数を大幅に改定した国内企業物価
指数(2000年=100)を初めて公表した.2002年平均(速報)は9
5.8となり,前年に比べ1.9%下落した.前年水準を下回ったのは2年連
続.指数改定によって,電気機器の価格下落などがより強く影響するようにな
り,デフレの実態を一段と鮮明に反映するようになった(抜粋).」

同じく日経の2002年12月9日記事によると,名称変更の理由は実態に合
わせたとのことです.
「1897年(明治30年)に「東京卸売物価指数」として公表を始めたが,
基準改定などによって生産者段階での価格調査が増えてきたため,名称を実態
にあわせることにした.」

ちなみに,日本の企業物価指数(CGPI:Corporate Goods Price Index)
に相当する指数はアメリカでは Producer Price Index(PPI)なのですが,なぜ
か日本の新聞では今でも従来の慣例に従って「卸売物価指数」と報道していま
す.日本が卸売物価指数の名称を止めてしまったので,今後は「生産者価格指
数」あるいは「企業物価指数」となるかもしれません.

■指数とは

指数(index)では,まず,ある年を基準時点に定めてその年の値を100と
します.基準時点の値を100としてその他の年(比較時点といいます)の値
はいくらになるかを計算します.例えば,簡単な数値例で計算してみましょう.
ある商品の価格が1998年から2002年にかけて次の表のようになってい
たとします.

  年   価 格(円)  指 数(単位なし)
1998   70       87.5
1999   75       93.8
2000   80      100.0 (2000年が基準)
2001   84      105.0
2002   90      112.5

2000年を基準にするので,80(円)=100とおきます.2000年の
価格80円を100とすれば,他の年の価格はいくつになるかを計算します.
1998年の70円を指数にするには,次のような比の関係に注目すればよい
のです.98年の指数をxとおきます.
  80:100 = 70: x
上の関係から,
  x = 100×70/80 = 87.5
となります.
一般には, 100×比較時の価格/基準時の価格, となります.

このように基準時点を100とした指数にすると,他の年は基準時点に比べて
どの程度上昇したのか,下落したのかがわかりやすくなるという利点がありま
す.なお,指数は単位のない値であることに注意してください.

日本政府の統計では,1990年,1995年,2000年というように基準
年を5年毎に更新していきます.5年ぐらい経過すれば,経済状況にも変化が
みられるので,物価指数を構成する商品の見直しなども行います.

日本では5年毎に基準値を更新しているので,5年を超える長期データを扱う
ときは注意が必要です.基準値が異なる指数を長期データとして並べただけで
は5年毎にデータに断絶が発生して使い物になりません.長期データを扱うと
きは,すべてのデータを同じ年を基準値とする指数に統一しなければなりませ
ん.政府が基準値を変更するときは,過去のデータにさかのぼって(遡及(そ
きゅう)するといいます)修正した統計も発表されますが,場合によっては統
計利用者自らが変換作業をしなければならないこともあります.

■ラスパイレス指数とパーシェ指数

物価指数が対象とする品目は900を超えます.各品目を指数化した後にそれ
らを平均する必要があります.足してその数で割るという単純平均でいいかと
いうとこれはよくありません.なぜなら,単純平均では支出全体に占める割合
が小さい品目も大きい割合を占める品目も同じ重み(ウェイトといいます)と
みなしてしまうからです.全体の支出に占める割合が大きい程,最終的な物価
指数に占める割合も大きくないと各品目の価格上昇が正しく反映されません.

支出額の占める割合に応じた重みをつけて平均を計算することが大切です.こ
のような平均の計算を「加重平均」といいます.重み(ウェイト)の計算には
支出全体に占める各品目の支出割合を使います.従って,加重平均ではウェイ
トの合計は1になっています.

さらに,ウェイトを計算するときの支出額(=価格×数量)の計算において,
基準時の数量を使うか,あるいは比較時の数量を使うかの2通りが考えられま
す.基準時の数量を使うのを「ラスパイレス方式」,比較時の数量を使うのを
「パーシェ方式」と呼んでいます.ラスパイレスの方は,基準時のとき1回だ
けウェイトを計算しておけば5年間は固定ですので手間は省けます.これに対
してパーシェの方は,毎年ウェイトを計算しなければならないので作業が大変
です.一般に物価指数は,ウエイト作成の手間を考慮して「ラスパイレス方式
」を採用しています.ただし,5年間ウェイトが固定されてしまうのでIT関
連商品のように数年で価格が大幅に下落するという品目の影響が十分指数に反
映されないという問題が指摘されています.

ラスパイレスの上のような欠点を補うため,今回の企業物価指数では「連鎖方
式による国内企業物価指数」を作成し,日本銀行は参考資料として発表してい
ます.連鎖方式による連鎖指数を英語では「chain index」と呼んでいます.
連鎖方式では,毎年1回12月にウェイトを修正します.基準年以降は,順次
その後の各年の12月を100とした物価変化率をかけ合わせて指数を作りま
す.連鎖指数はラスパイレスとパーシェの中間的な性質を備えているといえま
す.

より詳細な物価指数の説明は,私の「マクロ経済学の講義ノート」を参照して
ください.

マクロ経済学講義ノート 第5講 物価指数:
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/macroecon/lecture05.html

■消費者物価指数とどう違う

消費者物価指数は小売段階で取り引きされる商品の価格をとらえますが,企業
物価指数は企業同士が取り引きするときの商品の価格を把握します.われわれ
消費者が買い物をするときの感覚に近いのは消費者物価指数ですが,企業同士
での商品の取引価格は当然ながら消費者段階での取引にも影響を与えますので,
2つの物価指数はかなり似通った動きを示します.両者の違いがより大きくで
ているのは1980年の第2次石油ショックのときと,1985年9月のプラ
ザ合意後の大幅な円高の影響が現れた1986年です.両方において企業物価
指数の方が大きな影響を受けています.以下のグラフで確認してください.

笹山ゼミ 経済データのグラフ,CPIとCGPIの比較:
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/images/wpicpi.gif

■従来の卸売物価指数とどう違う

なぜ,伝統的な「卸売物価指数(Wholesale Price Index)」の名称を廃止し
て,「企業物価指数(CGPI)」に変えたかについては,冒頭で引用した日経新
聞の記事にあるように,卸し段階での価格調査よりも生産者段階での価格調査
の方が多くなったことにあります.1995年基準では68%であったのに対
して,2000年基準では85%に上昇しています.統計の実態を名称に反映
させたということでしょう.同時に,物価指数に含む商品の見直しなども大幅
に行い,日銀の言葉を借りれば「20年ぶりの大改定」をおこなったとのこと
です.

物価指数に含まれる品目も産業構造の変化にあわせ,輸送用機器や電気機器の
比重を上げ,繊維製品などの比率を下げています.半導体製造装置,携帯情報
端末,液晶デバイスなどの情報技術関連の品目を新たに採用しています.その
代わりに,ワードプロセッサ(専用機)とポケットベルは廃止となりました.
さらに安値輸入品も拡充させています.

企業物価指数は,国内企業物価指数,輸出物価指数,輸入物価指数の3つから
成っていますが,メインは国内企業物価指数で,これが従来の卸売物価指数を
継承しています.

調査先数は2002年10月25日時点で,国内企業物価指数で1,745先,
輸出物価指数で537先,輸入物価指数で669先(参考指数を含むベース)
となっており,調査価格数は,国内企業物価指数で5,508価格,輸出物価
指数で1,155価格,輸入物価指数で1,601価格(参考指数を含むベー
ス)となっています.

物価指数を計算する上での採用品目数は,結局のところ,国内企業物価指数で
910品目,輸出物価指数で222品目,輸入物価指数で293品目(参考指
数を含むベース)となっています.

国内企業物価指数と従来の卸売物価指数の増減率のグラフを比較してみましょ
う.両者は1999年12月まではほとんど同じですが,2000年1月から
乖離し始めています.国内企業物価指数の下落率の方が卸売物価指数のそれよ
り大幅になっています.大幅に価格が低下した情報関連機器を企業物価指数の
方が多く含んでいることが関係しているようです.

笹山ゼミ 経済データのグラフ,企業物価指数と卸売物価指数:
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/images/cgpiwpi.gif
笹山ゼミ 経済データのグラフ,国内企業物価指数:
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/images/cgpi.gif
国内企業物価指数総平均(テキストデータ)の時系列データと従来の卸売物価
指数の時系列データ(テキストデータ)から作成したグラフです.

消費者物価指数は1999年から前年比マイナスが続いていますが,上のグラ
フからもわかるように国内企業物価指数は,1992年以降では1997年と
2000年を除いて前年比マイナスを記録しています.デフレの傾向は企業物
価指数の方がより鮮明にでているといえます.

■日本銀行の企業物価指数コーナー

従来の卸売物価指数の時代から企業物価指数を作成・公表しているのは日本銀
行です.なお,消費者物価指数は,総務省統計局が担当しています.
日銀の企業物価指数コーナーから,重要と思われる資料を以下に紹介しておき
ます.URLの最後に .pdf が付いているのはアドビ社のAcrobat Reader(無
料ソフト)用のファイルであることを表しています.また★は特に重要と思わ
れる資料を表します.

企業物価指数のコーナー(メイン):
http://www.boj.or.jp/stat/pi/pi.htm

★企業物価指数の解説(概要):
http://www.boj.or.jp/stat/exp/excgpi.htm
連鎖方式による企業物価指数の解説もあります.

企業物価指数の解説(詳細)および関連資料:
http://www.boj.or.jp/stat/exp/excgpi01.htm
★2000年基準CGPIの解説(2003年3月):
http://www.boj.or.jp/stat/exp/data/ecgpi00.pdf (包括的解説,66pages)

卸売物価指数の基準改定(2000年基準企業物価指数<CGPI>への移行)の結果
(日本銀行 2002年12月9日公表)
http://www.boj.or.jp/stat/pi/ntcgpi02.htm (要旨)
http://www.boj.or.jp/stat/pi/data/ntcgpi02.pdf (全文49pages)
企業物価指数で使われているウエイト(別紙3)の一覧があります.

企業物価指数・2000年基準指数の特徴点(日本銀行 2002年12月9日公
表)
http://www.boj.or.jp/stat/pi/ntcgpi01.htm (要旨)
http://www.boj.or.jp/stat/pi/data/ntcgpi01.pdf (全文49pages)

★計数表(エクセルファイル):
http://www.boj.or.jp/stat/pi/data/ntcgpi02.lzh (Mac用)
http://www.boj.or.jp/stat/pi/data/ntcgpi02.exe (Windows用)
各品目のウェイト等がエクセルファイルとして提供されています.

「連鎖方式による国内企業物価指数」の公表−「連鎖指数」導入の意義とその
特徴点−(2002年10月28日):
http://www.boj.or.jp/ronbun/02/ron0210a.htm (要旨)
http://www.boj.or.jp/ronbun/02/data/ron0210a.pdf (全文41pages)
「連鎖指数(chain index)」の詳しい解説があります.特に35ページの(
図表8)において具体的な計算例が示してあります.

■時系列データ
長期間にわたったデータを時系列データと呼んでいます.

企業物価指数 時系列データ:
http://www2.boj.or.jp/dlong/price/price4.htm
★時系列データ 国内企業物価指数総平均(テキストデータ):
http://www2.boj.or.jp/dlong/price/data/cdda1001.txt

旧卸売物価指数 時系列データ:
http://www2.boj.or.jp/dlong/price/price1.htm
★従来の卸売物価指数の時系列データ(テキストデータ):
http://www2.boj.or.jp/dlong/price/data/cdda0010.txt

【用語解説サイト】
用語辞典がわりに簡単な意味を知りたい場合は,富山県統計協会の「経済指標
かんどころ」が便利です.

★経済指標のかんどころ(富山県統計協会) 物価:
http://www.cap.or.jp/~toukei/kandokoro/html/13/13_11.htm

■まとめ------------
・2003年1月から,日本銀行は従来の卸売物価指数(WPI)に代えて,企
業物価指数(CGPI)を作成,公表を開始した.
・企業物価指数に名称を変更したのは,生産者段階での価格調査比率が高くな
ったことによる.
・企業物価指数は,企業同士が取り引きするときの価格.
・企業物価指数は,従来の卸売物価指数に比べてIT関連商品の採用割合を増
やしたり,安値輸入品を拡充している.
・従来の卸売物価指数に比較して,企業物価指数の方が最近時においては下落
率が大きくでている.
・企業物価指数はラスパイレス方式を採用しているが,その欠点を補うために
参考資料として「連鎖指数(chain index)」を作成し,公表を始めた.
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ぜひ,みなさんも,実際にウェブサイトにアクセスして確認してください.

【上級者向け課題】
同じ商品の価格について,基準時点が異なる3つの系列の指数があるとします.
1990年から1999年までのデータを2000年基準に変更してください.

  年  1990年基準  1995年基準  2000年基準
1990  100.0
1991  101.2
1992  102.3
1993  103.1
1994  104.5
1995  104.9   100.0
1996          101.2
1997          103.4
1998          105.1
1999          104.2
2000          103.8   100.0
2001                   99.4
2002                   97.3

(注意)後日サイトにアクセスした場合,サイトの構成に違いがでてきたり,
URLが変更になっている場合がありますので,了解してください.
(アクセス日)2003年4月18日

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【Q & A】日本銀行が作成している「国内企業物価指数」,従来の名前は
何?
      → 卸売物価指数

【今回のサイト】 日本銀行 企業物価指数コーナー:
         http://www.boj.or.jp/stat/pi/pi.htm

【評価】★★★

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        ★1つは普通という評価です.
      データが十分提供されているかどうかが評価のポイントです.
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【発行】 熊本学園大学 経済学部 国際経済学科
【著者】 笹山 茂
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Copyright 2003

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