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第153回 ローンの計算[top]

                        2004年12月22日更新
                        2004年12月14日発行
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国経館 ローンの計算    メールマガジン       No.153
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みなさん,こんにちは.マクロ経済学を担当している笹山です.

このメールマガジンは国際経済学科のメールマガジン「国経館」の1つとして,
国際経済学科のすべての学生に配信されています.

今回は,ローンの計算方法を説明します.

マクロ経済学のメールマガジンとしてはNo.75です.
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【第153号】 ローンの計算

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自動車ローン,学資ローン,住宅ローンなど普段の生活でローンという言葉を
よく耳にします.高額な商品を購入するときローンを組みますが,どのような
原理で計算が行われているのかご存じでしょうか?

学生のみなさんは今のところ,ローンには関わりをもっていないと思いますが,
将来は必ず銀行の窓口などでローンの相談をすることになるでしょう.この機
会にローンの計算方法を学んでください.金融機関を目指す学生は必須,それ
以外の方も教養ある社会人として知っておくべき事柄です.

ローンの計算の背景にある考え方は,これまでマクロ経済学で学んだ「割引
現在価値法」を応用したものなので,是非とも理解してください.

■ローン計算の基本的な考え方

次のような問題を考えてみましょう.

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【例題】自動車のローン200万円を,年2.5%の複利で3年(36回均
等払い)で支払うローンを組みました.毎月の返済額はいくらになるでしょうか.
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お金を借りる場合は,今現在時点で200万円を銀行から借ります.一方,ロ
ーンの返済は今後3年間にわたって支払いを続けていきます(上の例題では).

ローンの計算は,現在時点で,次の等式が成立するように毎月の返済額等が決
められています.

  借りる金額 = 返す金額の総額  (1)

(1)式を詳しく書くと,次のようになります.

 ローンの金額 = 将来にわたって支払う返済額の現在価値の合計 (2)

重要なことは,現在時点で(1)の等式が成立している必要があります.借り
る金額は今現在の額で確定していますが,返済する金額は現在時点のものでは
なく将来時点の金額です.将来時点の金額を現在時点で評価する(計算しなお
す)必要がでてきます.そこで登場するのが,経済学で頻繁に使われる「割引
現在価値」という考え方です.将来発生する金額を現在時点ではいくらに相当
するかと計算するわけです.

将来発生する金額を現在時点での値に評価するときには「割引計算」を行いま
す.一般に,n期後の予想収益(上の例では返済額)を現在時点の値に評価す
るには,次のように計算します.

   1期後の予想収益/(1+割引率)^1
   2期後の予想収益/(1+割引率)^2
   3期後の予想収益/(1+割引率)^3
   ・・・・・・・・・・・・・・・・
   n期後の予想収益/(1+割引率)^n

n期後までの予想収益(上の例では返済額)の現在価値の合計を求めるには,
上の値をすべて足し合わせればよいのです.なお,割引率は通常はそのときの
代表的な利子率を採用します.

■ローン計算の公式

ローンの毎月の支払金額の一般的な公式を導出してみましょう.そこで,次の
ような記号を使うことにします.

借入金をL円,返済期間をnカ月とし,月利をrとします.このとき毎月の返
済額(一定額)をxとします.なお,金利の計算は通常行われるように複利方
式で計算することにします.
ローンの計算の基本的な考え方の(2)式に基づいて式をたてると,次のよう
に書けます.

 L = x*(1/(1+r)+1/(1+r)^2+1/(1+r)^3+ ... +1/(1+r)^n)  (3)

右辺は,初項が x/(1+r),公比が1/(1+r) の有限の等比数列になっています.
n項までの等比数列の和は比較的簡単に求めることができます.パソコンの表
計算ソフトでやるとすぐ計算できますが,紙と鉛筆でも計算できます.和を求
める「公式」があるのです(すでに高校の「数学」で学んでいる方もいるでし
ょう).

(注)公式の証明は,メールマガジン「等比数列」を読んでください.
メールマガジン 第111回 等比数列

n項までの等比数列の和の公式 =

   初項*(1−公比^ n)/(1−公比)     (4)

上の公式を使うと,上式は

 L = (x/(1+r))*(1-1/(1+r)^n)/(1-1/(1+r))

これを簡単にすると

 L = (x/r)*(1-1/(1+r)^n)         (5)

(5)から,x について求めると,

 x = r*L/(1-1/(1+r)^n)           (6)

言葉で書けば,

              金利*ローン金額
 毎月の返済額 = --------------------------------  (7)
                  1
           1− -----------------------
              (1+金利)^返済月数

電卓を使えば計算できなくもないですが,返済月数が大きいときは計算が大変
です.こういうときは表計算ソフトを使いましょう.

表計算のワークシート上では例えば次のようになります.

   =(0.025/12)*200/(1-1/(1+(0.025/12))^36)

例題では,金利2.5%は年の金利で与えられているので,これを1カ月の金
利になおす必要があります.上のワークシートの式で,0.025/12の部
分が月金利に変換した部分です.

上の式を実行すると,答えは, 5.772275(単位 万円)
円以下は切り捨てて, 57,722円が答えになります.

■銀行のシミュレーション・サイト

銀行のホームページを見ると,ほとんどの銀行がローン計算のシミュレーショ
ンコーナー(シュミレーションは間違いなので注意しましょう)を用意してい
ます.上で計算した値と同じになっているか,チェックしてみましょう.熊本
の代表的な地銀,肥後銀行のサイトを使ってみます.

肥後銀行:
http://www.higobank.co.jp/
シミュレーションコーナー:
http://www.higobank.co.jp/home/simulation/index.html
ローンシミュレーション:
http://www.higobank.co.jp/home/simulation/loan.asp

ローンシミュレーションコーナーで次のように入力します.この値は,最初に
示した例題の設定と同じです.数値はすべて半角で入れます.

ローンの種類: 固定金利5年もの
借入金額:   200 万円
 うちボーナス返済額:  0 万円
借入期間:   3 年
借入金利:   2.5 %

計算ボタンをクリックすると,すぐ答えをだします.

毎月の返済額:  57,723 円
1年間の返済額: 692,675 円
返済総額:    208 万円

毎月の返済額が57,723円となっていますが,これは円未満を四捨五入し
ていることがわかります.銀行は「切り捨て計算」が基本なので,本来は57,
722円と表示させるようにすべきです.

表計算での結果と銀行のサイトの結果が最後の桁が違っていた場合は「四捨五
入」か「切り捨て計算」かの違いによるものと判断して間違いありません.金
融機関は切り捨て計算ですから,サイトのシミュレーションコーナーも切り捨
て計算で表示すべきです.銀行によっては正しく切り捨てになっているサイト
もあります.

例えば,静岡銀行のローンシミュレーションコーナーでは,正しく切り捨て計
算で表示しています.

静岡銀行 ローン返済額の計算:
 http://www.shizuokabank.co.jp/financecalculation/fi-006.jsp

ローン計算の原理と公式を理解していると,銀行のシミュレーションコーナー
が正しい計算をしているかどうかをこのように判断できるのです.
なお,消費者金融系のサイトのシミュレーションコーナーは比較的おおざっぱ
な結果しかだしていないところが多いので注意が必要です.

■エクセルの関数を使うと

表計算ソフトエクセルには,ローンの返済額を計算してくれる関数が内蔵されて
います.PMT関数です.次のような形をとります.

 =PMT(金利,返済回数,−借入金額)

借入金額(ローンの金額)にはマイナス記号(-)を付けるので注意が必要です.
PMT関数の考え方は,上で説明したローンの計算手法と同じです.PMT関数を
知っているからと言って,ローンの原理を理解したことにはならないので,勘
違いしないでください.上で説明したローンの考え方を理解した上で使ってく
ださい.上の例題をPMT関数で解くと次のようになります.

 =PMT(0.025/12,36,-200)
 5.7722755(答え)

全く同じ答えになります.

★エクセルのファイルダウンロード(上の例題を試すことができます).
loanrei.xls

Mathematica でやると

数式処理ソフト Mathematica を使うと,次のようになります.

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v[k_] := x/(1 + r)^k;
V[n_] := Sum[v[k], {k, 1, n}];
pmt = Solve[L == V[n], x]
pmt /. {L -> 200, r -> 0.025/12, n -> 36}
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(補足)小数点以下の有効桁数を上げる場合は次のようにします.
0.025`10 の `10 がポイントです.

pmt /. {L -> 200, r -> 0.025`10/12, n -> 36}

r -> 0.025/12 のままだと,答えは5.77228ですが,
r -> 0.025`10/12 にすると,答えは 5.77227513 となります.

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1行目は割引現在価値を計算するための「関数定義」です.
2行目はn項までの現在価値の和を「関数定義」しています.
3行目は,ローン(L)と返済の割引現在価値の和(V)が等しくなるとき,
x(毎月の返済額)について解いています.その値を pmt とおいています.
4行目では,ローン金額(L),月利(r),返済期間(n)に数値を代入
しています.

表計算の思考方法,Mathematica の思考方法,あなたはどちら派?

両方のアプローチを共に学んでください.

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(注意)後日サイトにアクセスした場合,サイトの構成に違いがでてきたり,
URLが変更になっている場合がありますので,了解してください.
(アクセス日)2004年12月14日

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【Q & A】ローン計算の基本になっている計算方法は?

     → 割引現在価値法

【今回のサイト】 肥後銀行 ローンシミュレーション:
   http://www.higobank.co.jp/home/simulation/loan.asp

         静岡銀行 ローン返済額の計算:
   http://www.shizuokabank.co.jp/financecalculation/fi-006.jsp

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【発行】 熊本学園大学 経済学部 国際経済学科
【著者】 笹山 茂
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Copyright 2004

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