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在外調査報告――中国外交部档案館の歩き方2008

2008年11月3日
北京朝陽門外にある中国外交部档案館の紹介です。
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 北京朝陽門にある中華人民共和国外交部档案館での史料調査も4度目となった。最初に訪れたのが2005年12月、2度目が2006年12月、3度目が2007年8月から9月、そして今回である。今回の目的は引き続き1950年代の日中関係に関する外交档案を調査・収集することにあるが、あわよくば1960年代の档案が「しれっ」と公開されていればとの期待もあった。

 結論から言えば、残念ながら1960年代については10月31日現在も公開されていなかった。2007年夏に訪れた際には「2008年の春節明けには公開される」ということだったが、オリンピック直前の1年間ということもあり外交部の作業が進まなかったのだろうか。あるいは、2007年春に他の政府機関から「外交部で档案を勝手に公開されては困る」とクレームが入ったとのことなので(今回改めて直接工作人員に確認した)、これも公開作業に影響を与えているのかも知れない。

 もちろん今回も某氏(4年来の付き合い)に「いつ公開されるの?」と尋ねたが、「11月には公開される」との回答。「本当?」と念を押すと、案の定「確実には決まっていない」とのことであった。档案公開に関しては「先進単位」とされるが、やはりそこは中国である。どうしても確認してから行きたいという人は、国際電話で直接確認した方が確実だろう。公開されていればきっと某氏が「已経公開了!」とでかい声で答えてくれるだろう。

 やはり「外交部が作成した档案以外は複写禁止」という規定が影響しているのだろうか、訪問者はほとんどない。日本の戦後外交記録と同様、中国外交部の档案には政策決定文書がほとんど含まれていない。そのため、これを研究に利用する場合、当然のことながら政策執行過程の再構成が「命」となる。すなわち、極めて細かい電報などを確実に並べていくことで、事実関係を再構成する必要がある。このような手法を採るにあたって特に重要なのは、外交部以外の機関が外交部に宛てて発出した文書となるのだが、本当に必要な档案は「すべて筆写しなければならない」という状況になっている。

 もとより外交部档案は「抜けているパズルのピースを埋めるため」に利用するのが適切な用い方だと思う。従って、「それ」をするために半年近く毎日档案館に通うようでは、本末転倒になってしまいかねない。その意味で、今後の外交部档案の調査・収集は「組織力」と「資金力」、そして「体力」がものを言うようにならざるを得ないだろう。それを具体化するための布石も今回少しだけ打たせてもらった。とにかく、誰かがやらなければならない仕事である。

 今回最大の変更点は、某氏の補佐役(档案複写担当)が中年男性から中年女性に変わったことである。この女士がとにかく人当たりが良く、テキパキと対応してくれて本当に助かる。档案複写の「批」に関しても、某氏がいない時には女士が対応してくれるのだが、今回特別に「批」の内部規定を教えてもらった(服務台の向う側に入れてもらった)。5つほどの「規定」がポスト・イットに手書きされてパソコンに貼られており、それに基づいて「批」の判断をするとのことである。基準は昨年報告した通りである。ちなみに最後のの項目として「あまり複写申請が多く、仕事が多くなるようであれば、適宜断るように」という規則はなかった...と思う。

 いずれにしても今回調査に使えたのは4日と半日。これでも専任になると目一杯のような気がする。ちなみに私は修士の時から外交文書を筆写して何ぼの体力勝負で研究を進めてきたが、外交部档案についていえば、1頁ぎっちり文字がつまった文書をパソコン入力するのに10分から15分。1時間で4〜5頁。午前3時間と午後3時間で20〜25頁が限界である。国史館の蒋介石文書ほど価値があるとは思えないが、それでもやらざるを得ない。「開いているのに見ていない」という査読意見が当たり前となった昨今、「手続き」としての「北京詣で」は避けられないのではないかと思う。

 とはいえ、研究人生は長い。3年後、あるいは10年後にまた規定が変わるかも知れない。コツコツと「北京詣で」を繰り返しながら、チャンスを待つのも研究者としての大事な仕事だと思う。

文責 大澤 武司

    
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