在外調査報告――上海市档案館の歩き方2010冬
2010年12月29日 上海市中山東二路にある上海市部档案館の紹介です。 .............................................................................................................................................................................................
科研「建国初期中国の対日戦後処理外交」(研究代表者:大澤)の在外調査として、上海市の外灘沿い(中山東二路と延安東路隧道の交差点近く)にある上海市档案館にて史料調査を行った。上海でのスケジュール変更などがあったため、急遽、档案調査を敢行することとなった。まったく下調べをしていなかったが、とにかく行ってみることに。
場所は極めてわかりやすい。繁華街として知られる南京東路からも徒歩10分程度。外灘沿いに散歩がてらくだっていけば、すぐにみつけられるだろう。これほどわかりやすい場所にある档案館も珍しいのではないだろうか(国家級や省級は除く)。
まずは入館。1階では荷物のセキュリティチェックがある。検査に通ると笑顔で「3号エレベーターで5階に進んでください」と声をかけてくれる。建物のなかも明るく、档案館というよりはホテルのロビーといった感じ。
荷物は閲覧室に入室する前に預けなければならない。ロッカーは1階と5階に電子式のものがある。まず「存包」のボタンを押すと扉が開くのと同時に「密碼」が書かれた紙がカタカタと出てくるので、それをゲットしてドアが開いたところに荷物を収納すればOK。もちろん「免費」である。
5階にあがると入口左手に目立つ閲覧申請台があるが、そこですぐに閲覧が始められるわけではない。服務員が「最初に向かい奥の登記処で閲覧カードを作ってください」と教えてくれる。赤い「閲覧証申請表」に必要事項を記入し、パスポートを見せるだけで無料で閲覧カードを作ってくれる。カードの浦にはID番号が明記されており、あらゆる手続きの際にこの番号が必要となる。紹介状は不要であった。
档案は種別によって閲覧方法が異なる。まずはPDF閲覧。これは24台用意されている閲覧用のPCを利用して閲覧する。PCは自分で起動させてかまわず、さきほどのIDとパスワード「111」を入れれば、個人専用の閲覧サイトが開くしくみになっている(詳しくはPC横に説明書きがある。4枚目写真を参照)。
PDF閲覧は、目録検索後、「題名」のところに(全文)と表記してある場合、そのままそのPCで档案そのものが全文閲覧できる。複写の申請もPC上でそのままでき、プリントアウト(打印)されたものを受け取ることができる(複写手続きについては後述)。
ふたつめのカテゴリーはマイクロ閲覧。PCで目録検索した際に(全文)の表記がないものは閲覧室備え付けのマイクロ庫から閲覧者が直接取り出し、6台設置してあるマイクロ・リーダーで閲覧することができる。マイクロ・リーダーがある場所に档案番号とマイクロ保存ロッカー番号の対応表の冊子が置いてあり、これもストレスなくすぐに閲覧することができる。档案開始のコマ番号まで目録上で確認できるので、本当にありがたい。
もっとも、今回はリーダーに接続されているプリンタの調子があまり良くなく、私が必要とする档案は時間的な関係からすべてパソコンに入力することとした。調子が良ければガンガンプリントできるのだろうが、すこし運が悪かったようだ。
そして最後は原本閲覧。これはいわゆる旧館(仙霞路)にある「後庫」からいちいち搬出する形で閲覧しなければならない档案たちである。档案館で配布されている「档案便民服務手冊」によれば、9時30分、10時50分、13時、15時の1日3回「搬出」されることになっているが、これは形骸化しているようで、「後庫」に所蔵される史料の閲覧をお願いしたら、火曜日であるにもかかわらず「木曜日まで待て」と言われる始末であった。なお、備えつけの「査閲档案申請表」を利用して閲覧申請が必要なのはこの「後庫」の原本档案のみで、PDFとマイクロは申請せずに勝手にPCで閲覧することができる。
なお、複写についてだが、PC上のPDFについては、PC上で「複制」をクリックすれば、データが複写担当者に通知される仕組みなっている。ただ、クリックだけで「複制」は始まらず、備えつけの「複制档案申請表」に改めて記入し、服務台に提出しなければならない。この紙ベースの申請表を担当者が「批准」してくれれば無事に「打印」となる。私が今回申請した10件あまりの档案はすべて複写することができた。
ちなみに、PDF档案の「打印」は1枚あたり2元であった。複写作業が完了すると、市役所の市民課よろしく電光掲示板に名前が現れるので、自分の名前が出たら再び「登記処兼複制処」に行き、支払いの後、目的の档案を受け取れば良い。なお、すばやく「収据」も作ってくれる。とにかくスタッフがたくさんおり、作業が細分化されているので、いずれの作業も極めてスムーズであった。
所蔵档案についてだが、専門の日中関係を中心に調査を行った。「日本」で検索をかけた場合、20世紀初頭から2007年まで「5805」件の档案がヒットした。建国後に限って再検索してみると「3295」件であった。個人的な研究関心で検索したキーワードとしては、「回国」が「549」件、「日僑」が「285」件、「日本僑民」が「7」件、「紅十字会」が「353」件などとなっていた。
わずか1日半の調査だったが、極めて効率的かつ有意義な調査となった。とにかくPCが利用しやすい。ID管理により、自分専用のサイトが作られるため、「我的査档記録」や「我的全文複制請求」、さらには「我的調閲請求」など、それまで自分が閲覧・複写を行った档案がすべてリスト化されており、いちいち別にメモをとったりせずとも、作業の重複を効率的に回避することができた。
また、さすがは上海というべきか、服務員のサービスの質が他の档案館に比べれば高かった。たいへん愛想もよく、とにかくテキパキと応対してくれる。北京の某档案館も最近雰囲気は良くなったが、上海市档案館は複写制限がほとんどないこともあり、極めて気持ちよく調査できる環境が整っていた。
窓ごしに東方明珠テレビ塔をながめながら「ローカル」な史料をじっくりと読む年末は、「グローバル」と「ナショナル」、そして「ローカル」という多様な档案にアクセスする必要をしみじみと感じさせてくれる、なかなか趣深い有意義な時間となった。文責 大澤 武司
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