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第59回 チャート分析[top]

                         2003年5月20日更新
                         2003年5月16日発行
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国経館 経済学 メールマガジン      金曜版       No.101
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みなさん,こんにちは.笹山です.
このメールマガジンは国際経済学科のメールマガジン「国経館」の1つとして,
国際経済学科のすべての学生に配信されています.

今回は,将来の株価や為替を予想しようとする手法の紹介です.チャート分析
とかケイ線分析と呼ばれています.果たしてうまく予想できるのでしょうか?

表計算の便利な使い方も紹介していますので参考にしてください.

マクロ経済学のメールマガジンとしてはNo.59です.
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【第101号】 チャート分析:株価や為替相場は予測できるか?

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株価や為替相場を予想することは不可能だという理論があります.「効率的市
場仮説(efficient market hypothesis)」です.この理論が正しければ,過
去の相場のデータに基づいて株価や為替レートを正確に予想することはできな
いし,いかなる人も市場平均の収益率を超えて儲けることはできません.

その一方で本屋さんの経済書コーナーを覗いてみると,「株価予想」とか「株
価が読めるチャート分析」などというタイトルの本や雑誌がたくさん積んであ
ります.いわゆる実務家と呼ばれる銀行や証券会社で株や為替を実際に取引し
ている人々の間では,相場のグラフを描いて予想する「チャート分析」や「テ
クニカル分析」という手法が一般的に行われているようです.「効率的市場仮
説」など実際には成り立っていないとみているわけです.その大きな理由の1
つは,株価や為替に影響を与える情報がすべての人に完全に行き渡っていると
思ってはいないからです.他人を出し抜ける情報を持っていたとすればそれを
利用して相場を予想し大きな利益をあげることができる余地があるにちがいな
いと考えているのです.

経済学者はどちらかというと理論的に考えるのが好きですから,グラフを描い
て株価や為替を予想するなどという見方には懐疑的です.株で儲けたといって
も,その裏側では同じ程度予想を間違えて損を被っているにちがいない.ある
程度長い期間をとってみれば,収益率は結局は市場の平均程度かそれ以下でし
かないとみているのです.

今回のテーマの「チャート分析」は,好き嫌いに関わらず,実際「チャート(
グラフ)」を描いて相場を予想し,それに基づいて取引をしている人々がいる
わけですから,どのような考えに基づいているのかを知っておく必要がありま
す.以下では為替レートの予想に絞って「チャート分析」を紹介します.

(注)効率的市場仮説やランダムウォークについては,私のメールマガジンを
参照してください.
メールマガジン(経済用語解説) ランダムウォーク:
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/macroecon/mailmagarw.html

■移動平均

為替予想のチャート分析の基本は移動平均線を作ることです.移動平均(
moving average)とは,ある一定期間のデータを1つずつずらしながら平均を
計算する手法です.為替や株価は短期的に大きく変動するので,それらの傾向
(トレンド)をつかまえるためにこのような平均を計算します.

何日間の移動平均を計算したらよいかですが,為替レートの場合は,短期の傾
向をとらえるには21日間の移動平均を,中期の傾向をとらえるには90日間
の移動平均が適しているといわれています(大海(1983)参照).21日
移動平均は約1カ月,90日移動平均は約3カ月の傾向をとらえるものとみな
せばいいでしょう.なお,21日や90日は取引日だけを取り出すので,取引
のない土日や祭日は省いた日数です.

■移動平均の作り方

コンピュータがない時代には移動平均を計算することは結構大変でしたが,パ
ソコンが使える今では非常に簡単に計算することができます.特に表計算ソフ
ト(例えばエクセル)を使うとあっという間に作れてしまいます.

例えば21日間の移動平均の場合は,その日を含めた21日前までのデータを
足し合わせて21で割り,21日間の平均を計算します.次に翌日の移動平均
は1日手前にずらした21日間のデータの平均を計算します.後は順々に1日
ずつずらしながら平均を計算していきます.従って,21日間の移動平均の場
合,最初に計算できる移動平均の値は元のデータでは21個目のデータからで
す.90日間の移動平均の場合は1つずつずらしながら90個の平均を計算し
ていきます.

エクセルでは,最初に次のように式を入れます.

  =AVERAGE(B4:B24)

前提として,元のデータはB4から下方向に並んでいるとします.上のように
式を作ると,B4からB24までの21個のデータの平均を計算します.後は
この式を「下方向にコピー」するだけでよいのです.上のAVERAGE関数は自動
的に番号を1つずつ下にずらしながら平均を計算してくれるので,結果的に2
1日間の移動平均が完成してしまうというわけです.この便利さ.初めて表計
算ソフトの「下方向コピー」(あるいは「右方向コピー」)を体験すると,ほ
とんどの方は感動します.わたしもそうでした.

■チャート分析の法則

移動平均を計算してグラフを描き,その形状から為替相場の将来を予想する場
合に,昔からの経験則としてよく利用されているいわば法則のようなものがあ
ります.元々は株式市場のチャート分析(あるいは,ケイ線分析)から発達し
たテクニックですが,為替相場にも応用できます.大海(1983)では為替
相場の予想に適用できる法則を多数紹介していますが,ここでは代表的な3つ
を挙げておきましょう.ゴールデンクロスとデッドクロス,それにペナントで
す.

ゴールデンクロスとデッドクロス:
ゴールデンクロスとは,短期傾向線が中期傾向線の傾きがほぼ水平になった部
分を下から上に突き抜ける状態を指します.ゴールデンクロスが現れたら,こ
こからは株価は完全に上昇基調に入ったとみなします.

逆に,短期傾向線が中期傾向線がほぼ水平になった部分を上から下に切った状
態をデッドクロスといい,ここからは株価は完全に下げ基調に入ったことにな
ります.株の世界では,ゴールデンクロスは「買い」のサイン,デッドクロス
は「売り」のサインと見られています.

ペナント(あるいは,三角保合い)とは野球のペナントの形に似ているのでこ
う呼んでいます.短期と中期の移動平均線が三角形の二辺を形作り,日々の相
場がこの三角形の範囲内で上下を繰り返しながら比較的狭い変動幅で動く状態
です.ペナントについての経験則は,近々相場がボックス圏を破って大きく変
動する前兆であるというものです.どちらの方向に変化するかについて,大海
氏(1983)は,為替レートについては中期移動平均線に従うとしています.
中期移動平均線が円高方向を示していれば,今後は円高方向に大きく振れるこ
とを暗示するということです.

■チャート分析を実際に適用する

2002年1月以降の円ドルレートの終値について上で紹介したチャート分析
を適用して,2003年5月末の円ドルレートを予想してみましょう.

なお,以下で示す為替レートのグラフでは,数値が小さい方が円高ですので,
円高基調への転換を示すゴールデンクロスは株価のときとは逆に短期線が中期
線を上から下へ切る場合に現れ,デッドクロスは短期線が中期線を下から上に
突き抜ける場合に現れることに注意してください.

笹山ゼミ 経済データのグラフ,円レートと移動平均:
http://www.kumagaku.ac.jp/teacher/~sasayama/images/keisen.gif

このグラフは,2002年1月4日から2003年5月13日までの東京外為
市場の終値とそれに基づく21日移動平均線と90日移動平均線のグラフです.
円高基調への転換点を示すゴールデンクロスは2002年4月25日に現れて
います.他方円安への転換を示すデッドクロスは2002年10月1日に見る
ことができます.

2003年の4月から5月初めまでのチャートの形を見ると,どうもペナント
の形が現れているように判断できます.90日移動平均の中期線は円高方向を
示しているので,チャート分析の法則に従えば今後は円高に向かうと予想され
ます.チャート分析では5月末に1ドルいくらになるかまでは示してくれませ
ん.相場の方向のみを予想します.

5月15日の終値は115円93銭でした.はたして,5月末時点の円レート
はチャート分析が予想するようにこれよりも円高になっているでしょうか.

【データのダウンロード】
yenma.xls
2000年1月4日から2003年5月15日までの東京外為市場の円レートの終値の
データです.移動平均のグラフもあります.クリックするとダウンロードでき
ます.

■新聞記事の紹介
チャート分析という言葉は,新聞にもときどき登場します.チャート分析は実
務家だけのものだと思っていたら,どっこい,財務省の高級役人も活用してい
ることがわかりました.次のニュースです.

「円売り介入 手詰まり感.4年前の円高再現説も」
『日本経済新聞』2003年5月16日 20面
「過去の値動きから相場の節目を推し量る「チャート分析」を重視する市場関
係者によると,現時点でのチャート上の「円高抵抗線」は1ドル=116円近
辺にある.115円台への突入は1995年4月の円最高値(1ドル=79円
75銭)から続いた8年強のドル高・円安基調がいったん途切れたことを示唆
する,と見る向きが多い.財務省の黒田東彦・前財務官はチャート分析に基づ
いて介入を決めることで市場でも有名だった.国際局長として黒田氏に仕えた
溝口善兵衛・現財務官が同じ手法を重視したとしても不思議でない(抜粋).」

政府・中央銀行が外為市場で為替レートを特定の水準へ誘導しようとして通貨
の売買注文をだすことを「市場介入」と呼んでいます.日本では財務省の指揮
の下で日本銀行が市場へ通貨の売り買い注文を出します.上の記事の場合,財
務省は円高が進むことを阻止しようとして外為市場に「円売り・ドル買い」注
文を出しています.市場関係者にさとられないように行う介入のことを「覆面
介入」などと呼んでいます.

■参考図書
★大海 宏(1983)『実戦 為替レート予測』日本経済新聞社
外国為替市場のチャート分析の第一人者による著書です.1970年代から8
0年代にかけて住友銀行で外国為替のディーリングを担当していた方です.1
976年12月から1983年4月までのチャートが巻末に掲載してあります.
移動平均の作成方法やチャートの読み方が示してあります.

★大海 宏(1999)「為替実務家と均衡為替レート」
http://www.mof.go.jp/f-review/r48/r_48_030_053.pdf (24pages)
財務省 財務総合政策研究所『フィナンシャル・レビュー』第48号 199
9年1月号
この論文の中におもしろいアンケート結果が整理されています(同論文10ペ
ージ).大海氏は外国為替取引の現役為替ディーラー22名(1998年7月
時点)に,中期的に為替レートを決める要因にランキングを付けてもらいまし
た.以下はそのうちベテラン・ディーラーが付けた順位です.実務家が重要と
みなしている順番です.
1.米国の政治・意向・政策
2.金利
3.協調介入
4.経常収支
5.日本の金融システム不安
6.景気
7.要人発言
7.(同率7位)単独介入
9.欧州単一通貨ユーロ
10.国際政治一般(米国を除く)
11.アジアの通貨・金融・経済危機
12.株価
13.国内政治
14.対外純資産残高
15.インフレ

★小口幸伸『外為市場血風録』集英社新書,2003年
1974年から最近まで実際に外国為替ディーラーとして第一線で活躍してき
た著者による体験に基づいているので,迫力があります.この書物を読むと,
外為ディーラーとは,相場の波をたくみに乗りこなすサーファーのような人で
あるという印象をもちました.

吉見 俊彦『決定版 チャート分析の真実』日本短波放送,2003年

田中勝博『テクニカル分析大全集』シグマベイズキャピタル,1998年
株式市場を対象にして,チャート分析を初めとして様々な手法を紹介していま
す.こんなにもたくさんの種類があるのかと驚きます.当然ながらこれらの書
物は「効率的市場仮説」を否定する立場です.

■関連サイト
日経円ダービー 学生対抗戦:
http://www.nikkei.co.jp/enq/yendb/

学生5人以上と指導教授がいれば,日本経済新聞社が主催する「日経円ダービ
ー」に参加することができます.5月末と6月末の円相場の終値を予想する大
学(中学,高校生も参加できます)対抗戦です.
このような企画があるということは,円相場はランダムウォークに従って動い
てはいない,あるいは外為市場は「効率的な市場ではない」という見方が根底
にあります.

★メイタン・トラディッション 国際金融情報ネット:
http://www.tradition-net.co.jp/
外国為替取引を仲介するブローカーの会社のサイトです.ディーリングを行う
円卓テーブルが見えます.円相場の表示も頻繁に更新されるので,臨場感があ
ります.

東京証券取引所 コラムコーナー 〜澄夫にきけ!株価チャート分析のイロハ:
http://www.tse.or.jp/cabu/200211_chart/column_2/page08.html
為替相場ではなく株式相場を対象にしたチャート分析の解説です.為替で使う
チャートは元々は株価で使われていたものですので参考になるでしょう.

★大和投資信託 林 康史のマーケット講座:
http://www.daiwa-am.co.jp/market-information/past.html
チャート分析の連載がまとめられています.ドル円の分析も載っています.

【用語解説サイト】
株式・証券関係の用語の意味を知りたい場合は,野村証券や東京証券取引所の
サイトを参照しましょう.

★野村証券証券用語解説集:
http://www.nomura.co.jp/terms/index.html
チャート分析:
http://www.nomura.co.jp/terms/ta-gyo/tyatobun.html
テクニカル分析:
http://www.nomura.co.jp/terms/ta-gyo/tec_analysis.html

東京証券取引所証券用語:
http://www.tse.or.jp/glossary/index.html

■まとめ------------
・効率的市場仮説が成立しているなら,株価や為替相場を予想することはでき
ない.
・同仮説が成立していないなら,株価や為替相場を予想して他人より高い収益
率を上げることが可能になるかもしれない.
・過去のデータからグラフを描いて相場を予想する「チャート分析」は効率的
市場仮説が成立していないことを前提としている.
・チャート分析の基本は移動平均を計算してグラフを作成すること.
・為替相場の場合,短期のトレンドは21日間の移動平均で,中期のトレンド
は90日間移動平均でとらえる.
・チャート分析の代表的な法則に,ゴールデンクロスとデッドクロスがある.
前者は上昇基調を,後者は下落基調をとらえる.
・チャート分析によれば,2003年5月末の円ドル相場は円高基調が予想さ
れる.
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ぜひ,みなさんも,実際にウェブサイトにアクセスして確認してください.

【上級者向け課題】
上で説明した方法に従って,円ドルレートの終値を用いて21日と90日の移
動平均を計算し,それらをグラフにしてみなさい.ゴールデンクロスとデッド
クロスも確認してください.

(注意)後日サイトにアクセスした場合,サイトの構成に違いがでてきたり,
URLが変更になっている場合がありますので,了解してください.
(アクセス日)2003年5月16日

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【Q & A】一般に相場で短期移動平均線が中期移動平均線を下から上に突
き抜けて上昇基調に転換する点を何という?
      → ゴールデンクロス

【今回のサイト】 野村証券証券用語解説集:
         http://www.nomura.co.jp/terms/index.html

【評価】★★★

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        ★1つは普通という評価です.
      データが十分提供されているかどうかが評価のポイントです.
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【発行】 熊本学園大学 経済学部 国際経済学科
【著者】 笹山 茂
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Copyright 2003

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