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第63回 金融リテラシー[top]

                        2003年8月12日更新
                        2003年7月11日発行
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国経館 金融リテラシー  メールマガジン          No.115
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みなさん,こんにちは.笹山です.
このメールマガジンは国際経済学科のメールマガジン「国経館」の1つとして,
国際経済学科のすべての学生に配信されています.

今回は,金利計算に関するアンケートを紹介しながら,ファイナンシャル・リ
テラシーについて考えます.

マクロ経済学のメールマガジンとしてはNo.63です.
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【第115号】 金融リテラシー

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みなさんは「情報リテラシー」という言葉は知っていることと思います.大学
の講義にも同名の科目があります.最近は「リテラシー」の頭に様々な言葉を
付けて表現するのが流行っています.「経済リテラシー」というのもあります.
「リテラシー」とは,元々は基礎的な「読み・書き」ができることを意味する
言葉でしたが,今では多方面に使われて,それぞれの分野での基礎的な能力が
あることを意味する用語として用いられるようになってきました.ファイナン
シャル・リテラシー(金融リテラシー)もその1つです.

金融リテラシーを連想させる新聞記事が目に留まりましたので紹介しておきま
しょう.

2003年7月5日付,『日本経済新聞』(朝刊,4ページ)からです.

「金融広報中央委員会(事務局日銀)は4日,金融に関する消費者アンケート
の結果を発表した.調査は2001年に続き2度目.前回と比べ,「ペイオフ
」「生命保険の予定利率」など金融用語の認知度は上がった.ただ,金利計算
などについての理解度は低く,同委員会は教育を強化する必要があるとしてい
る.(抜粋)」

私が気になったのは,「金利計算などについての理解度は低く」の部分です.
日経の記事ではこれ以上詳しく触れていないので,元の資料にあたるしかあり
ません.金融広報中央委員会のサイトを調べてみましょう.すぐ見つかります.
当然,検索エンジンは「google(グーグル)」ですね.

■金融広報中央委員会のアンケート調査
「金融に関する消費者アンケート調査」結果は以下の2つのpdfファイルで公
開されています.

金融広報中央委員会:
http://www.saveinfo.or.jp
金融広報中央委員会「金融に関する消費者アンケート調査」:
http://www.saveinfo.or.jp/consumer/research/2003/03enquet.html
http://www.saveinfo.or.jp/consumer/research/2003/03enqut1.pdf (8pages)
結果のグラフによる整理
http://www.saveinfo.or.jp/consumer/research/2003/03enqut2.pdf (16pages)
アンケート全文とその集計結果

アンケートの対象者数は20歳以上の男女4000人で,回収率は69.1%
の2764人です.このアンケートでは大学あるいは短大で経済学を専攻した
人々については区別して結果を整理している点に興味があります.

私は,「金利計算などについての理解度は低く」に興味を持ちましたので,私
が担当しているマクロ経済学1受講生(ほとんどは1年生)178人を対象に,
金利計算に関する3つの問題についてアンケートを実施してみようと思い立ち
ました.実施日(2003年7月8日)時点では,学生はすでに金融面につい
て学んでいましたので,金融広報中央委員会の整理に従えば,「経済学専攻」
に近いと思われます.

以下に,金融広報中央委員会のアンケートから金利計算に関係する3つの問題
を紹介し,同委員会による結果と本学の国際経済学科の学生によるアンケート
結果も併せて紹介しましょう.

■金利計算問題の例

(1)同じ年のAさんとBさんがいます.Aさんは25歳のとき,毎年20万
円ずつ貯蓄をし始めましたが,Bさんはしていません.50歳になったとき,
Bさんは退職後の生活に備えてお金が必要だと気付き,毎年40万円ずつ貯蓄
をし始めましたが,Aさんの貯蓄は相変わらず毎年20万円のままです.さて,
2人が75歳になった時,どちらが多くのお金を持っているでしょうか.

1.2人とも同額を積み立てたので,同額を保有している.
2.Aさん.長期にわたって貯蓄していて運用されているから.
3.Bさん.1年間の貯蓄額がAさんより多いから.
4.よく分からない.
(答は2)

後から貯蓄して追いつくためにはよほどの高額の貯蓄を積み立てなければなり
ません.一般に銀行での預金は複利で増えていくので期間が長いほど指数関数
的に増加していきます.もし単利なら直線的に増えていくので複利よりは追い
つきやすいでしょう.

(注)この問題は,金融広報中央委員会が,アメリカのジャンプスタート個人
金融連盟(Jump$tart Coalition for Personal Financial Literacy,以下ジ
ャンプスタートと略します)から許可を得て採用した問題とのことです.ちな
みに2001年12月から2002年2月にかけて,アメリカの高校3年生4
024名を対象に実施したこの問題の正答率は59.8%でした.

問題(1)の結果の整理(単位%,( )は人)
選択番号   全 体    経済学専攻   本学国際経済学科
 1     8.7     3.6     9.0( 16)
 2    71.3    86.6    81.5(145)
 3     2.9     1.8     9.0( 16)
 4    16.7     8.0     0.6(  1)

(2)国債の金利と価格の関係を正しく説明しているのは,次のうちどれでし
ょうか.
1.国債の価格が上がると,金利が上がる.
2.国債の価格が上がると,金利が下がる.
3.国債の価格と金利との間には,何の関係もない.
4.よく分からない.
(答は2)

問題(2)の結果の整理(単位%,( )は人)
選択番号   全 体    経済学専攻   本学国際経済学科
 1    13.3    17.9    24.2( 43)
 2    16.0    36.6    64.6(115)
 3    13.9    19.6     7.9( 14)
 4    56.2    25.9     3.4(  6)

債券の価格と金利(あるいは利回り)の動きは逆になるというのは,金融での
基礎知識ですが,一般にはあまり知れていないようです.債券の市場価格は債
券の利子収入を利子率で割り引いて計算される(割引き現在価値)ことを理解
していればよいのです.この関係を理解していないと新聞の経済欄を十分読み
こなすことはできません.

(3)100万円を年5%の金利で1年間借りました.その後,毎年同じ条件
で借り換えて,元本と金利を5年後に一括して返済しました.5年後の返済額
に関する以下の説明のうち正しいものはどれでしょうか.
1.単利計算であるため,5年後の返済額は,およそ125万円である.
2.単利計算であるため,5年後の返済額は,およそ128万円である.
3.複利計算であるため,5年後の返済額は,およそ125万円である.
4.複利計算であるため,5年後の返済額は,およそ128万円である.
5.よく分からない.
(答は4)

問題(3)の結果の整理(単位%,( )は人)
選択番号   全 体    経済学専攻   本学国際経済学科
 1    18.5    20.5    23.0(41)
 2     5.7     9.8     6.7(12)
 3     6.4     4.5    37.6(67)
 4    22.2    38.4    21.4(38)
 5    46.3    26.8    11.2(20)

問題3だけが,本学の国際経済学科の学生と金融広報中央委員会の結果とで大
きく異なりました.本学の学生の最も多い回答は選択肢3であり,正解の選択
肢4を選んだ学生の割合は3番手でした.3と4を選んだ学生の合計が約6割
と最も多いので,問題文が複利計算を意味していることは理解したようですが,
その正確な計算結果を間違えていると判断できます.

ただし,この問題の場合では単利と複利の原理だけを知っていれば,正確な計
算をしなくても正しい選択肢を選べるので,本学の学生は,いわゆる”受験テ
クニック”(あるいは”生活の知恵”)に慣れていないのかもしれません.と
いうのは,単利より複利の方が計算金額は大きくなるはずなので,選択肢の3
か4かを選ぶとなれば,計算しなくても当然4が正解になるはずだと推測でき
るようになっていなければならないのです.

■単利と複利の復習
上の(問題3)に関連して,単利と複利の復習をしておきましょう.1年ごと
に利子が元金に繰り入れられるのが複利であり,繰り入れられないのが単利で
す.単利では元金は最初の値のままで,年数分だけの利子収入が元金に加えら
れます.複利計算は,年数が増えるにつれて指数関数的に急激に増加していき
ます.単利は直線的に増えていきます.

単利での元利合計 = 元金*(1+利子率*年数)

複利での元利合計 = 元金*(1+利子率)^年数

上の問題の数値をあてはめると,

単利での元利合計 = 100*(1+0.05*5)=125万円

複利での元利合計 = 100*(1+0.05)^5=127.6万円

■Jump$tartの紹介
金融広報中央委員会が参考にした,ジャンプスタート個人金融連盟(Jump$
tart Coalition for Personal Financial Literacy)は,アメリカでは金融教
育を行っている組織として有名です.各州にはそれぞれのジャンプスタートが
あります.アメリカの場合は,このような機関が小中学生の段階から学校教育
での金融教育を積極的にサポートしているのです.ジャンプスタートが提唱す
る,青少年が知っておくべき12の金融原則を紹介しておきましょう.

Jump$tart Coalition for Personal Financial Literacy:
http://www.jumpstart.org/

ジャンプスタートが提唱する12の金融格言(12 Principles that every
young person should know):
http://www.jumpstart.org/principles.cfm

1.長期の目標の実現のために今貯蓄を(Map your financial future)
2.ただのものはない(Don't expect something for nothing)
3.高収益は高リスク(High returns equal high risks)
4.手取り収入を把握せよ(Know your take-home pay" principle)
5.単利と複利の違いを知る(Compare interest rates)
6.まずは貯蓄分をとりわけよ(Pay yourself first)
*7.お金は72のルールで2倍(Money doubles by "the rule of 72")
8.クレジットの支払いは後からやってくる(Your credit past is your
credit future)
9.貯蓄は若いうちから(Start saving young)
10.リスクには保険を(Stay insured)
11.自分のこづかいを管理せよ(Budget your money)
12.返せないなら借りるな(Don't borrow what you can repay)

それぞれについて,1ページからなるワードの文書が提供されており,そこで
目標とそれを達成させるための具体的な教育の手順まで示してあります.さら
にこれらの12の標語を各月に対応させたカレンダーまで作るという念の入れ
ようです.
2003年の金融リテラシーカレンダー:
http://www.jumpstart.org/2003-calendar.pdf

■72ルールとは

*7の原則(72のルール)について少し補足しておきましょう.これは年の
利子率が与えられたとき,金融資産が複利計算で元の2倍に増えるのに何年か
かるかを示すおおまかな関係(rule of thumb)を示してくれます.

     72
   ----------- = 2倍になる年数     (72ルール)
    利子率(%)

例えば,年金利が7%の複利で元金が増えるとすると,約10年で2倍になり
ます.

上の関係がなぜ成立するかを一般的に説明しておきましょう.元金をAとおき,
年の金利を複利でr*100%とします.n年後にBに増えたとすると,次の
ような式が成立します.

 A*(1+r)^n = B

2倍に増えるので,B/A=2です.

 (1+r)^n = 2

上式の自然対数(eを底とする)をとると(注),

 n*log(1+r)=log2

       log2
 n = --------------       (1)
      log(1 + r)

となります.
(1)で年金利r(%表示と見なします)を様々な値に変化させたときの年数
nを計算することができます.このあたりの計算は,表計算ソフトにさせるに
はもってこいです.実際エクセルで計算すると,年金利7%のときは10.2
4年で2倍になります.利子率×年数=約72となり,「72ルール」がえら
れます.

エクセルを使うと正確に計算できますが,概算である上の(72ルール)を覚
えておくと便利です.例えば,年金利が5%のとき元金が2倍になるには,7
2/5=約14年かかります.もし2%なら,36年かかることがわかります.

(注)自然対数の意味は以下を参照してください.

■自然対数の意味

72のルールの計算の説明の過程で「自然対数」がでてきましたが,これにつ
いて補足しておきましょう.

みなさんが高校の「数学II」で学んだ対数で多くの場合登場するのは10を底と
する常用対数です.例えば,log 10 M などと書かれています.ところが,経済
学でよく使われる対数といえば常用対数ではなくてeを底とする「自然対数」
なのです.log e Mなどと書きます.ここでeは,e=2.7182...と続く数値です.

自然対数の底e = 2.7182...は,1万円を年利率1(100%)の複利で預金し
たときからはじめて,複利計算の回数を限りなく大きくしていったときの元利
合計が収束する値に対応しています.
1年に1回利息を元金に組み入れると,1年後の元利合計は,1*(1 + 1)^1=2
半年に1回利息を元金に組み入れると,1年後の元利合計は,1*(1 +1/2)^2=2.25

(  )内の1/2は年利率1(100%)を2で割って半年の金利を計算して
います.これが半年の利率になります.以下同様の割り算をしています.

1月に1回利息を元金に組み入れると,1年後の元利合計は,1*(1 +1/12)^12=2.6130
1日に1回利息を元金に組み入れると,1年後の元利合計は,1*(1 +1/365)^365 = 2.7145
1年に1000回利息を元金に組み入れると,1年後の元利合計は,1*(1+1/1000)^1000
一般に,1年にn回利息を元金に組み入れると,1年後の元利合計は,1*(1 +1/n)^n
となります.

複利の計算では,nの数をかなり大きくしていくと,元利合計の値は大きく
なっていきますが,上の式でわかるように( )内で利率を割るnの数も大き
くなるので,無限に大きくなることはありません.ある時期以上になると一定
値に近づいていきます.それが自然対数の底 e = 2.7182... です.複利の回数
をどんなに大きくしていっても元金1万円,年金利100%の1年後の元利合
計は2万7182円を超えることはあり得ないのです.

■基本英語
複利計算(compounding)
複利(compound interest)
単利(simple interest)
自然対数(natural logarithm)
指数(exponential)

【エクセル付録】
(問題1)から(問題3)について表計算ソフト,エクセルを使って解くとど
うなるかを示しました.以下をクリックするとエクセルファイルをダウンロー
ドすることができます.参考にしてください.
fliteracy.xls

■まとめ------------
・金融についての基礎的な知識があることを「金融リテラシー」という.
・金融広報中央委員会の2002年のアンケートによると,一般に金利計算問
題の正答率が低いことが明らかになった.
・債券の価格と利子率の関係,および単利と複利の計算が十分に理解されてい
ない.
・経済学専攻の人々は一般のグループよりは金融の知識はありそうだが,それ
でも十分ではない.
・アメリカでは,小中学校の段階から金融教育に力をいれている.
・72ルールはその金融知識の1つ.
・基礎的な金利計算の向上が望まれる.
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ぜひ,みなさんも,実際に上のアンケート問題を紙と鉛筆で解いてください.

【上級者向け課題】
(問題1)でBさんがAさんに合計額で追いつくためには,Bさんは毎年の積
立額をいくらにする必要があるでしょうか.金利は年5%の複利で計算してく
ださい.
(ヒント)有限の等比数列の和の公式とエクセルのゴールシークを活用します.
有限の等比数列の和の公式については,私のメールマガジン「経済数学の基礎
等比数列
」を参照してください.

(注意)後日サイトにアクセスした場合,サイトの構成に違いがでてきたり,
URLが変更になっている場合がありますので,了解してください.
(アクセス日)2003年7月11日

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【Q & A】72のルール(the rule of 72)とは?

                      72
    →  元金が2倍になる年数 = -----------
                     利子率(%)

【今回のサイト】 金融広報中央委員会「金融に関する消費者アンケート調査」:
  http://www.saveinfo.or.jp/consumer/research/2003/03enquet.html

 Jump$tart Coalition for Personal Financial Literacy(ジャンプスター
ト個人金融連盟):
  http://www.jumpstart.org/

【評価】★★★
    ★★★

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        ★1つは普通という評価です.
      データが十分提供されているかどうかが評価のポイントです.
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【発行】 熊本学園大学 経済学部 国際経済学科
【著者】 笹山 茂
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Copyright 2003

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