メディア、較べ読み

 毎朝、インターネット上の新聞を4紙、斜め読みする。興味があれば詳細を読むが見出しを見るだけでも、その国のメディアが、どこに重点を置いた報道をしたいのかが分かり、面白い。

新聞名 URL
毎日新聞(日本) http://www.mainichi-msn.co.jp/
AlJazeera.net(アラブ系) http://english.aljazeera.net/HomePage
CNN(アメリカ) http://www.cnn.com/
BBC(イギリス) http://news.bbc.co.uk/

 今朝(2005年8月18日)は、「イスラエル入植者による銃乱射事件発生」の記事を読んでみた。

  1. 毎日新聞
    比較的、短い記事で、扱いも国際欄の一部分。この問題についての関心の低さが分かる。

    イスラエル:銃撃でパレスチナ人3人死亡 ヨルダン川西岸(毎日新聞、記事全文)

     【エルサレム海保真人】ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地シロで17日、イスラエル人がパレスチナ人を銃撃、3人が死亡、3人が負傷した。

     イスラエル・メディアによると、容疑者は別の入植地に住む運転手で、イスラエル治安当局に拘束された。付近の警備員から銃を奪って自分の車の客2人を射殺後、外にいた人たちを銃撃したという。被害者はいずれも入植地の工業地区で働いていたらしい。

     ガザ撤退に不満を募らせ、腹いせにパレスチナ人を殺害した可能性もある。



  2. Aljazeera.net
    次に、AlJazeera.net(記事全文はこちら)。 このサイトは、イスラエルと犬猿の仲のアラブ社会側が、主な読者である。

    Israeli settler kills three Palestinians (AlJazeera.net ヘッドラインのみ)

    An Israeli settler has opened fire at a group of Palestinians in the West Bank, killing three people, in a shooting that coincided with Israel's Gaza withdrawal.

    (訳)イスラエル入植者、パレスチナ人3人を殺害

     イスラエル人入植者が、ヨルダン川西岸地域でパレスチナ人のグループに発砲。3人が死亡、この銃撃はイスラエルのガザ地区撤退と時を同じくして起きた。


    ヘッドラインは以上。本文は、

    ・この事件の犯人が検問所の警備員からナイフで銃を奪った後、犯行に及んだ。
    ・イスラエルのシャロン首相がこの犯人を非難している
    ・イスラエル側のメディアは「犯人は逮捕された」と報道している。
    、イスラエル軍は犯人逮捕について何もコメントを出していない
    ・パレスチナ政府側は事件を非難、パレスチナ側軍事組織ハマスは報復を示唆
    ・パレスチナ側の報復攻撃の内容

    など、かなり詳細な情報を載せている。


  3. CNN.COM
    次にアメリカ、CNN(記事全文はこちらはこちら

    Israel: Gaza pullout moving quickly(CNN.com ヘッドラインのみ)

    3 Palestinians killed in West Bank shooting

    From Guy Raz and Paula Hancocks
    CNN

    Wednesday, August 17, 2005; Posted: 4:47 p.m. EDT (20:47 GMT)

    JERUSALEM (CNN) -- Despite some resistance, authorities said Israel's historic withdrawal from Gaza was progressing rapidly Wednesday, predicting that 10 out of 21 Jewish settlements would be cleared by the end of the day.

    (訳)ガザ地区の撤退作業、迅速に進行中
    ヨルダン川西岸でパレスチナ人射殺される。

    若干の抵抗はあるものの、イスラエル当局は「歴史的なガザ地区からの撤退作業は、迅速に進行している」とのコメントを発表。今日中に21の入植地のうち、10の入植地で撤退作業が完了すると予測


     ヘッドラインは以上。銃撃をメインに扱った記事ではなく、ヨルダン川西岸からの入植者排除中の一事件として扱っている。
    全体的な論調としては、「撤退作業は非武装のイスラエル兵によって問題なく行われている」という論調になっている。また、パレスチナ武装組織側の報復攻撃について情報(犯行声明を出した組織)がやや詳しい。
      「(中東和平を推進しているアメリカの威光のおかげで)、問題は良い方向に向かっている」という方向で世論を誘導するための記事と見るのはうがちすぎか。


  4. BBC
    最後に、イギリスBBC(記事全文

    このサイトには、銃撃事件単体を扱った記事と、cnnと同様、この事件をヨルダン川西岸からの入植者排除中の一事件として扱った記事がある。ここでは、CNNとの比較のために後者を扱う。

    Israel expels Gaza Strip settlers

    Israeli police and troops have evicted hundreds of Jewish settlers who were refusing to leave the Gaza Strip.

    (訳)イスラエル警察と軍は、ガザ地区からの退去を拒否している何百人ものユダヤ人入植者を立ち退かせた。


    ヘッドラインに続く文でも、
     Many sobbed or shouted defiance as they were taken from their homes, schools and synagogues and hauled onto buses.
    とあり、すすり泣き、叫びながらバスに押し込まれる入植者の描写がある。

    "Expel(追放する)","evict(強制退去させる)"など、強い表現が目立つ。CNNとBBC、同じ事象を扱っているのに、これだけの表現の差があるのは驚く。

     この後、事実関係や、パレスチナ、イスラエル双方の首脳がこの事件を非難している事、犯行の動機が分かっていない事などが書かれている。

  5. 感想

     新聞は、やはり受け手(読者)の好みを意識した方向で、記事にバイアスがかかる。これは商業的にはある程度仕方ない部分もあり(売れなければ作れない、という事)、今後無くなっていく事は無いと思う。ただ、読者側はそれを頭に置いて、一つの事象でも、いくつかの角度から見ていく事が必要になるかと思う。

      一点、毎日新聞に苦言を。

      記事の最後に「ガザ撤退に不満を募らせ、腹いせにパレスチナ人を殺害した可能性もある。」 との一文は余計ではないだろうか?他のサイトを見る限り、「逮捕されたものの、動機についてはコメントしていない」「イスラエルメディアは逮捕を報道、イスラエル軍は逮捕を確認していない。」と、事実に基づいた報道をしている。
      確かに可能性として否定はできないだろう。しかし、これはあくまで記者の予断に過ぎない。予断を事実の最後に滑り込ませる手法は、もっとも狡猾なものに思える。

 


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