国連安保理入り活動に思う。
一時期活発に報道されていた、日本の国連常任理事国入り活動のニュースを聞かなくなった。アフリカ諸国の票のとりまとめに失敗した結果、今回は実質的に常任理事国入りの道が閉ざされたためと思われる。「お金は出すが、口はださせてもらえない。」そんな不満を解消するためにも千載一遇のチャンスだったらしいのだが。。
この資料によると、国連の資金のうちの20%を日本が負担している。ちなみに同じく20%前後を負担している事になっているアメリカについては、負担金の不払いがしばしば問題になる事を考えると、実質的に「国連最大の株主」は日本という事になる。これが、「お金は出しているのに」という不満の源泉である事は間違い無い。
日本は「国連中心外交」を標榜している。標榜しているのに肝心の国連、特にその中核的な機関である国連安保理ではそれほど大きな発言力を持っている訳ではない。その象徴的な事例が、常任理事国になれない事だ。では、「国連安保理の常任理事国になれば良い」という流れで、常任理事国入りが論議されているように思われる。
安保理の構成、決議課程については、この資料(早稲田大学法学部、水島ゼミ)が詳しい。国連安保理はしばしば機能不全に陥る。その最大の原因が常任理事国(アメリカ、イギリス、中国、ロシア、フランス)による拒否権の発動である。これはある議決をする場合に、上記の五カ国のうち一カ国でも反対すれば、その議案が否決されるというシステムである。 これは、議決の公平性という面では極めていびつな形ではあるが、一方、大国の脱退、大国間の戦争を防ぐという意味では一定の意味を持つと思われる。
それでは、日本が安保理常任理事国の席を手に入れたらどうなるのか?
・拒否権を持った常任理事国の席が得られた場合
→
更に安保理が拒否権の発動によって機能不全を起こす可能性が高くなる。
・拒否権を持たない常任理事国になった場合
→ 常時、国連の安保理に出席可能となり議決権を保持できる。
この事について特に問題は無い。しかし、国連に取ってのプラス側の影響も少ないのではないだろうか。現実的に考えて、日本がアメリカと異なる方向で議決に臨むとは思われない。近年、一国主義に傾斜しているアメリカの後押しをする事が、世界の安全保障上有益だとは思えない。
国連(特に安保理)は、世界全体の多様性を反映する方向で改革されていくべきだと思う。そのためには、インド、ブラジル、あるいは南アフリカなどの地域大国が安保理の常任理事国入りする意味は大きい。一方、日本については、「多様性の追加」という面では大きな意味を見いだせない。
上記の意見は、「国連から見た場合」の損益だが、ちなみに日本の外務省は、このページで、日本の国益から見たメリットを述べている。これについては、意見を述べたい部分もあるが議論が拡散するため、ここではリンクを載せるに留める。
言わずもがなの事ではあるが、ある組織は、その組織を構成する人々の意見に従って動く。国連も組織である以上、当然、この基本的な法則に従うと思われる。
もちろん、日本人でも明石国連事務次長や、緒方国連難民高等弁務官のように、広く名前を知られた人々がいる。ただ、ここで言いたいのは、全国連職員の数に占める日本人職員の数の割合である。この資料によると、その比率は2.8%。拠出金の割合や、「日本が国連中心外交を標榜している事」を考えると、かなり少ないと言わざるを得ない。この原因は何だろうか?
1.言葉の壁
国連に人的貢献をしたいとする。国連広報センターの人員募集ページを見て貰うと分かるが、国連の職員になり国外でプロジェクトに携わる際には、以下のような言語条件がつく
行政、経済、電子情報処理、財務、法務等の専門職員 |
英語かフランス語が流暢に使える事 |
言語担当職員 |
国連公用語のうち、最低でも2つを流暢に使いこなせる事
(国連公用語は、 アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語の六言語) |
となっている。このうち、海外のプロジェクトサイトで働く際には、国連公用語のうち、最低二つは話せる必要があると聞く。
つまり、日本人にとっては英語を流暢に話せるだけでは足りず、更に、残りの五言語のうちの一つを選んで、ネィティブ並にはなせるようにならなければならない。すでに、この時点で人的貢献に大きなハンディキャップをおわされる事になる。では、このハンディを取り除くにはどうすれば良いのか? もっとも手っ取り早い方法は、日本語を国連公用語の一つにねじ込んでしまう事だろう。話者人口を見ても、日本語、ドイツ語は、すでに国連公用語として認められているフランス語より上位にある。
このページを参照 http://wedder.net/kotoba/languages.html
少なくとも、安保理の常任理事国入りよりも、ハードルとしては低い筈である。
2.収入の問題
それからもう一つ。国連職員を他の職業と横並びで較べた場合に、収入面での魅力が少ない事が挙げられる。前述のこのページでも述べられている通り、国連職員になる事が日本での就職、転職に不利になるようでは、有能な人々は他の分野に流れていく。 少々過激な意見だが、例えば「国連職員をXX年勤めると、好きな国の大使館や、世界展開している大企業の重役辺りに天下りできる」「高額の退職金、年金を保証される」などのメリットがあれば、国連職員を目指す人は一気に増えるだろう。
ニンジン作戦のそしりを受けるかもしれない。しかし、それを言うなら今回、日本が安保理入りのために行った見境無いお金のばらまきも、同じ発想に立ったものではないだろうか。しかも、必要な金額は、こちらの方がずっと少ない筈だ。
上記の問題を解決し、日本国籍を持つ国連職員の数を増やす。時間はかかるかも知れないが、他国からの反対を受けにくく、確実な国連内での地位向上方法ではないだろうか。
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